フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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「今度はお前が敗北の屈辱を味わう事になる」

そう言って、地に膝を着いた鬼道と決別するように踵を返した佐久間と源田と目があった。

「話は終わったのか」

『…そっちもね』

佐久間達の奥では、彼らに拳を突きつける円堂もいて、なんとも言えない表情をしている事から、知ってる通りの事が起きたんだなと、察する。

「で、水津チャンはこっちに来んの?」

佐久間と源田を押し退けて、不動が近づいてきた。

『丁重にお断りしたよ。私の意思は変わらない』

「ふぅん」

そう言った不動が首からぶら下げたペンダントの石がキラリと光った。

「負けると分かってる試合に挑むなんて、馬鹿なこった。大人しくこっちに着いた方が楽だってのになー」

そう大声で言いながら、不動は隣を通り過ぎていった。

『……』

やっぱり不動も影山から話を聞いてるからか、未来を知ってる私が動いているのは負ける雷門を勝たせるために、と思ってるようだな。
そう勘違いしてくれるのはとても都合がいいが…。

『負けないわよ』

勝ちもしないけど。この試合は。

「フン。お前がどうしようが、俺たちには秘策がある」

そう言って佐久間が不動の後を追うように通り過ぎた。

「オイオイ、水津チャンには知られてんだから秘策じゃねーじゃん」

振り返ってツッコミを入れる不動に、佐久間はツンとしたまま歩いて行く。

「水津が話したところで、棄権を選び俺たちから逃げるしかないだろうがな」

鬼道を睨みつけ吐き捨てるように源田がそう言って、彼も佐久間と同じように不動の後を着いて、奥の廊下に入っていった。

「…佐久間、源田」

地に膝を着いたままの鬼道が、悲しそうに2人の名を呟くが、彼らが戻ってくる事も足を止めることもなかった。

「水津!影山に何もされなかったか!」

円堂がタッタッタッと目の前に駆けてきた。

『うん。勧誘はされたけど断ったし、近づいたり触ったりした瞬間、リフティングボールで顔面にシュート決めてやるって言ったら随分と大人しかったよ』

「そっか、流石水津だな!」

うん?いや、何が?

『とりあえず円堂、みんなを呼んできて。あ、マネージャー達には急いで救急箱も持ってきてもらって』

そう言って鬼道の方に顔を向ければ、円堂も意味が分かったのか、ああ!と頷いて皆を呼びに駆けていた。

『鬼道、大丈夫?』

近づいて、しゃがんで目線を合わせるが、鬼道は地を見つめていた。

「水津。…なぜ、1人でついて行った」

みんなが心配してわざわざ円堂を付けたのにって事だよね…。

「お前が俺たちを危険な目に合わせようとしない事は分かってる。だが、俺は、俺たちはそんなに信用がないか?」

そう言われて思わず黙ってしまった。
信用してないわけじゃない。
というか、佐久間と源田のことで傷ついてるはずの鬼道に、信用してるって即答してあげられなかったのダメじゃない?

『……ごめん。君たちが信用できないじゃないよ?どちらかと言えば信用出来ないのは自分自身だし』

「…哲学じみたことを言うな」

はあ、と大きなため息を吐いて鬼道は立ち上がった。それにつられて同じように立ち上がる。

「本当に影山には何もされてないのか?」

『ん。大丈夫だよ。円堂にも言ったように勧誘も断ったし、リフティングボールを武器にしたし』

ポンポンと鬼道の頭を撫でる。

「……なぜ、お前はあの態度で影山相手に無事に帰って来れるんだ」

『それは、前に帝国にお邪魔した時も世宇子に乗り込んだ時も私も思ったわ』

みんなが言う影山が私の事を気に入ってるってやつのお陰かもしれない。

「影山とは何の話をした」

『それは……、』

「言えないのか?」

『いや。とりあえず、君のその腹の治療しながら、話そうか』

円堂から佐久間にボールをぶつけられた話を聞いたのか、鬼道を心配して救急箱を抱えた春奈ちゃんがいの一番にグラウンドに飛び込んできた。




『さて、』

鬼道の治療は春奈ちゃんに任せ、後からやってきたみんなを前に口を開く。

「影山との話の内容を聞かせてちょうだい」

目の前に立ち、瞳子さんが髪を払う。

『さっき、みんなの前でも言ってたように、エイリア皇帝陛下ってのの力を借りて今回脱獄したらしい。影山は雷門中に復讐がしたい。エイリア学園側からすれば対抗してきて目障り。意見が一致したからって事だね』

