フリースタイラーの変遷

□脅威の侵略者編
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「まもなく試合会場だぁ!」

雷門中の試合の実況をする、その一心だけで自転車で奈良まで来た角馬圭太がいつものお手製実況席を首からぶら下げてそう叫ぶ。

ピッーと古株さんがホイッスルを吹き、雷門ボールでキックオフ。
染岡が、軽く横に蹴ったボールを豪炎寺が受け取り、染岡は早々に敵陣に攻め上がっていく。
それに倣うように、私を含むMFが一斉に駆け上がる。
豪炎寺も一ノ瀬にボールを回して前線へ上がる。
ボールを持った一ノ瀬がドリブルして進めば相手チームが2人係で止めに入るが、それを巧みなフェイントで交わし突破しそこから染岡にパスを通す。


「来るぞボディーシールドだ!」

「「了解!」」

「「「ボディーシールド!!!」」」

3人が1列に連結し、壁を貼る。
それに正面からぶつかった染岡は、後ろから倒れボールを落とした。

「おっと!SPフィクサーズのディフェンス陣が阻止した!」

幸いな事にSPフィクサーズにぶつかってボールがタッチラインの外に出たので、雷門のスローインで始まる。
のは良いが、スローイン任されるの困る。なんか色々ルールあったよね。足は地面から離れちゃダメとか、両手で持って頭の後ろから投げるとか。
失敗したらファウルとられるから気をつけねば。
そう思いながら両手にボールを構え、ボールを貰いやすいようにタッチライン付近に集まる雷門イレブンを見る。
無論その状態をSPフィクサーズが好きにさせてくれるわけもなく、壁となり邪魔をしてくれる。そんな中1人の選手と目が合った

『...、よし』

持ったボールを頭の後ろから思い切っきりぶん投げる。投げたボールは鬼道がトラップして受け取った後すぐさま豪炎寺へとパスを出した。
ボールを持った豪炎寺はそのままゴール前に向かうが、やはりSPフィクサーズが立ち向かう。

「プロファイルゾーン」

半透明のPCファイルのようなものが無数に飛んで豪炎寺の周りを囲み渦巻いたファイル達が豪炎寺を吹き飛ばした。ボールと引き剥がされた豪炎寺は空中で1回転し、何とか三点着地する。

飛んだボールを鬼道が拾いに向かえば、SPフィクサーズの少女と女性選手の2人にブロックされ、ブロックで取りこぼされたボールを取りに向かえば2人の選手からスライディングで攻撃されボールがまたも弾かれる。
それを上手いこと一ノ瀬が拾い駆け上がるが、またもプロファイルゾーンで弾き飛ばされる。
ボールも大きく後ろに飛ばされて、それを土門が受け止めて風丸にパスが通る。
再び雷門イレブン達は、攻める為に駆け上がる。


「水津!」

風丸からのパスが飛んでくる。

『これは...』

走っていた足を慌てて止め、右向け右で体を横に向け右足を大きく空中に伸ばした。
つま先に届いたボールを、大きく真上に跳ねさせて、落ちてくるまでのその間に体制を整え直し、胸でトラップしたボールを足元に下ろし、前方から来るSPフィクサーズを避けて、染岡にパスする。

「悪い水津!短かった!」

謝る風丸に大丈夫!と片手を上げる。

『届いたから問題ないよ』

「次からは合わせる」

風丸とは帝国戦では入れ替わりで入ったし、尾刈斗戦では後半戦だけしか一緒に戦ってないし、そんなチーム歴が浅い者に、鬼道でもない限りピッタリ合わせるのは難しいだろう。

「いけー!染岡!」

後ろから円堂の叫びが聞こえる。やっぱり変な感じだ。私がピッチに立ってるなんてさ。


「ドラゴンクラッシュ!!」

「セーフティプロテクト!」

染岡の放った蒼き龍は、ゴールキーパーの必殺技によって張り巡らされたプロテクターに弾かれてしまった。

「くそっ...」

ボディガードなだけあってガードが硬い。

「さあ、攻めるよ!」

ボールを止めたGKからパスされたSPフィクサーの少女はドリブルでどんどん駆け上がっていく。

「風丸、チェック!」

鬼道の指揮に返事をして風丸がマークにつく。

「来たね宇宙人!」

「俺は人間だ!!」

「へっ、すぐにわかるよ!」

そう言った少女は、風丸が来る目の前でボールと共に上に飛んだ。
見事なアクロバットで風丸を避けた少女はそのまま、雷門陣内に攻め込んでいる金髪の女性選手にパスをだした。

ヒュー、やるぅ。

「やられた!壁山!!」

「通さないッス!!」

壁山が立ちはだかれば、女性選手に並走するようにしていたシルクハットの選手が彼女の隣に並んだ。

「「いくぞ!!」」

ピッタリと声を揃えた2人は、合と叫びダンスを踊るかのように手と手を取り合い、気の掛け声で、手を離し両手を斜めに伸ばした。
そして、道の叫びで腕をL字に曲げた、2人から真空波の様なものが飛び出して壁山を襲った。
ひっくり返された壁山を抜き、その様子に呆気に取られていた栗松の隙をついて、SPフィクサーズはシュートを放った。

