フリースタイラーの変遷
□脅威の侵略者編
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ホイッスルが鳴って、半田からキックオフのボールをもらった染岡は鬼道へとパスを回したあと真っ直ぐに敵陣に切り込んでいく。
しかしそれを見てもジェミニストームの選手たちはピクリとも動かず、わざと染岡を通過させた。
「なめやがって...！」
「染岡！」
鬼道から再び染岡にボールが渡り、彼はシュートの体制に入った。
「ドラゴンクラッシュ！！」
ゴールへと飛んでいくそのボールの前に、ジェミニストームのキャプテン、レーゼが現れ彼はそれを左膝で受け止めた後、右足でその場からそのままシュートを決めた。
誰もが、あっ、という間だった。
ボールがゴールネットに突き刺さった後、円堂がマジン・ザ・ハンドの構えを取ったくらいにだ。
「何ですか！？あの速さ...！？」
目金が驚愕した様に口を開けている。
ベンチで見ていた我々ですら、レーゼがボールに触れたと思った瞬間にはゴールに入っていて、分からなかった。
「まだまだ、試合は始まったばかりだ！」
そう言って円堂は手のひらに拳を打ち付けた。
それを見てレーゼは、ふ、と鼻で笑った。
「地球にこんな言葉がある」
本来ならオタクとしては、でたー！と喜びたいところではあるが、現在はそんな気分にはなれない。
「弱い犬ほどよく吠える」
そう言いのけたレーゼを円堂がぎっと唇を噛んで睨みつける。
『カッとなりすぎて無茶なプレイングしないといいけど...』
「挑発に乗るなよ、円堂！」
響木監督が叫ば円堂はこちらを見て頷いた。まだ、大丈夫そうだ。
再び雷門ボールで試合が開始し、ボールを持った風丸が疾風ダッシュで切り込むが、雷門で1番足の早い彼に後ろから追いついたジェミニストームの8番イオが追い抜いて正面に周りそのターンの風圧で風丸を吹き飛ばしボールを奪い去る。
うわあああと倒れる風丸を見て、松野と鬼道がイオにスライディングを仕掛けるが、彼は手もつかずに脚力だけで空中で前方回転をして2人のスライディングから逃げその回転の風圧で2人を深き飛ばした。
イオはそのまま身を捻ってゴールに背を向けて踵でボールを蹴った。
敵ながら上手いし、アクロバットのレベルがやはり超次元である。
「ミス...？」
イオの蹴ったボールが、宍戸と少林寺の前に転がり、彼らはミスシュートかと、ボールを取ろうと1歩踏み出そうとしたその瞬間、一瞬の隙にDFであるはずの5番のカロンが現れてボールをゴールの中に叩き入れた。
1点、また1点と、素早いジェミニストームの動きについて行く事も出来ず、いつの間にか12点もの得点を許してしまう。
雷門のみんなはどんどんと疲弊していく中、あれだけの動きをしているジェミニストームはというとまだまだ余裕そうである。
「う、うぅ...」
『宍戸？』
急に宍戸はその場にしゃがみこみ足を抑え出した。ゴールから円堂が駆け寄って様子を見ているが、恐らく吹き飛ばされた衝撃で足をやったのだろう。
「交代を...！」
春奈ちゃんがそう言うが、夏未ちゃんがとは言っても...とベンチに座る彼を見つめる。
現状、残っている選手は目金1人だ。
「ぼ、僕だって...雷門の一員です！」
『目金...』
目金はガクガクと、震える足で立ち上がった。そう言って世宇子中との戦いでも立ち上がってくれていたが、直ぐに吹き飛ばされて怪我を負った。その恐怖が刷り込まれているはずなのに...。
選手達が傷ついているのに私は本当に見ているだけで、良いのか...？
「僕が、代わりに...！」
「選手交代だ！」
震える目金の前に、救いの手が現れる。
声高らかに宣言したのは豪炎寺で彼は、駆け足でグラウンドの中に入っていきて、その姿を見たみんなの顔色がぱあっと明るくなった。
凄いな、豪炎寺は。
「立てるか、宍戸」
「豪炎寺さん...！来てくれたんですね！」
夕香ちゃんに優勝報告をするために総合病院に行っていたはずだが、恐らく理事長辺りから話を聞いて駆けつけて来てくれたのだろう。
「豪炎寺くん！」
「宍戸を頼む」
目金が駆け寄れば、豪炎寺から立ち上がらせた宍戸を任される。
『目金、ゆっくり動かして、そっとベンチに』
ベンチから立って宍戸が座るスペースを確保する。
「水津」
『はい？』
「これを預かっといてくれ」
そう言って豪炎寺は着ていたジャージを脱いで投げつけてきた。
『うん。任せたよ』
「ああ」
「さあ！反撃だ！」
円堂が仕切り直しだ、と手を叩けば、豪炎寺はFW位置へと駆け出した。
『宍戸、痛みはどういう感じ？』
豪炎寺のジャージを軽く畳んでベンチの隅に置いて、宍戸の前にしゃがみ靴を脱がせている秋ちゃんの隣に座る。
「ズキズキ、痛いです。立っているのがもう...、いっ、た！」
「ご、ごめんね」
靴下を下げるのにちょっと触れただけでも痛いか...。見た目にもハッキリと分かるほど腫れているし、やはりこれは...。
