フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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ハーフタイムに戻ってきた選手達の中から豪炎寺を呼んでベンチに座らせる。

『豪炎寺、肩触るわよ』

先程落ちた時に下になっていた左肩に触れて軽く押す。

『痛かったりしない?』

「ああ、痛みはない」

『軽く回してみて。違和感はない?』

言われるまま肩を回した豪炎寺は、少しそうしたあと、大丈夫だと答えた。

ベンチの前では皆が一塊になって、ジェミニストームのボールをカットすることが出来た鬼道の話を聞いていた。

「攻撃パターン?」

「例えば、あのMFが中盤でボールを取った時は1度右のDFにボールを戻し体制を立て直す」

そう言って鬼道は宇宙服のような緑色の仮面の小柄な宇宙人、グリンゴを指したあと眼帯の宇宙人コラルを指さした。

「左のMFがライン際でボールを取った時は後ろのDFを通して、女のMFに戻す」

今度は、イオを指した後にガニメデとパンドラを指した。

「そうか、それであそこに来るって分かったのか」

「いつの間にそんなことを!」

「すげぇぜ鬼道!やっぱりお前は天才ゲームメイカーだ!」

「これなら行けるな!」

よし、とみんなが拳を握る。

「奴らの攻撃パターンさえ分かればこっちのもの。後半は点取ってくぜ!」

意気込む染岡につられてみんなも応!と声を上げる。

「甘いわね」

せっかく上がった士気をぶち壊す様に瞳子さんが割って入ってきた。

「確かに鬼道くんの言う通りジェミニストームの攻撃には一定のパターンがある」

「えっ、監督も気づいていたんですか?」

「見てればわかります」

素っ気ない態度でそう返されて秋ちゃんは、萎縮してすみませんと謝った。

「貴方たち今自分がどんな状態か分かっているの?」

状態?とみんなが首を傾げている。
傍から見てても分かるほどに前半戦では皆肩で息をしていたし、余裕そうなジェミニストームに比べて圧倒的に疲弊している。

「今の貴方たちじゃ相手のスピードにはついていけない」

万全の状態でも追いつけない相手に、疲弊した現状で追いつけるかっていったらそりゃあ無理な話である。

「攻撃パターンがわかったくらいで倒せる相手じゃないのよ」

「じゃあどうしろっていうんですか?」

円堂がそう言えば、瞳子さんはホワイトボードを手に取って皆に見せた。

「こちらのディフェンスを全てここまで上げて全員攻撃するのよ」

瞳子さんの言ったここまでは、センターラインの手前側一帯。
選手に見立てたマグネットはゴール前の守備に1人もいない状態だ。

「そ、そんなに上げるんですか?」

土門が言うように、他の皆もありえない配置に困惑していれば、風丸が口を開く。

「でもそれじゃあディフェンスが居ないも同然...それこそ奴らに抜かれでもしたら終わりじゃないですか!」

「だったら抜かれないようにする事ね」

淡々とそう言い返して、瞳子さんはベンチの方、つまり私と豪炎寺の方を向いた。

「それと、後半は豪炎寺くんに代わって水津さんに出てもらうわ」

『は?』
「え、」

私と豪炎寺が、突然のことに驚いて瞳子さんを見上げる中、他の子達がはあ??とか、えー!?とか驚きの声を上げている。

「どういう事だよ!全員攻撃とか言っときながら豪炎寺を外すなんておかしいだろ!!」

染岡が噛み付くように言えば、瞳子さんはやれやれと言ったようにため息を吐いた。

「高所からの落下をしたのよ。大事を取って1度下がらせます」

その一言で反論をする者が無くなった。まあ怪我の可能性があるならね。

しかし、そう言われたら私も試合に出ないわけにはいかないじゃないか...。私という人間を分かってて言ってるんなら相当タチ悪いぞこの人。
豪炎寺は豪炎寺で、正直この試合はやりにくかったのか、何の反論もしないし、監督命令に従うつもりなのだろうか。

『...わかりました』

「けど、豪炎寺さんが居ないんじゃ得点が...」

栗松が不安そうな声でそう言うのも仕方がない。そりゃあ必殺技のない私がエースの豪炎寺の代わりじゃ頼りないし不安だろう。
まあ、そもそも瞳子さんは点なんて取る気ないんだから、代わりが私でもいいんだろうけど。

