フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
29ページ/166ページ


雷門の子達だけでなく白恋中の子達も集まって、一同ゲレンデからサッカーグラウンドの方へ移動した。
雪の上なら落下した時クッションになってくれそうだが、踏み固めると滑るし固くなるので逆に危ないので、グラウンドにした。

他の皆がフィールドの周りで見守る中、フィールドの中央で胸に手を置いて、スーッと息を吸って深く吐く。

「梅雨先輩ー!準備いいですか?」

そう叫ぶ春奈ちゃんの手には、私の携帯が握られている。
用意した自分のリフティングボールを両手に持って、いいよ、と春奈ちゃんに合図を送れば、彼女は私の携帯をポチと押した。それと共に音楽が鳴り出す。
楽曲は私が気に入っている和ロック。
前奏を全身でリズムを測る。

「頑張れ水津!」
「梅雨ちゃん〜!」

そう言って、一之瀬と土門が音楽に合わせてクラップハンズで場を盛り上げてくれる。
2人に見習って他の子達も手拍子をくれる。
アメリカ組はノリが良くて助かる。


もう一度深呼吸した後、ボールを両手で挟んで内側に回転をかけて落とす。
それを右足側面で受け止めて、リズムに合わせて簡単なリフティングから始める。
クロスオーバーからアラウンドサワールド、そこからさらにフェアリーレッグオーバー。
立ったまま行うエアムーブだけではなく、座って行うシッティングも間に織り交ぜながら、多種多様な技を見せていく。

大きな技をした時に、おお〜と上がる歓声に、自身のボルテージも上がっていく。
元々、向こう世界で作っていた本来のルーティンにはなかったが、身体能力の上がったこちらの世界ならではで、できるのではないかと、組み込んだアクロバット技。
約束を取り付けたあの時から雷門中が優勝するのを知っていた私は、ひっそりとこのルーティンの練習をしていた。
円堂曰く、練習はおにぎりだもんね。ちゃんと私の身になっている。


音楽がもうすぐ鳴り止む。最後に、とボール真上に蹴り上げた。後バク宙をして空中にあるボールを太ももに挟見込んで着地すれば、ちょうど曲が終わって辺りがシーンとした。

一瞬の静寂の後、直ぐに大きな拍手に見舞われた。


『......!』

バックフリップクラッチ。
大技が決まって、放心している私の元に誰よりも早く、円堂が駆けてきた。


「すっげー!!すっげーよ!!水津!!」

そう言って円堂は私の肩を掴んでガクガクと揺らしてきた。

『え、ちょっと』

「くるん、びょーん、ぱっ!ってなんだあれ!お前すっげーよ!!」

1ミリもどの技の事言ってんのかわかんないよ。
というか、

『えん、どう、ガクガク、するの、やめ』

「落ち着け、円堂!水津が死ぬ」

そう言って風丸が止めに入ってくれたおかげで、お、そうか、と円堂は揺らすのを止めてくれた。

『......気持ち悪い...』

「大丈夫か?」

心配する風丸に、うんと頷いていれば他の子達も周り集まってきて、凄い凄いと褒めてくれた。

「アクロバットが得意なのは知ってたけど、ルーティンになったらまた凄いね!」

「ああ。音楽と相まって、素晴らしいショーだった」

一之瀬と鬼道の天才2人に褒めてもらって、よせやい、と返す。

「なあなあ!梅雨!アタシにもそれ教えてくれ!」

そう言って塔子ちゃんに両手を掴まれる。

「あっ、俺も!俺も!」

ハイハイと手を挙げる円堂の後ろで、吹雪も僕も、なんて言い出した。

『え、そりゃあ私は競技人口増えてくれるの嬉しいけれど...』

エイリア学園との戦いに備えないといけないし、やってる暇ないんじゃないか、と瞳子さんを見る。

「いいわよ。ずっとスノボードの練習じゃあ、ブーツの重みで足に負荷がかかって傷めるわ。それにスピードが上がった所でボールコントロールが疎かなんじゃ話にならないからフリースタイルフットボールでコントロールを身につけるのは悪くないわ」

瞳子さんがそう言えば、円堂と塔子ちゃんが、ぱぁっと笑った。

「やったぁ!水津教えてくれ!」

「バーッてなってぴょん!ってなるやつ!」

塔子ちゃんが言ってるのはどれの事よ?

