フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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オレンジのバンダナを頭に巻いた少年垣田の案内により着いた蹴球道場に、漫遊寺中サッカー部の選手達を集めてもらい、今回の襲撃予告についてと、これまでの戦いの経緯の話をし、共に戦ってくれと頼んだ。

しかし、彼らは首を横に振った。
彼らは、心と体を鍛える為にサッカーをやっているのであって争うためではない、と。まあそう言う信条だからこそフットボールフロンティアにも出場していなかったんだろうけど...。

『なんで、宇宙人に話が通用すると思ってんだろうね』

同じ地球人同士だって国が違えば、言葉も違うし考え方だって違う。同じ言語だったとしても育った環境が違うだけで、簡単に話なんか通じないのに。

「だよな。話し合いでどうにかなるんなら雷門中だって傘美野中だって壊されてねぇつーの」

そう言う染岡は先程、話し合いで通じる相手じゃない!と説得しようとしたら、漫遊寺中サッカー部の影田に、邪念があるから、なんて言われたものだからご立腹のようだ。

漫遊寺サッカー部はそんな感じだったが、とりあえずキャラバンの停泊が学校側から許可が降りたので、漫遊寺の駐車場をキャンプ地とさせて貰う事になった。

「で、どうする?」

そう言って風丸が地面に腰を付ければ、2年生達は彼の周りに円の様に集まって同じよう腰を下ろした。

「どうするって言われても漫遊寺があれじゃあな」

「全然分かってないんだもんなぁ」

「考えても仕方ないさ!俺たちは俺たちで今出来ることをするだけだ!」

そう言った円堂に、出来ること?と一之瀬が首を傾げる横で、彼の幼なじみである風丸がなるほどと頷いた。

「特訓だな」

「ああ!相手はエイリア学園のファーストランクチーム、こっちももっと特訓して強くならないとな!」

グッと眼前で拳を握る円堂に皆がああと頷いた。

「そうと決まれば早速練習場所を探そう!」

一之瀬のその言葉に、皆が立ち上がるのを見て首を傾げる。

『あれ、吹雪は?』

ここで、女の子侍らせて登場しなかったっけ...?

「そう言えば居ないな。アイツ何処行ったんだ?」

居なくなった事への疑問じゃなかったんだけど、まあいっか。

「蹴球道場は一緒に出たよな?」

「戻って来る時にはぐれたのかな」

「アイツ、ボッーとしてるからなぁ」

確認するように言う土門と一之瀬の横で、やれやれと言ったように塔子ちゃんが手を上に向けた。

『この学校広いし、迷子になりそうよね』

まあ吹雪なら迷っても女の子引っ掛ければ、入口まで案内して貰えそうだけど。

「しょうがない。吹雪を探しながら、漫遊寺の生徒に聞いて練習出来そうな場所の情報収集をしよう」

鬼道がそう言って、皆、それがいいな、と頷く。

戻って来る時間を決めて、それぞれ散り散りに漫遊寺中内に入っていく。
もう夕暮れだし、先程より生徒が減っている。意外と聞き込み難しいんじゃないか。

まあ、吹雪や練習場所を探すのは皆に任せればいいか。
多分あの場に吹雪が来なかったのはいつものやつだ。
木暮とちょっと絡んだからいいだろうと思ってたけど、どうやらそうでもないようだ。
帝国との試合が決まるまでも、帝国が練習試合で20点目を決めなかったのも、風丸と豪炎寺と少し話をしただけで事が進んだから、今回もそれで良いと思ってたんだけど、何か条件があるのかな。

そう思いつつ、蹴球道場に向かう途中の部屋の前で足を止めた。
そこには素足で雑巾を蹴りあげ天井の掃除?をしている木暮が居た。

今までの感じで言えば、ただ話をするだけでよかったと思うんだけど、何を話すんだ...?彼を諭すのは私の役目じゃないだろうし。

うーん、と悩みながらも入口から雑巾を蹴る木暮を見つめる。
こちらに気づいてない彼は、3つの雑巾を器用に蹴りあげて天井に貼り付け滑らせて、掃除をし、落ちてきた物をまた蹴りあげて、と中々高度な動きをしている。