瞳子さんは栗松の言葉に返事することなく、それ以上話すことは無いという様子でベンチを離れてスミスさんに選手交代を伝えに行った。

「なんなんだあの監督!!」

そう言って憤慨した様子の塔子ちゃんが隣に来た。

『んー、ちょっと言葉足らずだよね』

「ちょっと所じゃないだろアレは!」

ちゃんと説明してあげればいいのにと度々思うけど、これもまあ選手たちの自主性を育てる為なのかなぁ。

けどまあ、私は今回瞳子さんのしたいことは知っているし、チームに入れられてしまったからには私も好きにさせてもらうか。

「まあとにかくやってみようぜ!SPフィクサーズに勝てたのも監督の作戦があったからなんだしさ!」

円堂がそう言えば、とりあえずは監督に納得出来てない様子の他の子たちも仕方がないといったように頷いた。




「な、なんでしょう!?このフォーメーションは!?キーパーの円堂の前がガラ空きです!」

ハーフタイムが終わり、それぞれポジションに着けば実況の角馬くんが驚きの声を上げている。
まあ普通のサッカーじゃありえないポジショニングだ。

「みんな!頼んだぞ!」

ゴールは任せとけ!と後ろから円堂が叫ぶ。
ふぅ、と1つ息を吐く。
なんで私がFWの位置に立ってんだろうな...。遠い目をして、ふと、相手フィールドを見れば、レーゼがどんな策でも叩き潰せと指示を出していた。

スミスさんがホイッスルを吹き、ピーッという音と共に、ジェミニストームの9番、リームがキックオフしディアムにボールが渡った。
次の瞬間、ボールが先頭に立つ私と染岡の間を抜けて行った。
あっという間もなく、放たれたシュートはみんなの間を真っ直ぐに抜けて、円堂ごとボールをゴールの中に叩きつけていた。
正面から見て改めて速さに驚く。そりゃあこの速さでぶつかって来られたら怪我もする。

「みんな、ボールをキープして攻めるんだ!」

直ぐに鬼道からの指示が飛んで来た。
判断の速さに関心する。

センターに戻ったボールは今度は雷門側のキックオフで、染岡が蹴ったボールを受け取って、後ろの一ノ瀬にバックパスを回して前線に駆け上がる。
後ろでは一ノ瀬から鬼道、栗松へと小刻みにパスを回して全員が上がる。
だが、ディアムが回り込み、スライディングで栗松からボールを奪い去る。
そのまま物凄い勢いで、ドリブルして上がっていく。

「円堂!」

ベンチの豪炎寺が叫んだ瞬間、ディアムの右足で蹴られたボールは円堂の額へとぶつかってゴールに入った。

あまりにも速い。シュートコースを狭めれる動きが出来れば、そう思っていたが、相手が速すぎて自分では追いつけない。

どうすることも出来ないまま、キックオフでボールをキープしても何度もボールを奪われてはシュートを決められた。

「どうすんだよ鬼道!このままじゃ円堂が持たないよ!」

塔子ちゃんの言う通り、このままだと円堂がな...せめてシュートコース絞れれば受け身も取りやすくなって負担が減らせるんだろうけど...、私1人じゃどうにも.........。
いや、1人でやらなきゃいいじゃないか。そもそもサッカーは11人でやるものだ。

「やっぱり無理なんだよこんなフォーメーション」

一ノ瀬が嘆く中、隣で鬼道は真剣に悩んでいる様子だった。

『鬼道。一ノ瀬の言う通り、このフォーメーションじゃどう考えても無理だよ』

「...ああ、流石の俺も攻撃だけでゲームを組み立てるのは不可能だ」

鬼道は自分でそう言ってから、ハッとした様な顔をした。

「不可能...?」

『あ、』

ボールをキープしていた染岡が、リームに奪われた。

『風丸!チェック!えーと、土門、栗松、7、8警戒!』

「「え?」」

走りながらそう叫べば風丸は分かってると言わんばかりに駆け出して、土門と栗松は困惑した様子で、なんで攻め上がってないそっちを?と言ったように首を傾げながらもマークにつく。

「くそっ!」

リームは足の早い風丸を避け、誰にボールをパスすることなくセンターに抜けてボールをシュートした。

「そういう事か!」

何かに気がついたように鬼道は言ってゴールを見た。

「ゴッドハン―――――」

拳を握って突き出す手前で、ボールは円堂の顔面にぶつかった。

「円堂!!」

心配そうに塔子ちゃんが叫ぶ中、得点のホイッスルが鳴り響く。

「エイリア学園、これでなんと31点目!」

「どうやら試合はここまでの様だ」

ゴールの中で倒れたまま起き上がらない円堂を見て、レーゼはそう言った。


「これでお前たちもわかっただろう。大いなる力の前では如何にお前たちが無力であるかが」

「なに、勝った気でいるんだよ...」

そう言ってゆっくりと、円堂が上半身起こした。

「まだまだ試合は終わっちゃいないぜ」

1歩1歩ゆっくりと起き上がった円堂はゴール前にどっしりと構える。

「円堂...!」

「俺なら大丈夫だ!...ぐっ。...もう点はやらない!」

痛みを我慢した様子の円堂に思わず顔を顰める。
瞳子さんの作戦を通すしかないにしろ、もっと早くに対応出来れば良かったのに、あまりにも相手が速さすぎて私では何も出来なかったことが悔やまれる。

