フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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「なんだアイツ?」

染岡のその言葉に、ん?と首を傾げて彼の見ている窓の外を見る。
そこには、驚いたような顔でサッカーボールをキャッチした円堂と、数日前に見た覚えのある少年がいた。
円堂の後ろに秋ちゃんや夏未ちゃんが駆け寄るのも見える。

『ああ、不動か』

「知ってんのか?」

『この間、話しかけてきた不審者』

「って事は、やべぇ奴じゃねーか!吹雪!」

染岡が声をかければ、吹雪はうん、と頷いて立ち上がり、バスのステップへと向かって行く。
つられて立ち上がり、一緒に向かおうと思えば、染岡に止められた。

「お前はここで待て。アイツ、お前の事連れていこうとしたんだろ?」

『そうだけど、大丈夫よ。流石に十数名対1よ?多勢に無勢すぎるでしょ』

そうだけどよぉ、と染岡は悩む素振りを見せた後、ったく...と一息ついた。

「しょうがねぇ。危ねぇから、あんま離れんなよ」

『うん』

染岡って意外と心配性だよね。
まあ兄貴気質ってやつなんだろうな。

先に行く染岡の後についてバスを降りる。

「すぐに分かるような嘘を何故ついたの?」

降りた矢先で、あのメールが偽物だと気づいていた瞳子さんがそう尋ねていた。
まあ、前日になんの罠か分からないから関わるなと電話で言っていた響木さんから、影山を追って愛媛に向かえってメールはおかしすぎるもんねぇ。

「おっ、」

不動は、こちらを見てニヤァと笑った。

「水津チャンじゃん」

1歩不動が歩み寄れば、ばっ、と瞳子さんが右腕を横に伸ばし、塞ぐようにした。

「質問に答えなさい」

瞳子さんがそういう横で、染岡にも、みんなの後ろに居ろと押しやられる。

「護られてんねぇ!まあ、いいや。オヒメサマから聞いてっかも知んねぇけど、俺、不動明王ってんだけどさぁ」

えっ、気持ち悪い呼び方しないで欲しいんだけど。

「俺の名前でメールしたらここまで来たのかよ?」

まあ普通に警察に通報して終わりよね。

「響木の名前を騙ったから色々調べて愛媛まで来たんだろ?違うか?」

不動がそういえば、瞳子さんはほんの小さく鼻で笑った。

「そうね。で?貴方の狙いは何。水津さんを拉致する気ならこんな大勢の前ではしないでしょう?」

「拉致だなんて人聞きの悪い。勧誘しただけだぜ?アイツらと同じ様に」

アイツら...?と皆が疑問に思う中、不動はククッと笑って、鬼道の方に視線を移した。

「アンタ鬼道有人だろ。うちにはさァ、アンタにとってのスペシャルゲストが居るぜ!」

「スペシャルゲスト?」

鬼道が怪訝そうな顔をすれば、不動はさも楽しそうな顔をした。

「ああ。かつての帝国学園のお仲間だよ」

「何っ!?」

驚く鬼道を不動が鼻で笑い、他のみんなもそんな事があるわけ...、と鬼道と不動と視線を行ったり来たりさせている。

「......ありえないっ、影山の汚さを身を持って知っている帝国学園イレブンが、アイツに従う筈がないっ!!」

「そうだ!絶対ありえない!!」

「下手な嘘つくんじゃねーよ!!」

円堂と染岡が鬼道に乗っかるように、そう言い返せば、不動はハア?と不服そうな顔をした。

「だったら俺の目がおかしいのかな?なぁ、水津チャン?」

『おかしいんじゃない?』

そう即答すれば、不動は、ふーんと冷たい目でこちらをみた。

「教えてやんないんだ。鬼道クンは仲間じゃねえの水津チャン?」

不動の言葉に何を言ってるんだと、皆の視線が不思議そうにこちらに集まる。
うーん、この感じスパイ騒動以来だな。

『上手だね。みんなに私に対する疑念を抱かせて、仲違いさせようだなんて』

「えっ、そうなんッスか!?」

「危うく騙されるところだったでやんす!」

素直な1年生達が、キリッと眉を釣り上げて、不動の方に向き直し彼を睨みつけると、クククッと不動は笑った。

「上手いのはどっちだか。まあいいさ、とにかく乗り込めよ。真相は真・帝国学園に着いてからだ」

そう言って不動はイナズマキャラバンを指さした。

「誰がお前の指示なんか...!」

「お前らだけで到底見つけれねぇからわざわざ来てやったってのに...、いや、そうか。そっちには水津チャンがいるんだもんなァ?俺が教えなくても知ってるか」

『知るわけないでしょ』

愛知県で、海の中からこんにちは、してくることは知ってても、出現の正確な位置まで知ってるわけじゃない。

「ふーん、」

「水津と影山を結びつけようとしても無駄だ。俺たちは水津がどんな奴か知っている」

鬼道がそう言えば、不動はへぇ〜と呟いてニヤニヤと笑った。

「とりあえず、みんなキャラバンに乗って。不動くんも」

瞳子さんがそう言えば、皆からえーっ!とブーイングの嵐。

「案内のため同乗許可はするけれど、変な気は起こさないように」

「へーへー、分かってますよ」

「さあ、みんな早く乗ってちょうだい」

瞳子さんがパンパンと手を叩いて急かし、皆がぞろぞろとキャラバンに乗り込んでいく。

「へぇ、意外と広いんだな」

「お前はこっちだ」

勝手に奥の方に入っていこうとする不動を鬼道が引き止め、入ってすぐ、1番前の席に不動を座らせる。

「おいおい、鬼道クン以外隣座ってくんねぇの?」

普段は鬼道の隣に座っている塔子ちゃんも流石にあの席には座りたくないのか、入口で足踏みしてる。

『塔子ちゃん、染岡と吹雪の隣座りな』

「えっ、けど水津は?」

『しょうがないから、アイツの隣座る』

そう言って、不動の隣に腰を下ろす。

「おい、バカ!水津!近寄んなっつったろ!!」

明らかに怒った顔した染岡に怒鳴られた。

「水津さん、危ないよ」

吹雪にまでそう言われる始末。

『いや、けど、流石に塔子ちゃんをコレの隣に座らせるの可哀想じゃん?』

「お前らさっきから、人の事危険人物みたいに言いやがって」

隣で不動がそう言うので、だって、ねぇ?と通路の向こうのみんなと顔を見合わせた。

「人攫いしようとしただろ」

「メール詐欺もしたし」

「円堂に向かっていきなりボール蹴りつけてたし!」

『モヒカンだし』

「そりゃあそう...いや、モヒカン関係ねぇだろ!」

染岡、吹雪、塔子ちゃんが言うのに合わせてそう言えば、見事なツッコミをくれた。

不審人物
そんなやつの隣にわざわざ座ったのは、余計なこと言ったらいつでも物理的に口を塞がせるためである。
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