フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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地上最強のサッカーチームを作るためにも貴方の実力を見せて欲しい、瞳子さんにそう言われた吹雪は二つ返事で、良いですよと言った。

「監督!作戦は」

サッカーグラウンドに移動するなり、円堂が瞳子さんにそう聞く。

「好きにしていいわよ。吹雪くんの実力を見るだけだから」

「分かりました」

こちらと同じように、反対側のベンチ周りに白恋中の子達も集まって作戦会議をしているようだ。

「相手は日本一のチームだ。何処まで出来るか分からないけど頑張ろう」

「おおー!」

チームのキャプテンとして士気を上げている吹雪の様子を染岡が睨みつける様に見ている。それを秋ちゃんと見て参ったねと顔を見合わせる。

「吹雪さんって凄いストライカーって感じが全くしませんよね」

春奈ちゃんの言葉に、夏未ちゃんがえ?と聞き返した。

「豪炎寺さんって居るだけでなんか点を取ってくれそうな雰囲気あったじゃないですか」

「そうね。豪炎寺くんに比べたら彼には凄みを感じないわね」

まあ、試合見たら意見変わりそうだけど、今の吹雪士郎、

『彼は、雪国の憂鬱げな王子様みたいな雰囲気だもんねぇ』

「わかります!王子様っぽいですよね!」

うんうん、と春奈ちゃんが頷く横で、夏未ちゃんがちらりとこちらを見た。

「ああいったのがタイプなの?」

『まさか』

最近、夏未ちゃん恋愛脳だな。

『まあイケメンは目の保養だからありがたや』

南無南無と拝めば、春奈ちゃんが私も!と真似っ子しだして、もう!と夏未ちゃんが怒ったような声を上げたあと笑っている。

「オイ」

少し苛立ちを含んだ、そんな声で染岡に呼ばれて、振り向いてみれば、どうやらその顔は不機嫌を隠すつもりはないらしい。

「お前、いつまで喋ってんだ。行くぞ」

え゙っと思わず顔を見上げれば、早くコート脱げと言われる。嘘やん。
目金は!?と彼をみれば、任せますよとグッドサインをこちらに向けてきた。

『いや、無理。寒くて死ぬ』

知ってるか?雷門のユニホームは半袖半ズボンだぞ。

「駄々捏ねてんじゃねーよ!!」

『君が嫌なら嫌って言えって言ったんじゃん!!』

「うるせぇ!あん時お前やるって言っただろうが!!」

『いっ、言ったなぁ、確かに...』

けど、こんな雪の中で半袖半ズボンでサッカーやるとは言ってない。

『秋ちゃん...!!』

助けて、と秋ちゃんを見れば、頑張ってねと言って彼女はコートを受け取るよと両手を差し出した。

『......』

すん、と鼻を鳴らして、諦めて秋ちゃんにコートを手渡す。

『...寒い、死ぬ...』

「死なねぇよ!動け!」

ほら行くぞ、と染岡にフィールドの中まで引っ張られる。

「...あんな奴に豪炎寺の変わりは務まらねぇ」

ぎっ、と相手フィールドの方を睨みつけながら歩く染岡に引っ張らてセンターラインまで連れて来られる。

『もしかして...』

ポジションまたFWなのか...。
吹雪よりも私の方が務まらねぇよ。

「昨日の練習の成果を見せる時だな」

そう言って鬼道が近づいてきた。

「ああ、全力でやれよ」

掴んでた腕を離した染岡が怖い顔をして鬼道に頷いている。何気に鬼道も悪い顔してるし、これ本気でやんないと殺される...。
いや、まあ昨日は2人とも練習に付き合ってくれたもんな。だから頑張って見るけど、あまり期待はしないで欲しいなぁ...。相手は、吹雪だし。

