フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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円堂が気絶し、ジェミニストームは紫の光と共にその場から消え去って行った。

倒れた円堂をキャラバンに運んで、1度シカ公園まで戻った。
シカ公園に到着して直ぐに円堂が目を覚まし、マネージャー以外の他のメンバーは治療の邪魔になるからと外で待機している。

『円堂、上脱いで』

そう言えば、円堂は素直に頷いてユニホームを脱いだ。夏未ちゃんが恥ずかしそうに目を外らす横で秋ちゃんが救急箱片手に円堂の隣に座った。


「わ...、凄い痛そうね」

「このくらいなんでもないさ!」

心配そうにその背を見た秋ちゃんに円堂はニカッと笑って見せた。

『なんでもない事はないでしょう。全く...』

「擦り傷とかより打撲の方が酷そうね。湿布貼りましょうか」

『ええ、お願い。あと円堂、手も見せなさい』

「え、ああ」

そっと出された円堂の両手は赤くなりパンパンに腫れ上がっている。

「痛そうですね...私、氷持って来ます!」

『あ、春奈ちゃん、それなら桶に水張ってそれに氷入れてきて』

「了解です!」

そう言って春奈ちゃんはパタパタとキャラバンの中をかけて外に出ていった。

『ごめんね、無茶させて』

「なんで水津が謝るんだ?」


キョトンとした顔で円堂に言われて、え?と首を傾げる。
あ、そうか。円堂からすればキーパーだし自分がボールを受けるのは当たり前なんだよね。

『でも、やっぱりもっと上手く動けてたら少しは違ったかな、って』

「それでもシュートを打ってくる相手を1人に絞らせてくれたのは助かったぜ?」

『え、あぁ、気づいてたんだ』

「おう!」

サッカーに関しては意外と頭回るんだよなぁ。

「先輩!氷水持ってきましたよ!」


戻ってきた春奈ちゃんから桶を受け取って、円堂の膝の上に置く。

『両手つけてしっかり冷やしてね』

「ああ!...うわっ、冷た!」

そりゃあそうだ。氷水だもん。

『とりあえず感覚なくなってきたなぁってくらいまで、ふぁ...』

欠伸が手出て口を手で覆う。

『ん、ごめん。感覚がなくなってきたら手を出してね』

「ああ」

頷いた円堂を見てまたひとつ欠伸をする。

「水津さん、眠そうね?」

『んー...』

流石に昨日、例のお守り作るのに夜遅くまで起きてたし、何よりまさかの2試合出場で結構体力を使ったから疲れが来ている。

「少し仮眠とったら?」

『うん...、そうする。冷やし終わったら秋ちゃんいつもの様に手当てしてあげて』

「うん。わかったわ」

『じゃあ、少し失礼して...』

近くじゃ治療の邪魔だから、適当に前の方の席に移動して座席に座って、そっと目を閉じる。
久々に疲れたな...。










今回の試合での指示で監督への不信感と苛立ちがみんなの中で立ち込める中、円堂はアレは自分を鍛えるための作戦だったと言った。
だが、その後直ぐに現れた監督の口から告げられたのは、豪炎寺をチームから降ろすと言う事だった。豪炎寺は反論もせずそのままキャラバンを降り、響木監督からは都合の良い事に、北海道のストライカー、吹雪士郎をチームに引き入れろというメールが送られてきた。

豪炎寺の離脱には納得がいかないし、イライラとしたままキャラバンに戻れば、何故か水津が俺と豪炎寺が今まで座っていた座席に座って窓に凭れ掛かる様にして眠っていた。

起こそうとすれば、音無に疲れてるんだから起こしちゃダメですよ、と怒られたので、仕方なく寝かせたまま、隣の席に腰掛けた。

キャラバンが夜の道を走っていく中、幾人かの選手達も疲れから眠りに入っている。そんな中、

「なあ」

ヒソヒソ声で後ろの席の土門が声をかけてきた。

「伝説のエースストライカー吹雪ってどんな奴だと思う?」

「うちのエースストライカーは豪炎寺に決まってるだろ!!」

『ん...』

大きな声で言ってしまえば、隣で身じろいだ水津を見て土門が口元に人差し指を持って行って静かにとポーズを取った。
みんなは音無が調べた情報で、吹雪とかいう奴がどんな奴かと期待しているようだが、俺は認めない。それにあの監督もだ。