『フリスタ向いてそうだよなぁ』

ぽつり、と呟けば、その声でやっと気がついたのか、木暮は入口を見て目をクリクリとさせた。

「アンタ、さっきの!何しに来たんだよ!まさかここまで説教しに来たのか!」

子犬の様にキャンキャンと言いながら戦闘態勢を取る木暮に、思わず、ふ、と笑みが零れた。

『別に説教しに来た訳じゃないよ。まあさっきの謝って欲しいのは欲しいけど』

「...じゃあ何しに来たんだよ」

『いや、1人迷子になってその子探しに来たんだけど、銀髪のこれくらいの身長の男の子見てない?』

「知るかよ」

そう言って木暮は、ぷい、と顔を背けた。
なるほど、多分これは本当に知らないな。知ってたら彼の事だ。知ってるけど教えてやんねー!くらい言いそうだし。


「...なんだよ。人探ししてんだろ。さっさと行けよ」

『ねえ、さっきのもう1回やってよ』

木暮の話を無視してそう言えば、はあ?と半ば呆れたようなキレ方をされた。

「アンタ人探ししてんじゃないのかよ」

『うん。してるしてる。けどまあ、多分どっかで女の子引っ掛けてんだろうから邪魔しても悪いし』

「意味わかんねぇ」

『わかんなくていいよ。それよりさっきの雑巾蹴るのもう1回見せてよ』

そう言えば木暮は眉間にシワを寄せた。

「なんでそんなものそんなに見たいんだよ」

そう言われて、ん?と首を傾げる。

『ああ。私ね、フリースタイルフットボールってのやってて...えっと、その雑巾貸して』

「...?」

首を傾げつつも貸してくれた雑巾を丸める。

『うーん、流石にこれだと難しいか...。まあ、使い捨てのだし、いっか』

後ろで髪を括っていたカラーゴムを解いて、雑巾をなるべく球体っぽく丸めて止める。

『よし』

「何やってんの、アンタ?」

『ほっ、よっと、』

丸めた雑巾をボールに見立ててリフティングする。
重量が一定じゃないし中々飛ばすの難しいなこれ。

『こういう感じでボールを蹴ってリフティングする競技なんだけど』

リフティングを続けながら言えば、木暮はキョトンとした様子で、蹴りあげられる雑巾を見つめている。

『こういうのやってて、君の動きにそれに通ずる物があるなぁって!』

「ほうほう。中々器用な、お嬢さんじゃの」

「監督!」

木暮のその言葉と共に、後ろから、ふぉっふぉっふぉっ、と笑い声が聞こえて、慌てて動きを止めた。やっべ。
振り向くとそこには、法衣を着て笠で顔の半分を隠したお爺さんが居た。

『すみません。はしたないところをお見せ致しました』

「確かに、雑巾は蹴って遊ぶものではないのう」

「監督!オレは真面目に掃除してた、ました!」

そう言った木暮を思わず、コイツ、と横目で睨んだ。真面目にはやってなかったじゃん。
まあ、これは私がやった事だけどさ。

『すみませんでした』

もう一度頭を下げれば、よいよいと漫遊寺中サッカー部の監督は言う。

「ちゃんと分かっておる。木暮の知見を広めようとしてくれたのじゃろう」

そう私に言ってはいるものの、漫遊寺の監督は木暮の方を見ていた。
恐らく木暮が言ったことが嘘だと言うのを見抜いているのだろう。...まあ、この監督が彼の引き取り手だしね。
そんな監督の親心知らずか、こちらを見て怒られてやんの、と木暮は笑っているので、ここは敢えて監督に話を合わせて、はいと頷いた。

『彼の身体能力はフリースタイルフットボール向きだと感じまして、いち競技選手として彼に興味を持ってもらおうと思った次第です』

「ほう。フリースタイルフットボールとな?」

あっ、このくらいのお年の人には分かんないかな。

『えーと。簡単に言えば蹴鞠みたいな感じの競技で。さっきみたいに1人でボールを蹴ってやるんですけど』

「そうかそうか。お主から見て、木暮にそのような才があると」

『ええ。"掃除"をしていた姿を見ましたけど、毎回形を変え落ちて来る雑巾を落とさず拾い上げ蹴りかえせるのは凄いですよ』

球体で形の変わらないボールを連続して蹴るより遥かに難易度が高いと思う。

「なっ。ま、まあな!」

最初は驚いたような顔をしていたが、褒められて嬉しかったのか、木暮は胸を張った。

「オレくらいになれば、雑巾の1枚や2枚蹴るのなんて朝飯前っていうか...あっ」

自ら墓穴を掘った木暮は、ヤバっと言って直ぐに顔を青くしたが、最初から分かっていたであろう監督は木暮を咎めるような事は言わず、むしろ私の方に話題を振った。

「ならば、もうしばらく木暮に、そのフリースタイルフットボールとやらを教えてやってもらえるかの。無論、今度は雑巾でなくサッカーボールでの」

そう言って監督は、庭に転がったボールを指さした。


雑巾の件があるから2人もここは素直に言うことを聞いて。

仙風道骨
漫遊寺の監督に見守られながら、木暮にフリスタを教えるという変なことになった。
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