フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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選手達が吹雪に倣ってスノーボードによる特訓を始める中、我々マネージャーは白恋中の教室を1部屋借りてパソコンや紙と睨めっこしていた。

私と春奈ちゃんは新たにチームに入った吹雪を含む選手データまとめ。
昨日の試合の様子を春奈ちゃんが撮影したものを見返しながら吹雪のデータを作ったり、同じく最近入ったばかりの塔子ちゃんのデータもだし、雷門中の子達の上がったステータスの書き換えなんかも行なう。そこから新たにトレーニングメニューを作ったりする。

秋ちゃんと夏未ちゃんは、食事に関する事。秋ちゃんがメニュー担当で、夏未ちゃんが予算担当。
1食の栄養ガイドラインを瞳子さんが用意してくれたので、それに合うようにカロリー計算もしなくてはならない。それをとりあえず今週分、7日×3食(朝昼晩)の献立表を作って瞳子さんに提出することになってるので、栄養士でもないマネージャー達が電卓叩きながらやるのは中々に大変である。

『あ、そうだ。秋ちゃん。ビタミンAが多く含まれる食材多めにした方がいいかも』

「ビタミンA?」

首を傾げた秋ちゃんに、うんと頷き返す。

「監督からの指示には特にはないけれど?」

夏未ちゃんがガイドラインをじっと眺めながらそう言う。そりゃあないだろう。監督はこれ今日作った訳じゃないだろうし。

『指示にはないけど...。そうだな、今日の皆の練習がどんなものか分かる?』

「スピードに慣れる特訓ですよね!」

隣で言った春奈ちゃんに、正解と頷く。

『スピードに慣れるってのは、体もだけど、目もなんだよ。スピードが出てると視界が狭く感じるし、一面真っ白な世界だし、そんな中真っ白な雪玉を避けなきゃならない。となると目も酷使する事になるから』

「要するにビタミンAは眼精疲労に効くのね?」

『そういう事。うなぎとか甘栗とかレバーとかに多く含まれるかな』

「うなぎは流石に予算的に無理よ」

キャラバンのお財布の紐を掴んでいる夏未ちゃんにバッサリと言われて、だよねーと考える。

『じゃあ鶏レバーとかいいんじゃない?竜田揚げとかにしたら比較的食べやすくなると思う。あ、あと朝ごはんにヨーグルトとブルーベリーとかいいかも』

「ブルーベリーも目にいいって言いますもんね」

『そうそう。アントシアニンがいいんだよね。他だと確か大葉にも多く含まれたはずだから刻んで大根とかと酢の物にするのも風味があって美味しいわよ。牛乳とかバターとかもビタミンAが含まれてるから寒いしシチューなんかでもいいかも』

「ほんと、そういうの詳しいわね」

まあ、これでもプロ目指してたんで。トレーナーやコーチを付けるほどの金銭的猶予のある家ではなかったから食事とかも自己管理してたしね。

「でも梅雨ちゃんが詳しいから助かったよね。いきなりカロリー計算しろって言われても...」

ね、と困ったように笑う秋ちゃんに確かにと春奈ちゃんと夏未ちゃんが頷く。

『まあ、そうだよね。けど、これも皆の為だしね』

「そうよね!よし頑張ろう」

そう言って秋ちゃんが、ぐっ、とちっちゃく拳を握って見せれば、他の皆も頑張ろうと意気込むのであった。










『さて、』

選手データの提出と兼ねて献立のOKを瞳子さんに貰ってマネージャー3人は晩御飯の準備へ取り掛かりに白恋中の家庭科室に向かった。
無論私も手伝おうと思っていたのだが、練習してきていいよ、と3人が気を回してくれた為、有難く好意を受け取ることにして、白恋中のサッカーグラウンドに向かった。


「クソっ!」

苛立ちの声と共にゴールポストにぶつかったサッカーボールが跳ねた。
みんながスノボーしてるゲレンデに居ないからと来てみれば、ここだったか。

フィールドの中で1人、ゴールに向かってシュート練習をする染岡が居た。
吹雪の楽しんで練習する、というのに酷く反発してた染岡はただ、がむしゃらに練習をしていた。

『うーん...』

そのうち解決するのは知っているけど、私がアクションを起こさないと話が進まない事があるし、何かした方がいいんだろうけど。
こればっかりは気持ちの問題だし、どうしたものか...。

『あっ』

そうだ。


まだこちらに気づいておらず、シュートの為拾ったボールを足元に置いた染岡に向かってダッシュする。

「...あ?...!?」

気がついた染岡が目を見開く前に、その足元にスライディングで滑り込んでボールを奪う。

「あっぶねぇな!なんだよ急に!」

怒る染岡に、あっかんべーをして奪ったボールを持って反対ゴールに向かって駆け出す。

「...はっ、...勝負しようってか!待ちやがれ!!」

すぐに怒ったまま追いかけて来た染岡が追い抜いて前を塞ぐ。
立ち塞がられ1度足を止めれば、染岡がボールを奪おうと足を伸ばしてくる。攻防戦だ。

右の足で染岡の伸ばす足から庇いながら左の足先で軽く後ろにボールを転がした後、踵でボールの端を踏んだ。その圧で弾んだボールを左のふくらはぎと裏ももの間で挟み込んでそのまま1歩後ろに下がれば、挟み込んだボールが解放されてふくらはぎをコロコロを伝う。ボールが地に着いた瞬間、大きく右足を左側に持っていけば自然と回れ左になり背を向けることになるわけで...、こうなれば後はボールを持って逃げるだけである。