1番前助手席に座る監督を睨みつけていれば、曲がり角でキャラバンの車体が大きく揺れた。

「おっとと、」

こちらに話しかける為に身を乗り出して居た土門は慌てて俺達の座席の背を掴んで、揺れた衝撃で窓に凭れ掛かかっていた水津の頭が俺の肩に乗った。

「は...、」

思わずどうしたらいいか分からず固まっていれば、後ろから覗き込む土門が役得じゃんと呟いた。

「わ、梅雨先輩可愛い」

そう言って前の席の音無も座席に反対向きに座って覗き込んできた。

「危ないわよ音無さん」

雷門に注意されているが、ちょっとくらい大丈夫ですよ、と言って音無は携帯のカメラをこちらに向けた。
そうしてパシャリと1枚写真を撮った。

「おい、」

思わず眉をしかめるが、音無は満足した様に笑って席に座り直した。

「ちょっと音無さん?盗撮は犯罪よ」

「盗撮じゃなくて記念撮影です!ほら先輩たちも見てくださいよ!」

なんて言って、同じ座席に座る雷門と木野にも取った写真を見せている。

「梅雨ちゃんグッスリね」

「確かに普段じゃ見れない姿ね」

「合宿の時も1番最後に寝て1番最初に起きてましたもんね〜」

マネージャー達がやんや、と話しているのを聞いて、肩元に視線を移す。

「暢気に寝やがって...」

「梅雨ちゃん、気持ちよさそうに寝てるねぇ。けど、起きたらびっくりするだろうな」

びっくりすると言うのは、豪炎寺の事だろう。
そう言って土門は上から手を伸ばして梅雨の頬をつんつんとつついている。

「おい」

さっき起こすなとジェスチャーしたのはお前だったろ。

「染岡も触る?梅雨ちゃんのほっぺもちもちよ?」

「はあ!?触るわけねーだろ!!」

「あっ、しー!」

また大きな声になり、ジェスチャーで静かにと土門が作るが、今度は水津の目がゆっくりと開かれた。

『ん、...?』

目を開けてボーッとした様子の水津はもう一度目をつぶってから開け直して、それからハッとした様に俺の肩から頭を離した。

『うわ、ごめん!...え、待って、どのくらい寝てた...?』

窓の外を見た水津はすっかり暗くなっているのに驚いているようだ。

『嘘でしょ...10分ちょっと仮眠取る気だったのに...。爆睡じゃん恥ずかしい』

そう言って顔に手を当てている。

『起こしてくれたら良かったのに。寄っかかっちゃってたの重たかったでしょ?』

「いや、あまりにも気持ちよさそうに寝てたから起こせなかったよなぁ」

なんて返すか悩んでる合間に土門が勝手にそう言えば、水津は後ろを振り返って、え、と嫌そうな顔をしている。

『土門も寝顔見たの...?』

「俺も見たけど、音無は写真撮ってたぜ?」

『春奈ちゃん!?』

「あ、土門さんなんで言っちゃうんですか!」

今度は前を向き直して、と言うか立ち上がって水津は前の席を覗き込んでいる。

『消して!』

音無は、えぇー、と言いながら携帯を隠す。

『もう、私の写真なんか撮っても意味ないでしょうに』

「そんな事ないですよ?」

『せめて可愛い時に撮って欲しい』

「じゃあ先輩の寝顔、可愛かったから問題ないですよ!ね、染岡さん?」

音無に振られて思わず、はあ!?と大きな声を出せば、三度土門に静かにというジェスチャーをされた。

「知るかよそんなん」

「可愛いくらい言ってあげればいいじゃん?」

確かに可愛いか可愛くないかで言えば、いつもと違って静かな姿ですやすや寝てるのは可愛いと言えば可愛いんだろうが、そんなもん本人を目の前にして言えるわけない。

『お世辞はいいよいいよ。それより、結構みんなもすやすやなんだね』

キョロキョロとキャラバンの後ろの方を見る水津に、ああ、と頷く。
寝てる奴より逆に起きてる方を数える方が早いかもしれない。マネージャー3人に俺と土門。後は斜め前の席の鬼道と塔子。後ろの方の奴らは全滅してる。

『...というかこの席...』

何かに気がついた様子で、水津は座席に座り直した。
流石にこの席に座ってたら気づくだろう。

『豪炎寺は?』

不思議そうという訳でもなく、ただ、淡々と確認するように聞かれた。

「あー...」

土門が言葉を濁せば、水津は何か察したように、ああ、と呟いた。

「豪炎寺は降ろされた」

そう言えば、水津は対して驚きもせず、そっかと言った。

「驚かねぇのかよ」

『...豪炎寺、調子悪そうだったもんね』

「たった1度のミスで降ろされるなんておかしいだろ!」

きっとコイツなら俺と一緒に怒ってくれるだろう。そう思ったのに水津はまた、そっか、と納得した様に頷いた。
円堂もだが、なんでそんな直ぐに受け入れられんだよ。おかしいだろ。

水津を見れば、彼女は小さく口元に弧を描いて、俺の二の腕をトントンと軽く叩いた。

『大丈夫。豪炎寺はきっと戻ってくるよ』

「当たり前だろ。アイツがそう簡単に諦める訳ない」

『なんだ。わかってるじゃない。そんなサッカー馬鹿の豪炎寺が監督の言うことを大人しく聞いて降りた、っていうのは何か事情があるって事よ』

「事情ってなんだよ」

そう聞けば、水津は窓の外を見つめて、さあね、と呟いた。
その横顔はエースの居ない不安などないように笑っていた。
まるで...、


この先に何があるのか知っているかの様で

そんな中、激しい音で塔子の携帯電話がキャラバンの中に鳴り響いた。
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