「ダメだよみんな!これ以上やったら今度は本当に円堂が...!」

立ち上がった円堂にみんなが希望を抱く中、塔子ちゃんがそう言えば皆は確かにと顔を沈ませた。

『本来なら、止めるべきなんでしょうね...』

「水津?」

呟いた言葉が聞こえたのか、染岡がこちらを見た。

「...そうだな。...円堂は言っても聞かない奴だって分かってる」

そう言ってぎゅっと目を瞑った染岡は意を決した様に瞳を開いた。

「とにかく1点だ!何が何でも取っていくぞ!」

そう叫んで声をかければ、雷門イレブン達はつられておう!と拳を上げてそれぞれポジションに散る。

「いいのかよ、本当に...」

心配そうに塔子ちゃんが円堂を振り返って見る。

『これがいいとは思わないよ。けどさっき染岡が言った通り円堂は言うこと聞かないんだもん。だったら私たちは円堂の為に出来ることをやろうよ』

「出来ることって言ったって」

まあね、男の子たちはやる気だけど、正直点を取るのは無理だし。

『それなんだけれど「シュートコースを狭める。と言うことか?」

話に割って入って来た鬼道に、流石と関心する。

「さっきの指揮もそういう事だな?」

『うん。できるだけ真正面から相手にシュートを打たせる』

どういう事だ?と塔子ちゃんは首を傾げている。

「塔子、とりあえずディフェンスする際はサイドに寄ってくれ。センターをわざと空けて相手を誘い込む。そして、1人だけを誘い入れたら後は他がゴール前に寄らない様にマークについてシュートを打つ可能性のある選手を減らす。さっきはそういうことがしたかったんだろう、水津」

『おお、ご明察。シュートを打つ者が絞られれば、どっちが打つ?て悩む時間が減る分、コースを見極める判断に使えるでしょう?それと正面から受けることで後ろに飛ばされても受身が取りやすいだろうし。とりあえず指揮は鬼道に任せてもいい?』

ああと鬼道が頷く横で、未だ塔子ちゃんは首を傾げている。

「よくわかんないけど、センターを開けて1人だけ誘い込めばいいんだな?」

うん、と頷いて、ポジションに戻る。
再び雷門側のキックオフで始まる。
私が軽く横に蹴ったボールを染岡が取って、鬼道にバックパスをする。

「染岡、一ノ瀬は左から!水津、風丸は右から上がれ!」

鬼道の指示に従って、両サイドから攻め上がる。

「壁山と塔子は6番、土門と栗松は9番チェックだ!」

言われた通り左側のパンドラと右側のリームに2人ずつのマークがつく。

「一ノ瀬!」

鬼道から一ノ瀬にパスが通り、ドリブルで駆け上がる。
そこにディアムが跳んで来て一ノ瀬からボールを奪えば、空いたセンターに居たレーゼへとボールが渡され彼は誘い込まれるがまま、真っ直ぐ走ってゴール真正面に立った。

「地球にはこんな言葉がある。井の中の蛙大海を知らず。己の無力を思い知るがいい」

そう言ってレーゼは踏みつけていたボールを右足の縁で擦る様にして、回転をかけた。
回転するボールはそのまま勢いを増して回りの空気をも吸い込んで大きく渦巻いていく。それと共に薄いバリアの様な膜が大きくなっていく。

「なんだこれは...!」

「何がおこってるんだ...!」

「必殺技!?」

「面白い。来るなら来い!これ以上点はやらないぜ!」

今度こそ止めると、円堂は真正面にどっしりと構えた。

「アストロブレイク」

「このシュートは一体!?」

レーゼが放ったシュートは依然空気を吸い込みながら膨れ上がり、大きくなった膜はバチバチと電気を帯びている。

「今度こそ...!」

そう言って円堂は、胸に手を当てぐんと体を後ろに捻った。円堂の身体に気が溜まっていく。

「マジン・ザ・ハンド!!」

振り返りざまに円堂が大きく手を突き出せば、同じように円堂の後ろに現れたマジンも手を突き出す、が...。

「うわぁっ!!」

アストロブレイクの威力に押し負けマジンは消え円堂は後ろに倒れた。アストロブレイクはゴールネットを突き破って屋上の落下防止用のフェンスにぶつかって弾け消えた。

皆が必殺技の威力に呆然と立ち尽くす中、ピッピッピィーと試合終了の笛が鳴った。


32対0
またもジェミニストームの圧勝だった。
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