フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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フットボールフロンティア決勝戦は、予定されていたフットボールフロンティアスタジアムから当日急遽変更となり、その上空へと現れた世宇子スタジアムでの試合となった。
フロンティアスタジアムに接続する形で降りた世宇子スタジアムの外壁から伸びた階段を登り大きなその都を開けて中に進んでグラウンドに出る。
天井は吹き抜けになっていて、空が近く感じる。

「ここが試合会場...!」

空飛ぶスタジアムなんて、とんでも施設に皆驚愕している様子だった。

「決勝当日になって世宇子スタジアムへ変更影山の圧力ね。どういうつもりかしら」

「どうもこうもないよ」

その言葉に皆がえっ、と辺りを見渡す。

「決勝戦に相応しい舞台を用意した。ただ、それだけのことさ」

「お前!」
「アフロディ!」

天から差す神々しい光と共に、アフロディが上空から降り立つ。

「警告したはずだ。危険した方がいいと」

アフロディがそう言えば円堂はキッと彼を睨みつけた。

「サッカーから、大好きなものから逃げる訳にはいかない!俺たちの今の力を全てぶつけてお前たちに勝つ!」

円堂がそう言えばアフロディは面白おかしく笑ってみせた。

「特訓していたマジン・ザ・ハンドも完成させられなかったのに?」

「なっ、」

なんでそれをと誰かが言えば、アフロディはフッと笑った。

「大会副会長である影山総帥の元に一通の手紙が送られて来たからだよ」

「手紙、だと...!?」

「ああ。詳しくは送り主である水津梅雨さん。本人に聞くのが1番なんじゃないかな」

アフロディがそう言えば、皆はえっ?と驚いた様に私に視線を移した。

「嘘ですよね...先輩?」

春奈ちゃんを皮切りに皆が、嘘だろ...?と言葉を零す。

「冬海の時みたいにデタラメ言って俺らを惑わそうとしてるんだろ!」

土門がそう言えば、そうでヤンス!と栗松が声を上げる。

「そんな嘘には騙されないでヤンス!」

『ふふ、あはははっ...!』

思わず笑い出せば、みんな不思議そうな顔してこちらを見ていた。

『まだ、私の事信用してくれてるんだ』

そう言えば皆の口から、は?と言葉が零れる。

「どういう意味だ」

「お前まさか...!」

豪炎寺と鬼道が、眉間に皺を寄せた。

『そのまさかだよ。アフロディが言うように私が影山さんに手紙を出したの』

なんで!と秋ちゃんが震えた声で叫ぶ。

『寄らば大樹の陰って言葉を知ってる?』

「頼るならば勢力のある者の方が安心でき利益が得られる」

『そう。流石鬼道クン。私、勝てない勝負はしたくないんだ』

「お前っ...!」

戦国伊賀島戦で、同じことを言った時隣に居た半田が声を上げて睨みつけて来た。

「なんで、昨日まで一緒に練習してたじゃないですか!」

宍戸がそう言えば、そうっスよ!と壁山も頷く。

「勝つために昨日、いつもより熱が入って指導してたんじゃないのか!」

そう言った風丸に、演技だよ演技、と返す。

「貴女、やっぱり私達を裏切るのね!」

夏未ちゃんがそう言う。

『やっぱり?やっぱり信用してなかった?そうだね、ずっと私の事嗅ぎ回ってたもんね。君を騙してお友達ごっこするのは中々大変だったよ、夏未ちゃん』

ニコニコと笑って言えば夏未ちゃんは、少し泣きそうな顔をして言葉を詰まらせた。

「お前ッ!ふざけんなよ!今まで一緒にやってきた事も全部嘘だって言うのかよ!!」

グッと染岡が私の胸グラを掴めば、その手をアフロディが掴み強く握った。

「クッ、てめぇ!」

「彼女に乱暴な事はしないでくれ。総帥の大事なお客様なんだ」

掴まれた手首の痛みに耐えられなかったのか、染岡は胸グラから手を離した。

「ふざけんなよ...!」

睨みつけてくる染岡に、ふっと笑ってアフロディの肩を叩く。

『そろそろ君らも準備があるでしょ』

「ああ、そうだね。先に影山総帥の所に案内するよ」

そう言って手を差し伸べられたアフロディの手を取って、あ、そうだ、と円堂を見る。

『円堂大介の死に影山さんが関与してるかもって話』

「えっ...」

『影山さんに逆らうと君も殺されるかもね』

瞳が揺れ、拳を握り震える円堂を見て、アフロディに行こうと声をかければ、彼は私ごとふわりと宙に浮いた。

「試合、楽しみにしてるよ」

ふふふ、とアフロディが笑えば私達は眩い光に包まれた。
一瞬目を閉じただけなのに、いつの間にやらグラウンドから移動して、無機質な壁の廊下に居た。
どういう原理なんだろうなこれ。

「裏切るだけじゃなくて、最後に精神攻撃だなんて君も酷いことをするね」

ニコリと笑ったアフロディに、そうねと返す。

「この間は話を蹴ったのに、どうして急に気が変わったんだい?」

『あの時はマジン・ザ・ハンドの練習中だったしね。それが完成すれば勝てると思ってたんだよ。けれど、完成することはなかった。アレは円堂大介だけができる必殺技なのだと分かったから。勝てる希望のないチームに属する理由はないでしょう』

「なるほどね。価値があるのは勝利だけ、というわけだ。影山さんが君を気に入る筈だよ」

じゃあ行こうか、とアフロディは歩き始めた。
その背を追って歩きながらこっそりと息をつく。


良かった。アフロディの信用は勝ち取れたみたいだし、世宇子に潜入できた。
みんなのあの顔を見た時は胸が痛かったが、その反応のおかげでこうして上手くいった。

ここまでみんなと過ごして分かったのは、この世界はだいたいアニメ基準で話が進んでいる事だった。
つまり、この決勝戦でみんながボロボロになる事が既に分かっている。だから、それだけは避けたかった。そのためには彼らが、神のアクアを飲むのを阻止するしかない。そこで思い出したのが、ゲーム版でのマネージャー達の潜入作戦だった。

裏切り
これが1番手っ取り早く相手陣地に忍び込む最良の手口だったのだ。
さあ、試合が始まるまでに神のアクアをどうにかするぞ。
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