フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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前半戦も残り3分。何とかボールは雷門側がキープしているが……、問題は1点取られてしまった、ということだ。

「どうするんだ?このままだと負けになるけど、点を取りに行けば…」

困ったように塔子ちゃんがそう言う。
そう、負ければ、勝利の味をしめた佐久間たちは影山の支配下から逃れられなくなり、かと言って勝つために得点を狙いに行けば源田がビーストファングを使う。板挟みである。

「……、点を取りに行こう」

悩んでいた様子の鬼道がそう口を開いた。

「え、けど……」

「点を取るって…そしたら……」

心配そうにみんなが鬼道を見る。そんな鬼道は私の方を見た。

「水津。お前の必殺技なら源田に必殺技を使わせる前に、シュートを決めれるかもしれない」

『…!』

そうか。私の必殺技。初見殺しのレインドロップなら確かに可能かもしれない。

「なるほど!」

「あれなら…!」

うんうん、とみんなも頷いている。

「頼むぞ、水津」

大きく頷いて、最前線へと走り出す。
残り2分。みんなが繋いでくれると信じて、全力で駆ける。

風丸がキープしていたボールが、真・帝国の守備を潜って、土門、塔子、鬼道と前へ前と繋がる。

「水津!」

ダイレクトに届いたボールをつま先でぽんぽんと2回リフティングして大きく宙へ蹴りあげれば雨雲がかかった。ボールを追って高く飛び上がり。雨雲の中に突っ切って、そのまま空中前転し、踵でボールをグラウンドに叩き落とす。
雨粒と共に勢いよく落ちるボールは、ゴールの手前側に向かって落ちていく。

「なっ、シュート!?」

今まで、ボールをキープしていただけの私がシュートを打つと思っていなかったのか、真・帝国側のDFは機能していない。
ゴール前には源田ひとり。

「ビーストファン、グ…!?」

両手の手根を合わせ、前に突き出し花のように開きかけ、源田はハッと目を見開いた。

技を発動する前に、シュートされたボールがゴール前の地に落ちた。

「まさか!」

そう言って源田はビーストファングの状態を解除して慌てて右に手を伸ばした。

「グアッ、アアアアアッ!!!」

手を伸ばし、落ちた反動跳ねたボールに反応出来ていたが、源田は急に悲鳴を上げ、胸を抑えその場にうずくまった。

『あ…、』

源田の右手に当たることがなかったボールはそのままその勢いでゴールの中に入り、ピィー、と審判が得点のホイッスルを鳴らし、その後ピッピーとホイッスルが鳴る。

「ここで前半戦が終了ー!!得点はなんと、1対1の接戦です!」

角馬くんの実況を聞きながら、地に伏せる目の前の源田に視線が向く。
ダメ、だった。途中でキャンセルしたからキャッチのモーションまでいってないが、それでもこのダメージ。

『源田、』

近づいて手を貸すためにしゃがめば、顔を上げた源田に睨まれた。

「…ぐッ、敵の、手は、借りん」

そう言って源田は、ひとりでに起き上がった。

『ごめん…、私のせいで、』

「ハッ…何を、謝ることが、ある。お前も結局は、勝利を目指している」

苦しそうな源田は息を大きく吸い直したあと、真っ直ぐにこちらを見下ろした。

「……そのためにお前は、俺たちがこうなると知ってそっちを選んだ。そうだろう」

『それは……、』

言葉に詰まれば、源田はフンと鼻を鳴らし、自分たちのベンチの方へと、重い足取りで歩いて行った。



「水津」

名を呼ばれ、ポンと肩を叩かれた。

「大丈夫か?」

振り返ったら染岡がいた。
何か最近、心配されてばっかりだなぁ。でも、その心配のおかげでちょっと、落ち着く。

『結局、どうすれば良かったんだろうね…』

何をやっても上手くいかない。世宇子の時もみんなが怪我しないように、って思って立ち回った筈なのに、なんの意味もなかった。
やっぱり今回もなんの意味もないのかな。

点を取ったのにこんなにも手放しで喜べないことある?


ベンチに戻れば、みんなも絶望的な雰囲気だった。

「佐久間も源田も、大丈夫なのか…?」

こちらのベンチから見える向こうのベンチの様子では、佐久間と源田は息を荒く肩で吸ってい様子だ。顔も青くどう見ても体調が悪そうだ。

「……恐らく、あと2回が限界だ。それ以上あの技を使えば……」

鬼道がそう言えばみんなが、2回…と確認するように呟く。

『1回でアレだもん…。いや、1回も使わせちゃダメだったのに……』

「梅雨、あれはしょうがないって。まさか途中でキャンセルしてもアレだけのダメージだなんて思わないもん」

そう言って塔子ちゃんがフォローをくれて、土門が頷く。

「ああ。おかげで点は取り返したんだ。このまま同点で引き分けで終われれば……」

「引き分けは認めないわよ」

キツい言い方で口を挟んできた瞳子さんの言葉に、みんなが、ええっ!?と困惑の声を上げた。

「監督…?」

「後半は私の指示に従ってもらうわ。吹雪くんはFWに戻って。みんな勝つためのプレイをしなさい」

「それじゃあ、佐久間くんたちが…!」

秋ちゃんがそう言えば、瞳子さんはギロリと彼女を睨んだ。

「これは監督命令よ。私の目的はエイリア学園を倒す事。この試合にも負けるわにはいかない!」

瞳子さんの気迫に圧倒されたみんなは黙ってしまった。

『瞳子さん。勝利ってなんですか』

「どういう意味かしら」

『貴女も、影山さんも、佐久間も源田も不動も、みんな勝つことが全ての様に言うけど。その先の事は考えないんですか?奈良でジェミニストームと戦った時は、先を考えてたじゃないですか!!』

奈良の時は次の勝利のために敗北した。

「……、あれは勝つために必要だった工程よ」

『子供たちの未来を守るのは必要な事じゃないんですか?たった1度の勝利のために、子供たちが生涯ボールを蹴ることさえできなくなってもいいんですか?』

そう訊ねれば瞳子さんは顔を歪ませた。

「……私は、どんな事をしても、勝たなくてはならないのよ」

そう言って目を逸らした、瞳子さんを見て雷門イレブンたちがどよめいた。
今勝つ為に佐久間たちがどうなってもいい。それが彼女の答えだが、そこまで非道だとはみんなも思ってなかったのだろう。

『……分かりました』

結局、瞳子さんも変わらない。
私が何をしても、何を言ってもこの世界は変わらない。

『みんな、勝つための試合をしよう』

「え、」

「水津…?」

心配そうにみんながこちらを見つめる。

『前提として佐久間にシュートは絶対に打たせない。そして、源田には、必殺技のモーションすら出来ないほどに速いシュートを決める。これしかない』

「……そうだな。みんな、勝とう。それが、アイツらの目を覚まさせる事になる」

「鬼道まで……」

「いいのか?」

円堂が聞けば鬼道は、ああと頷いた。

「分かった。絶対に佐久間にボールは渡さない」

任せて、と一之瀬が胸を叩く。

「けど勝つには、源田さんが反応出来ないほどに素早いシュートが必要なんっスよね…」

壁山がそう言えば、吹雪がハッと鼻で笑った。

「任せろ。俺が点を決めてやる」

速さには自信があるもんね。

「よし、行くぞ」

おお!と皆、返事をしてフィールドに向かう。勝つために。

一寸先は闇
だとしても。
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