フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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ノリクラッチを習得した子達は満足して、その後はみんなスノボードの練習に戻った。

翌朝、マネージャー達と朝ごはんの準備を終えて、男の子たちを起こしに行けば今日はまた随分と人が居ない。
円堂、風丸、染岡の3人は一緒にスノボードの早朝練習してるんだろうけど。
鬼道と一之瀬と土門はどこ行った?

とりあえずまだ寝てる子達を叩き起してから、場所の分かる3人の方を夏未ちゃんに呼びに行ってもらうことにして、自分はもう3人を探しに行く。

鬼道はいつも身支度をちゃんとしてるから、3人で顔を洗いにでも行っているのかと思ったが違った。
と言うことは朝練だろうな、と思い外に出れば、やっぱりグラウンドに居た。

「はー、よく続くな」

そう言って土門だけ、グラウンドに座り込んでいて、その先に見ている鬼道と一之瀬はリフティングをしていた。

『おはよう。朝から精が出るね』

そう声をかければ、一之瀬はビクッと驚いて、ボールを落としてしまった。

「あっ、」

一之瀬が途端にガクリと膝を着く。

「あとちょっとで1時間だったのに...」

「惜しかったなー。おはよ、梅雨ちゃん」

「もう、そんな時間か。おはよう」

土門と鬼道が挨拶をする中、一之瀬はまだ膝を着いている。

『えっと、なんかごめんね』

声かけるタイミングもっと見計らったら良かったかな。

「...いや、大丈夫。俺の集中力が足りなかっただけだから。それよりも、おはよう水津」

立ち上がってそう言う一之瀬にもう一度おはようと返す。

『1時間耐久やってたの?』

「うん。ボールコントロールのいい練習になるからね」

「エイリア学園のスピードに追いつけたとしても、技術が伴わないんじゃ意味が無いからな」

なるほどね。

『千羽山の時みたいになるからね』

そう言えば鬼道がああ、と頷いた。

みんなのスピードが上がれば、パスの感覚も狂ってくるしなぁ。それでも中盤に入る鬼道と一之瀬がコントロール出来れば安定するだろうしね。

「それに、ボールの飛距離と身体の感覚を常に理解していれば狙ってパスカットもしやすくなるだろう」

さすが鬼道。よく考えてるなぁ。
3人ともパワータイプってより技術タイプだから、この練習が合ってるのかもしれないな。

『鬼道も一之瀬もリフティング安定してるし、1時間耐久じゃなくてバトル形式でやってみたら?』

「バトル形式?」

首を傾げる一之瀬と鬼道と別に、土門が俺は?と手を上げる。

『土門はもうちょっとリフティング安定してからね。で、一之瀬はその時のボールの流れに合わせてリフティングしてる感じだけど、鬼道は割と型にハマったリフティングしてるじゃない?だから安定してるんだろうけど、サッカーの試合で使いたいんならその型は外した方が良いと思うんだよね』

まあ、ショーケースとかルーティンを決めてゴリゴリに型にハマったのやる私が言えた事じゃないんだけど。

「なるほど。どうすればいい?」

『音楽をかけるからその間30秒ずつ交代で、リフティングをするの。でもただリフティングするだけじゃなくて、リズムに合わせて踊りながらやってみて』

「お、踊りながら...」

おや?なんでも出来そうな鬼道が、少し引いている。

「楽しそうでいいね!」

「俺もそっちやりたいんだけど」

『土門はせめて30分リフティング出来るようになって』

「えー」

土門は出来ると思うんだけど、サボり気味なんだよね。もうちょっと足伸ばせば届くだろってところで諦めちゃうから続かない。

「やってみようよ、鬼道!」

「え、ああ」

『じゃあ、曲かけるね。最初は短めの方がいいかな...。それじゃあ、この曲で...』

携帯を操作して、選択した曲を流し始める。

「じゃあ、まずは俺から!」

そう言って一之瀬はボールを高く蹴りあげて踊り出した。ヒップホップっぽい感じだ。さすがアメリカン。

「お、それっぽい」

「わっ、と!!」

ダンスは上手いが、ボールが疎かになってあらぬ方に飛んでった。

『30秒間は一之瀬のターンだからボール拾って続けて』

「はい!」

転がったボールを一之瀬は慌てて取りに行って、拾ってリフティングを始める。

『一之瀬、ダンス忘れないでー!』

「あ、うん」

一度落としたことにより、リフティングの方に意識行きがちになるのはあるあるなんだけど、見事にそれだったなぁ。

『5、4、3、2、はい、鬼道交代』

「あ、ああ」

交代した鬼道が今度はリフティングを始めるが、ガッチガチである。
リフティングこそ上手いが、ダンスのダの字もない。

『鬼道もっと踊ってー!』

「無茶を言うな!」

そう言うが一応、踊ろうとする気はあるみたいで、手足がガコンガコン動いてる。下手なロボットダンスみたい。
鬼道はダンス苦手なのか。社交ダンスとかなら出来るんかな。

「鬼道の意外な一面みれたなぁ」

『ね。土門はこういうの得意そう』

「まあね」

そう言ってウインクしてきた土門に、はいはいと返す。

『次、一之瀬。5、4、3、2、はい』

交代して一之瀬が入れば、鬼道は動きを止めてはあ、とため息つくように息を吐いている。
耐久は鬼道の方が上手だが、こっちは一之瀬の方が上手だな。
トントントンとリズムに合わせて、ボールと身体を動かしている。

うん、初めてでこれはセンスいいね。一之瀬、本格的にフリースタイルやらないかな?

『よし、じゃあ、鬼道』

5、4、とカウントを始める。


「こらー!」

可愛らしい怒声が聴こえて振り返る。

「秋!」

嬉しそうに名前を呼びながら一之瀬は動きを止めた。

『秋ちゃん、どうしたの...あっ、』

「もう!いつまで朝練やってるの!梅雨ちゃんも呼びに行ったまま帰ってこないし!」

そうだったわ。朝ごはん出来たよって呼びに来たんだった。



ミイラ取りがミイラになる
とは正にこのこと。
秋ちゃんに怒られながら、慌ててみんなで朝食の席に向かった。
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