フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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『助けてくれてありがとう。それじゃあ』

言葉だけの感謝を述べて、さっさと逃げようと歩き出せば、ヒロトは何も言わず後ろを着いてきた。
漫遊寺中へと向かいながら、歩くスピードを早くすれば、彼も早くなる。試しに遅くなって見れば彼もゆっくりになった。

『怖いんだけど!?』

思わず声に出して振り返れば、ヒロトはピタリと足を止めた。

「そう?」

『そう?じゃねーよ!!』

思わずツッコミを入れてしまったので、仕方ないが対話しようと腹に決める。

『なんの用?意味無く助けたわけじゃないでしょう』

「俺が親切心で助けたらおかしい?」

『そりゃあ、そうでしょ。だって君は、宇宙人、なんだから』

そう言えばヒロトは少し口角を上げた。

「ああ、異世界人の君から見たらそうだろうね」

まあまあ、この辺は影山から流れ出ててもおかしくないんだけど。
やっぱり引っかかるのは影山には言ってない事を知っている第三者の事だ。

『誰から聞いたの』

「あれ?否定しないんだ」

『うん。君も否定も肯定もしないってことはそういう事でしょう』

「どうだろうね。教えてあげてもいいけど...。さっき助けた礼もまだだったよね」

そう言ったヒロトを見て、対話を試みるんじゃなかったと後悔する。私の心、邪念しかないのに宇宙人と対話出来るわけないよねー!

「教えてあげる代わりに俺と一緒に漫遊寺中に行こうか。どのみち向かう予定だったんだしいいよね」

有無を言わさずそう言って、次の瞬間周りが紫色の光に包まれて思わず目を瞑る。
再び目を開けた時には、漫遊寺中の校舎の中で、サッカーグラウンドが上から見下ろせる位置だった。
アフロディの時も思ったけど、瞬間移動マジで凄いな。


「そして、さっきの礼として今日の試合は出ないで欲しいな」

そう彼が言うのと同タイミングで、携帯の通知音が鳴った。











プルルルル、プルルルル、と音が聞こえる携帯を耳に当てたまま、秋は首を振った。

「ダメね。出ないわ」

「水津のやつ、何処まで洗剤買いに行ったんだよ」

「こんな時に...!」

そう言った雷門イレブン達の、目の前には敗北した漫遊寺中サッカー部と、新たなる敵イプシロンがいた。

「どうした。試合をするのではなかったのか」

イプシロンのキャプテン、デザームがそう問う。

「試合はやる!」

「けど、キャプテン!水津先輩も居ないし、目金先輩も...」

怪我の原因となった壁山が目金の様子を伺いつつそう言う。

「だったら、10人でやるまでだ!」

円堂がそう言えば、エエッ!?と栗松が驚きの声を上げる。

「10人で!?」

「このままアイツらの好きにはさせられないだろ!!」

「それはそうでやんすが...」

円堂の言葉を聞いて、栗松は不安そうな声を上げる。

「11人目ならいます!!」

大きな声で春奈はそう言って、ある人物を手のひらで指した。

「木暮くんです!」

「こっ、」

「「「木暮ぇ!?」」」

みんなが驚きの声をあげる中、誰よりも名指しされた木暮が驚いている。

「木暮くんだってサッカー部の一員です!」

「でも補欠だろ?大丈夫かよ、そんな奴入れて」

「下手にウロチョロされても邪魔になるだけだし...」

染岡と土門がそう言えば、春奈が大丈夫です!と言い切り、後ろで木暮がエ"ッと嫌そうな声を上げた。

「梅雨先輩だって、木暮くんには才能があるって言ってましたもん!!」

その言葉に、本当か〜?と疑うように雷門イレブン達...特に、いたずらに2度引っかかった塔子が睨みつけるように木暮を見て、彼は完全に萎縮してしまっていた。

「本当ですって!木暮くんなら大丈夫です!だから、お願いします!!」

そう力説する春奈の前に、1歩、円堂が出る。

「キャプテン!お願いします!」

真剣な顔をしていた円堂は、にっ、と口角を上げて見せた。

「わかったよ、音無」

その返事にみんなが、ええっ!?と驚きの声を上げる中、キャプテン!と春奈は嬉しそうに手を叩いて両手を握った。

「いいですよね、監督」

「好きにすればいいわ」

瞳子監督の言葉を聞いて、春奈はありがとうございます、と深々と頭を下げた。

「さあ!」

切り替えて春奈が後ろの木暮の方を向く。

「で、でも、オレ...」

「なに怖気付いてんの!みんなを見返すチャンスじゃない!!」

「でも、だって...いや...でも...」

青い顔をして上を向いたり下を向いたり、挙動不審になった木暮に春奈は笑いかけた。

「大丈夫よ、木暮くんなら。私信じてるから」

その言葉に、木暮はえっ、と顔を上げた。

「オレを、信じてる...?」

「ええ。信じてるわ。木暮くんならきっとやってくれるって」

強い眼差しで見てくる春奈に木暮は困惑していた。



アジテーション
その様子を文字通り高みの見物していた。
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