「ああ、そこまでは推測できる。だが、わざわざお前を呼び出してそれを聞かせた訳ではないだろう」

春奈ちゃんに治療されながら、こちらを見て聞いてきた鬼道に、うん、と大きく頷く。

『今は意見が一致してるけど、いずれは寝首を搔いてやろうってことみたいで。力が欲しいみたい』

「それで、水津さんを?」

『らしいですよ。大方なんでも知ってる私の事を、影山自身が使ってやるのが1番だって思ってるぽくて』

大真面目にそう言えば瞳子さんは、ふむ、と顎に手を置いて考える仕草を見せた。

「確かに水津の知識量には驚かされたな。…影山は以前から水津のトレーナーとしてのスキルを評価していたしな」

鬼道が、なるほどと呟くが、全然なるほどじゃないんだよね。
遠回し過ぎて全然伝わんなかったな。でも私嘘はついてないからね。

「それで、1人で影山と対話して平然と戻ってきた貴女が、向こうの工作員になってない、という証拠は」

瞳子さんが淡々とそう言えば、雷門イレブン達が幾人か、えっ?と声を上げた。

「梅雨を疑うのか!?」

驚いたように塔子ちゃんがそう言えば、瞳子さんはええ、と頷いた。それから、それで、とこちらを見つめた。

『証拠なんてもんはないですよ』

「そう。では、試合には出せないわ」

あー、そうなるのか。そりゃあそうだわ。

『それは困る』

「どうしてかしら?影山に雷門イレブンに入って連携を崩せ、とか言われているんじゃないかしら?」

『いや、そうなら今ここでハッキリと困るなんて口に出すわけないでしょうよ』

「監督!水津は俺たちを裏切ったりなんかしないです!」

「そうですよ!」

私を庇うように、円堂と春奈ちゃんが声を上げる。
現状いろいろと説明しないのは裏切ってるようなもんだし、心が痛えよ…。

「では、逆に聞くけれど、普段試合に出たがる素振りを見せない貴女が、出ないと困る理由は何?」

『それは……』

……言っても、大丈夫だよね。
遅かれ早かれ分かることだし、できるなら彼らに痛みは少ない方がいい。

みんなの視線が私の方へとひとつに集まる中、私だけは鬼道に視線を向ける。

『佐久間と源田が皇帝ペンギン1号と、ビーストファングを使うから』

「それは……っ!」

絶望したような顔で鬼道が息を飲む。

こればっかりは、全力で止めたい。
普段なら関係ない自分は試合には極力出たくないが、今回ばかりは、他人事で済ませたくない。ただのエゴだけど。半田たちの時は、無視した癖にと後ろ指を刺されるかもしれない。それでも、あの時ほどの後悔をまた繰り返したくない。ヒロトに臆病者だと言われたのも癪に触ったし。

「皇帝ペンギン1号…?2号じゃなくて?」

「それにビーストファング…?」

風丸と円堂が首を傾げる。練習試合の時も地区大会で戦った時も、出てこなかった技だ。

「……皇帝ペンギン1号もビーストファングも、禁断の技だ」

震え声でそう言った鬼道に、皆がえ?と聞き返す。

「禁断の技ってどういう意味だ?」

「皇帝ペンギン1号は影山零治が考案したシュート。恐ろしいほどの威力を持つ反面、全身の筋肉は悲鳴をあげ激痛が走る。身体にかかる負担があまりにも大きい為、二度と使用しない禁断の技として封印された。あの技を打つのは1試合2回が限界…3回目は……」

「…二度とサッカーが出来なくなるって事か?」

言葉を詰まらせた鬼道に変わって円堂が続け、私の方を見た。

「じゃあ…ビーストファングってのも」

鬼道が頷く。

『佐久間にシュートを打たせない。源田にボールを取らせない。そのために、今回ばかりは私が適任』

シュートの威力も自信はない。ディフェンス力も止められるようなものはない。けれど、唯一私の得意分野。ボールを肌身から離さない。

「確かに、帝国戦でもやってみせたな……」

「ねぇ、そもそも、試合をしなきゃいいんじゃない?」

秋ちゃんがそう言えば、土門が確かにと声を上げる。

「そうすれば2人は技を使うこともない!」

「それは『ダメだよ』

認めない、と恐らく言おうとした瞳子さんに被せる。

「なんでだよ、水津!?」

『私らが戦わなかったとして、強さを求める彼らは結局そのまま他のチームと戦う。そうなった時、何も知らない対戦相手は、シュートを打つ。そしたら源田はビーストファングを使うでしょ』

「俺たちが試合放棄しても、何も変わらない、と言うことか……」

『寧ろ、私たちなら対策ができる。彼らを救うなら今しかない。影山が私に、この事を教えたのも、怪我がトラウマな私が彼らを見捨てるわけがない、と思ったからでしょうね。彼らを守るために試合放棄すれば、こちらの敗北。彼らを守るために試合をすれば
、絶好の復讐の機会を得れる』

「そのために伝言役として、貴女は何もされず帰された、と?」

はい、と大きく頷く。いやまあ、影山云々は嘘ですけどね。彼からは聞いてないし。

『なんの証拠にもならないでしょうけどね』

「……そうね。鬼道くん、佐久間くんと源田くんは貴方のチームメイトだったんでしょう」

「だった、ではありません」

治療を終えた鬼道は真っ直ぐ瞳子さんの方を向いた。

「今でもチームメイトです」

「そう…。今日の試合貴方に任せるわ。水津さんを使うかどうかも」

「!…ありがとうございます」

そう言って鬼道は深々と頭を下げた。

「ここで俺たちが、アイツらの目を覚まさせ無ければ、ずっと影山の支配下に置かれてしまう。そして、いずれあの技を使う…。やはり、ここで救い出すしかない!みんな協力してくれるか?」

鬼道が試合をする意思を見せれば、みんなは、無論だと言わんばかりの大きな声で、おう、と返事をした。

「水津、お前が作戦の要だ。よろしく頼むぞ」

そう言って鬼道は、私の肩をポンと叩いた。


信頼
真っ直ぐに向けられたその感情を裏切らない為にも、全力を尽くそう。
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