「トカチェフボンバー」

トカチェフは元々鉄棒の技だったか。2人の選手が向かい合い両手を掴み、その手を主軸とし、1人の選手を支えにもう1人の選手が鉄棒のように足を振り上げその勢いでシュートを放った。

「爆裂パンチ!!!」

飛んできたシュートを円堂がパンチラッシュで弾き返す。
弾かれたボールを栗松が蹴り飛ばし染岡へとパスが通った。

「くらえ!」

ドラゴンクラッシュを放とうとする染岡の前に、いくよ!と黒服の少女が立ち塞がる。少女が頭上でクロスさせた手を解くように下に振り下ろす。

「ザ・タワー!!!」

彼女の足元から塔が生えて上に伸び、頂上に立つ彼女が両手を天に掲げれば染岡に雷が落ちた。

「詰めが甘いね、宇宙人!」

地に倒れた染岡を見下ろして少女はそう言い放つ。

「くっ...!...っ!」

少女を睨みつけていた染岡が、一瞬表情を変え足元を見た。
そうだった。確か、ジェミニ戦での負傷で足を痛めてるんだった。と、なると先程の風丸の届かなかったパスもそれが原因だし、あと一人壁山もだ。

『大丈夫?』

傍に寄って手を伸ばせば、問題ねぇよと染岡は自力で立ち上がった。

『いや、そうじゃなくてあs、......』

いや、これは言わない方がいいのでは...。これは、瞳子さんの信頼度を上げるイベントだもんな。

「あ?なんだよ?」

『ううん。無理に突っ込んだらダメよ』

そう声をかけて、向こうチームのスローインで始まるからブロックにまわる。

こちらのブロックを避けて、スローインボールを取ったSPフィクサーズの選手が攻め上がって来るのを土門が上手いことブロックしてくれたので、相手チーム選手がパスしようとしたボールをアクロバットで飛んで空中でカットする。さっき少女がアクロバットをかっこよく決めて見せてくれたからお返しだ。

よこせ!と染岡が手を挙げるが、悪いが怪我人に無理をさせるつもりは無い。
一瞬立ち止まって、パスに迷う素振りを見せる。

『豪炎寺!』

真っ直ぐ豪炎寺にパスを出せば、ボールを取った豪炎寺はドリブルで駆け上がる。

「さあ前半も残り僅か!ここで雷門が攻撃に出た!」

駆け上がる豪炎寺の前にSPフィクサーズから2人のディフェンスが付けば、彼は踵でボールを後ろに蹴って一ノ瀬にバックパスを出した。

「染岡!」

一ノ瀬から染岡にパスが行く。
せっかく無茶させないようにと思ったんだけど、結局彼にボールが行くのか...。

染岡が足元に来たボールに対しシュート体制に入る。

「またやられに来たか!」

少女が立ちはだかれば、染岡は一瞬怯みドラゴンクラッシュではない普通のシュートを放った。しかし、ボールはゴールから大きく逸れてラインの外に飛んで行ってしまった。

チッ、と染岡が舌打ちする中、古株さんが吹くホイッスルが前半戦終了を知らせるため大きく鳴り響いた。

「大したことないね、宇宙人さん」

「なっ!」

煽り散らしてくれるなぁ。火がつきやすい染岡に対してやる所を見るとかなりの確信犯である。

「くっそ...」

「染岡!いい感じだったぜ!後半もガンガン攻めてくれよ!」

円堂が駆け寄ってそう言えば、染岡は少し戸惑ったように、ああ、と頷いている。

「みんな、大人と互角に戦ってるじゃない!その調子よ!」

秋ちゃんが、タオルを配りながら嬉しそうにみんなに声をかけて回る。

「梅雨先輩!」

はいどうぞ!と春奈ちゃんから手渡されてドリンクを受け取る。

『ありがとう』

「いえ!先輩めちゃくちゃかっこよかったですよ!!届かないかと思ったパスもギリギリのところで取っちゃうし!」

『アレはフリスタやってたのが生きたね』

リフティングやってると大暴投なんてしょっちゅうだし、どうにかこうにかボール触れてそこから体制を戻すという癖がついてるのかも。

「みんな。聞いて」

パンパンと注目を集めるために手を叩いて瞳子さんがみんなを呼ぶ。

「後半の作戦を伝えるわ」

新しい監督は一体どんな作戦を考えるんだろうか、と皆が期待して見詰める。

「染岡くん、風丸くん、壁山くん。あなたたちはベンチに下がって」

瞳子さんがそう言えば名を呼ばれた3人から、ええ!?と声が上がるのだった。


奇策
監督のとんでも発言に一同が困惑していた。
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