染岡を避けて再びボールをドリブルして駆け出せば、後ろから、クソっ、と染岡のボヤキが聞こえる。

「(今のうめえな...)...負けねぇ!」

キッと眉を釣り上げた染岡は、再び後ろから追い上げて来て今度は平行に並んだ。

『げ、』

チャージングだ。
どん、と、肩がぶつけられて、よろめくが、何とか持ちこたえてドリブルでそのまま逃げようとしたが、もう一度、今度は先程よりも強く当たられ吹っ飛ばされてすっ転んだ。

『いたたた...』

「わ、悪ぃ!大丈夫か!」

慌てて駆け寄って来た染岡に、地面に座ったまま大丈夫大丈夫と手を振ってみせる。

『しかし、なるほど...。こうやって当たって来られたらやばいなぁ。やっぱ逃げに徹底すべきだな。そうなるとやっぱりスピードがいるよねぇ」

今までは何とか避けてきたけど、わざと当たりに来るような宇宙人...というかなんというか、そういう奴がこの先に居るのは確かだし、男女の体格差ではチャージで打ち勝つのは難しいだろうしやはり逃げに徹底するべきだろう。

『実際やってみないと分からない事が多いね』

「......」

よいしょ、と立ち上がって、コートに着いた土を払う。

『はあ、あつ』

外寒いからとコート着て出てきてそのままだったから、流石にこれで走るのは暑い。...下にジャージも着てその下にユニフォーム着てるからかもだけど。

「...なあ」

先程から静かだった染岡が口を開いた。

『なぁに?』

「お前は、アイツのこと、どう思う」

『アイツって?』

知らないフリして聞けば、嫌そうな顔して、吹雪だよ、と染岡が言う。
まあ、そうだろうね。

『攻撃力も然る事乍ら、ディフェンス力も申し分ないと思うよ。私が監督ならFWじゃなくて、攻撃型ディフェンダー...所謂リベロとして使うけど』

実際私はゲームだとDFとして吹雪は使ってたし。

『でもまあ、チームワークが出来ないのは大きな問題点よね』

「...!だよな!!」

染岡が、ばっと顔を輝かせた。豪炎寺の代わりにはなれないと否定する仲間が欲しいのかな。わかりやすいなぁ。

『でもそれ染岡が言えた義理じゃないでしょ』

「なんでだよ」

ぐっ、と染岡の眉間にシワがよる。

『豪炎寺の代わりになれないって勝手に嫌ってツンケンしてるからだよ。それもチームの空気悪くするでしょうが』

「っ、それは...。俺だって、わかってんだよ!!アイツに当たるのは違ぇって事くらい!」

そう言って唇を噛む染岡を見て、小さく息を吐く。

『まったく...。不器用だし、難儀な性格だね』

「悪かったな...」

むすっ、とする染岡を置いて、さっきから忘れられていたサッカーボール元に向かう。

『染岡さー、豪炎寺の事も最初は嫌ってたじゃん?』

「それは、アイツが...」

『私の事も嫌いだったでしょ?』

転がっていたボールを地面から拾い上げながらそう聞けば、染岡はうっ、と言葉を飲んだ。

「べ、別に、嫌いじゃ...」

言いずらそうにモゴモゴとする染岡に、ケラケラと笑ってみせる。

『いいんだよ別に嫌いでもさ。...いや、やっぱり、ちょっと傷付くけど』

大好きなイナズマイレブンのキャラ達に嫌われたとなると、流石に悲しい。

『でも、今はそんなに嫌いじゃないでしょ?』

自分で自分の事、聞くのは変な気するけど。

「...ま、まあ」

目を逸らし、少し頬を染めて頷く染岡に、ちょっとばかし心がほころぶ。

「...お前も豪炎寺も、いつも真剣だろ。けど、アイツ、吹雪は...」

『楽しんでやるのが真剣じゃないとは限らないじゃない』

そう言って持ったサッカーボールをバスケットボールのように染岡に向かって投げつける。
それを染岡は両手でパシッと受け止めた。

『円堂はいつも、真剣だし楽しそうじゃない?』

「それは...」

『一緒にボール蹴ってみたら分かるでしょ』

そう言えば染岡は口を1文字に結んだままじっとボールを見つめた。

染岡のことだから、素直に謝るなんてことは出来ないだろうし、やっぱりこれが1番いい解決方法だと思うけどなぁ。

『ほんっと、不器用な性格だよねぇ』

「んだよ、さっきから。お前も大概、めんどくさい性格してっからな」

『それはそう』

言われた言葉に頷いて笑えば、染岡はあーもう!とガシガシ頭を搔いた。

「考えるはやめだ。お前の言うようにプレイで示してやる。水津、練習付き合え!」

そう言って指さしてきた染岡に、はいはい、と頷いた。
最初からそのつもりでこっちに来たんだけとね。まあそれは彼には秘密だ。




雪の上に霜
そのうち上手く行くのは知ってるから、余計なお世話だったかもしれないが。
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