はあ、と1つため息を吐いた後、深呼吸をして背筋を伸ばし、二、三回その場でぴょんぴょんと軽く跳ねる。

『よし。やれるだけやってみるよ』



雷門側も白恋側も選手たちがポジションに着き終われば、自転車で奈良から北海道まで自力で追いついてきたのか分からないが、お手製の実況台と共に角馬くんが現れた。

「さあ、いよいよ始まります!雷門中対白恋中の練習試合!実況は角馬圭太でお送りします!」

鼻水を垂らしながらも実況に入る角馬くんの意識の高さに感銘しながら、さあ、そろそろ始まるぞと相手方のポジショニングを見る。

「何っ!?」

隣の染岡が大きな声を上げる。

「あの野郎ディフェンスにいる!?」

「吹雪はFWじゃなかったのか!?」

染岡と鬼道が叫ぶように言えば、白恋中のFWである長身で口元をマフラーで隠した少年、喜多海がFWだよと答える。


「じゃあ、あれはなんだ!」

そう言って染岡はゴール前の真ん中のディフェンスラインに立っている吹雪を指さす。

「今はまだDFなんだ」

「どういう事だ!!」

キレ散らかしてる染岡の背中に、ぽんと手を置く。

『落ち着きなさないな。どういう事かは試合をやればわかるでしょ』

ね?と聞けば、チッと染岡は大きな舌打ちをした。

「よく分からないけど面白くなりそうだ!」

後ろで円堂のそんな声が聞こえて、彼もこのくらい気楽でいてくれればいいんだけど、と思っていれば、ピィーッと審判である古株さんがホイッスルを吹いた。

とん、と足元のボールを軽く蹴って染岡に渡して、敵陣へと走って行く。

「水津のキックオフで試合開始だ!」

自分の名が呼ばれるのは変な感じだと、角馬くんの実況を聞きながらひた走る。

「ふざけてんじゃねぇ!どけぇ!!」

染岡は怒声を上げて、前方に居たFWで頭に雪が乗ってる男子、氷上と紺子ちゃんを怯ませる。

「染岡!強引に白恋のディフェンスを突破!そのまま吹雪に向かって行く!!」


「そういう強引なプレイ嫌いじゃないよ」

そう言って吹雪は小さく笑った。

「うぉおおお」

雄叫びを上げて突っ込む染岡に吹雪も正面から立ち向かう。
ふわりと、まるでスケートのアクセルのように吹雪は身体を回転させた。

「アイスグランド」

彼の足先から氷の層が現れた、真正面に突っ込んできた染岡を丸ごと氷塊に閉じ込め動きを止めて、ボールを奪った。

「凄い...!」

「おっと、吹雪!染岡から華麗にボールを奪ったぞ!!」

ボールを止めた吹雪は、喜多海へとパスを出す。それを風丸がカットしボールを奪い返した。

「水津!」

風丸から飛んできたボールをトラップして受け止めて、ドリブルで駆け上がる。空野とオレンジの帽子の子、押矢がダブルでマークに着いてきたが、あっさりと抜けれてしまった。まだ同好会から部になったばかりだし仕方ないとはいえ、エイリア学園の後だと拍子抜けだ。
そのままゴール前まで駆け上がれば、吹雪が待ち構えた。
にっこりと笑ってこちらに向かって走り出した彼に、アイスグランドを放つ気だと悟った私はボールを足に挟んでアクロバットで横に飛んで吹雪から避ければ、目も口も開いて驚いた姿が横目に見えた。

「水津!そのまま決めろ!!」

鬼道の叫びに、大きく頷いて、足に挟んだボールを滑らせて足先に下ろし、それをつま先でぽんぽんと2回リフティングして大きく宙へとボールを蹴りあげればそれに雨雲がかかる。1歩2歩、と踏み切って自身も宙へと飛び上がればザァと雨が降る。その雨雲の中に突っ切って、そのまま空中で前転し踵でボールをグラウンドに叩き落とした。
雨粒と共に勢いよく落ちるボールは、ゴールの手前側に向かって落ちていく。

「シュートミス!」

ああ...!と雷門側の選手達から残念そうな声が聞こえた。

これなら取れると、落ち着いた様子で、白恋中のGKの函館が構えた。その瞬間、グラウンドに落ちたボールは水溜まりの上に跳ね返って、反射で勢いをつけたボールはそのまま函館の横をすり抜けてゴールネットに突き刺さった。

「え、」

「ドロップ、シュート...!?」

ピィーッ!と得点のホイッスルが鳴る。

「おおーっと!!シュートミスに見せかけて、水津が先制点を決めたー!!」

『やった!』

「水津」

そう名を呼んだ染岡が右手を挙げている。
それに駆け寄って、思いっきり右手をぶつけてハイタッチする。

「痛てぇ!!勢い付けすぎだ馬鹿!」

『ごめんて』

「やったな、水津」

『うん。鬼道もハイタッチしとく?』

「思いっきり叩く気だろう。遠慮する」

真顔で言った鬼道に、酷いなぁと笑って返す。

「すっげー!!水津なんだ今のシュート!いつの間に!?最初外れたかと思った!!」

ゴールからわざわざ駆け寄ってきて、円堂がまくし立てて言う。

「反射角でシュートを決めるなんて、なかなかトリッキーな技だね」

一ノ瀬の言う通り、トリッキーだからめちゃくちゃ大変だったし、こんな初見殺しみたいなシュートを作ろうって思いついた鬼道も鬼畜だと思う。
まあ、パワーもスピードもあまりない私だと正直こうでもしなきゃ点を取るのは難しいんだろうけど。

「水津のボールの扱いの正確性を活かしたいい技だね」

ニカッと笑ってそう言ってくれる一ノ瀬は良い奴だな。私と鬼道がこれを思案してる時にそばにいた染岡には、性格が悪いシュートだのなんだの言われたぞ。

「この技の名前は、レインドロップにしましょう!」

キランッと眼鏡を光らせて目金がベンチで言っている。
まあ、ドロップシュートだし雨降るしそのまんまな名前だなぁ。



レインドロップ
けどまぁ、練習で呼んでた初見殺しシュートよりかは、必殺技名っぽくていい感じかな。
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