『折れてるかもしれないわね...』
「そんな...」
『秋ちゃん副木の準備を。夏未ちゃんと春奈ちゃんはベンチ開けてちょうだい。目金、宍戸の足をベンチの向きに沿って乗せたいから持ち上げるの手伝って』
はい。とそれぞれが慌てて頷いて作業に取り掛かる。
『目金、そっとね。恐らくどっちの足もやってるから。宍戸も痛いかもしれないけど我慢してね』
「は、はい...ッ！！」
泣きそうな声で返事をする宍戸のアフロをボブボブと撫でる。
「梅雨ちゃん、副木と包帯用意したわ」
『うん。まず先に擦り傷の消毒から』
はい、と頷いた秋ちゃんから、脱脂綿とアルコール消毒とピンセットを渡される。
本当は1度水で流せたらいいんだけど、無闇に動かす訳にもいかないから仕方がない。とりあえずそれらを使って消毒を終えたあと、足を挟むように副木を並べてそれを包帯で3箇所、しっかりと結んで固定していく。
ベンチがバタバタと忙しなく応急処置を施している中も、試合は続いていて、豪炎寺、円堂、鬼道の3人が放ったイナズマブレイクはGKゴルレオが欠伸の片手間に軽々と片手で止めてしまった。止めたボールをその場でクルクルと回りながらまるで砲丸投げのように投げ飛ばしたそれをFW11番のディアムが受け取ってそのままシュートした。
「ザ・ウォール！」
壁山が必殺技で対抗するが、顔面でボールを受けてしまい、その巨漢諸共ボールはイナズマブレイクの為に円堂が空けたゴールへと叩き込まれた。
しまった、と円堂が駆け戻って壁山を起こす。
『あ、れ...』
「梅雨先輩？」
どうかされましたか、と春奈ちゃんに聞かれ、いや、なんでもないと首を傾げたまま返事をする。
アニメを見ていた当初は思わなかったが、ここ、壁山はジェミニの速さに対応していたんだな...。いや完全に対応出来た訳では無いから顔面で受け取ることになってしまったんだろうが。
他の選手達も集まってみんなで壁山の巨体を起き上がらせて居る。顔面でボールを受けていたが意識等は大丈夫そうだ、と頷いて宍戸の応急処置を続ける。
壁山のプレイングに感心したのもつかの間、豪炎寺が戻ってきたとはいえやはりジェミニストームのスピードに追いつけず、どんどんと点を取られてしまい、その上雷門選手達はどんどん吹き飛ばされて行く。
点を取られれば雷門ボールでセンターからのキックオフ。それを利用して直ぐに染岡が上がってその足元に豪炎寺はボールを蹴った。それを受け取った染岡は速攻シュート体制に入った。
「ドラゴン」
染岡のドラゴンクラッシュがゴールではなく豪炎寺目掛けて飛んでいく
「トルネード！！」
2人の放ったシュートの前に飛んで現れたレーゼは軽々とそれをカウンターした。
蹴り返されたドラゴントルネードは雷門陣まで物凄い勢いで飛び、疲弊し動けないで居た影野に当たり彼ごとゴールへ叩きつけた。
「影野！？」
円堂が駆け寄れば、影野は腹を抑えたまま、ゆっくりと立ち上がろうとした。
「大丈夫、だ...う、ぐっ...」
影野は腹を抑えたままその場にうずくまってしまった。
影野の細さでは、黒いボールではないにしろ建物を破壊する威力のシュートを放つボールを腹で受け止めなんかしたら折れてしまっているかもしれない。
『影野！交代を...！』
最悪、私が出ようと立ち上がれば、目金がジャージの袖を引いた。
「僕が行きます。水津さんは怪我の手当をしてあげてください。こ、こういうのは適材適所です」
ガタガタと震えている目金の男気に分かったと頷いて、その背をポンと押す。
『頼むよ』
「は、はい」
怪我するの分かっていて送り込むんだ。本当に私は最低だよ。
とりあえず影野の応急処置をしないと。腹部骨折か、そうじゃなくても圧迫で内蔵損傷の可能性もある...。
「俺たちの必殺技はコイツらには通用しないのか」
グランドではクソっと染岡が拳を握っている。レーゼが、ざく、とグラウンドの土を踏んでそんな彼の前に立った。
「必殺技といったか？」
「それがどうした！！」
染岡が言い返せば、レーゼはふっと笑った。
「必殺技と言ってもこの程度。お前たちの力の限界と言うことだ」
「俺たちに限界はない！！」
ゴールから円堂がそう叫ぶ。影野に変わって目金がDFのポジョンに付き、他のみんなも支え会いながら立ち上がっている。
「諦めの悪いことだ。その遠吠えは破滅を招く」
「諦めの悪いのも俺たちの必殺技と言えるんでね」
かつて諦めの悪い雷門と敵として戦って、味方になった鬼道だからこそ、不敵に笑ってそう言った。
「雷門イレブンはいつだってそうやって勝ってきたんだ！」
「宇宙人なんて怖くないでヤンス！」
皆がそう言えば、レーゼはフンと鼻を鳴らして背を向けた。
「では、二度と我らに歯向かえないようにしてやろう」
そう言って宣言通り、彼らは動きを変えたのだった。
ジェミニストーム
その名の通り嵐の様に強襲し、雷門イレブン達は皆、吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。