『塔子ちゃんはSPフィクサーズと戦ったときにアクロバット見せてくれたから出来そうだとは思うけど...』

他のみんなのレベルが分かんないしなぁ。

『とりあえず基礎からやってみようか!』

「基礎って何をやるんッスか?」

『そりゃあリフティングよ』

「リフティングなら俺たちでもできるでヤンスよ」

『それはよかった。じゃあ、1時間、1回も落とさずリフティングを続けてね』

ニッコリと笑ってそう言えば、ええっー!と声が上がった。

「い、1時間!?」

「1時間ずっとってマジかよ」

『大丈夫大丈夫。5、6000回くらいボールぽんぽんしとけばいいんだから』

「いや、1回も落とさずは無理だろ!」

染岡にそう言われて、できるでしょ?と鬼道に聞けば、ああと頷いた。

「ボールコントロールの練習になるからな。帝国学園では普通にやっていたが」

だよね。洞面とかめっちゃリフティング上手いもん。

「いや、お前らの普通は普通じゃねぇよ」

『まあ帝国学園は普通じゃないだろうけど、1時間リフティングは普通だって』

「落とさずに、が普通じゃねーんだよ」

『慣れれば意外と誰でも出来るもんよ』

「まあまあ、染岡。とにかくやってみようぜ!」

そう言って円堂がぽんぽんと染岡の肩を叩き、サッカーボールを渡した。

『とりあえず1時間落とさず何処までやれるかやってみてよ』


その結果。
1時間も経たずに何人かは、耐久に耐えられず、スノボ練習に戻っていってしまった。
40分近く経つが、未だ1回もボールを落とさずリフティングしているのは、私と鬼道だけだった。
意外にも出来そうだと思っていた一之瀬は、300回以上からめんどくさくなって正確に数えてないが、500回前後で集中力が切れたのか1回失敗してそれからは定期的にボールを落としている。

現状、失敗しながらも残ってチャレンジしているのは鬼道、一之瀬、土門、染岡、円堂、吹雪の6名。
見事に忍耐強いのと負けず嫌いだけが残ってる感じだなぁ。

『鬼道はまだ余裕そうだね。んー、残り15分くらいあるけど終わりにしようか』

そう言ってリフティングしていたボールを頭の上で止める。

「お前が1時間と言い出したのにいいのか?」

『うん、いいよ。他の子も100くらいは出来るみたいだし。何より根気あるみたいだからね』

「諦めて去るかどうかの耐久テストをしてたわけか」

そう言って鬼道も最後に蹴りあげたボールを両手で抱きとめた。

他の子達は疲れたと、グラウンドに座り込んだり寝っ転がったりしている。

「1時間長ぇー!」

「お前らやっぱりおかしいわ」

ゴロンと寝っ転がってる土門の横で座り込んだ染岡が、私と鬼道を見ていう。

『慣れだよね』

「慣れだな」

「鬼道くんは凄い集中力だし、水津さんはあっちこっち動き回ってもボール落とさないし凄いね。僕ももっと出来るかなと思ってたんだけど、意外と難しいね」

『吹雪は特大ホームランしてたね』

強く蹴りすぎて、ボールがすっ飛んで行ってた。
器用な方かと思っていたが意外とそうでもないらしい。

『まあ、ここまで根気よく残ったみんなには何か技を教えようかな』

「技!!」

待ってました!と言わんばかりに円堂が飛び上がる。
ぶっちゃけキーパーの練習には全く役に立たないと思うんだけどいいのかな。

『そうだなぁ...じゃあ、ドラゴンフライとか』

「「ドラゴン!!」」

円堂だけじゃなくて染岡も食いついた。ドラゴンに反応してもらったところ悪いんだけど...、

「お前たち、ドラゴンフライはトンボの事だぞ」

言いたいことを鬼道が代弁してくれれば、円堂はそうなのか!?と驚き、染岡は知ってたしと見栄を張った。

『とりあえずやって見せようか。こういう技なんだけど...、よっと』

足先でぽんぽんと跳ねさせたボールを右、左と交互に繰り返し、右の足を内側から外側に向けて跳ねるボールの周りにぐるりと回す。

『これ、なんだけど』

「...なんか、」

「思ってたより地味だな」

まあ、派手な技じゃないのは確かだけど、こういう基本的な技がとても大事なんだけどなぁ。

「もっとビョーンとかバーンッてやつやりたい!!」

やっぱりお気に召さないか。
アクロバット系がいいのか...、まあみんな身体能力は超人的だし、いきなりやっても出来なくはないだろうけど。


『それじゃあこういうのはどう?』


そう言って、ボール高く蹴りあげて地に片手を着いた。
片手で逆立ちをして、重力にしたがって落ちてきたボールを挟んだ。
ノリクラッチ。やっぱり、まずは基本的の技から。


会得してみせよ
これなら派手な上、自分でも出来そうだと5人はやる気になった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