フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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秘伝書をペラペラと捲った円堂を中心にフィールド上の選手だけじゃなく、ベンチの目金もマネージャーもみんなが集まっていく中、私はクーラーバッグを抱えておじさん達に買ってきた飲み物を配る。

『はい、響木さん』

どうぞ、と手渡せば響木さんは、すまんな、と言ってペットボトルを手に取った。

『あ、場寅さんに、菅田先生もどうぞ』

「ええ、ありがとうございます」

「ああ。ありがとうな、水津」

いえいえと手を振って、後渡してないのは...と辺りを見渡す。

集まって秘伝書を見ているみんなの方へふと視線を移せば、影野はベンチに座ったまま皆の様子を眺めていて、そんな彼の事が気にかかったのか浮島さんが隣に座って声をかけていた。
浮島さんは二三言影野に声をかけた後ぽんぽんと彼の肩を叩いてベンチから立ち上がりこちらに向かって歩いてきた。

「俺も水貰っていいか?」

『あ、はい。どうぞ』

クーラーバッグから取り出したペットボトルを渡せば、それを受け取って浮島さんは子供たちを見つめた。

「嬢ちゃんみたいな気遣いが出来る奴がいるから、あの子らが自由に出来る」

『はい?』

「けどな、嬢ちゃんもアイツらの仲間なんだ。こういう時は輪に混ざりに行くもんだぜ」

そう言って浮島さんは、私の肩から下げていたクーラーバッグの底に手を伸ばした。

『え、あの...?』

「だいたいこういうのの準備は、俺らを呼びつけた響木がやるべきだしな」

クーラーバッグを抱き抱えて、私の肩から紐を外した浮島さんはそう言ってニッと笑った。

「全く響木は昔から気がきかないからな」

「聞こえてるぞ浮島!」

響木さんは怒ったようにそう叫んでいるが、周りのイナズマイレブン達がうんうん、と頷いているから思わず笑ってしまう。
昔もきっとこんな、和気あいあいとした感じだったんだろうな。

『みなさん、仲がいいんですね』

そう言えば、浮島さんは鼻でフッと笑った。

「さあな。さ、嬢ちゃんも仲間のとこに行ってきな」

『はい』

一礼してみんなの輪に向かえば、どうやら秘伝書の中から同じ技を見つけて風丸と豪炎寺の2人でやってみようという話になったようで、今はどちらが上で飛んでどちらが下のオーバーヘッドキックをやるかと言う話になっている。
イナズマイレブンのおじさん達はFWの備流田さんが上で、DFの浮島さんがオーバーヘッドをやっていたけど、どうやら逆で行くようだ。まあ、言うてサッカーは始めたばかりの風丸よりも、幼少期からやっているし、イナズマ落としの実績もある豪炎寺がオーバーヘッドキックを担当するのが無難だよね。
その結論で至った円堂が、鬼瓦刑事に試合再開を申し出に向かって、選手達はフィールドに戻つてポジションにつく。
我らマネージャー4人と目金も影野のいるベンチに戻ってそれぞれ腰掛けた。

『炎の風見鶏か...。風見鶏ってどんな鳥だっけ?』

試合再開して、炎の風見鶏を打とうとしては失敗してを繰り返しているフィールドの様子を見ながら、そう言えば、隣の影野から、えっ?と疑問の声が聞こえた。

「もう、何言ってるのよ。風見鶏は風向計です。屋根の上についてる鶏の飾り見た事ないかしら」

夏未ちゃんの説明に、ああそれか!と返す。まあ、本当は知ってるんだけど。

『あれだよね、東西南北のバッテンの中心から棒が伸びてて鶏が刺さってるやつ』

「バッテンの中心...」

ぼそりと隣からそんな声が聞こえる。

「日本じゃあんまり見ないよね」

『アメリカは結構あるの?』

秋ちゃんにそう聞けば、彼女はうーんと唸った。

「日本よりはあるんじゃないかな?でも、どうだろう?住んでたのは小さい頃だったし屋根の上とかあんまり気にしてなかったから」

『あー、まあ子供の目線だとそんなに目につくものではないよね。気をつけて見てないと気づかないか』

「...気をつけて見る...」

またボソボソと隣からそんな声が聞こえる。

何回目かのチャレンジに失敗した風丸と豪炎寺を見て、響木さんが見本を見せてやれと浮島さんにボールを渡す。
浮島さんはドリブルで駆け上がって、備流田さんに目線で合図し、そのボールを高く蹴りあげた。
落ちてくるボール目掛けて、2人は走り、落ちてきたボールを再び2人の力で高く蹴りあげた。

「そうか!」

隣の影野が、ハッとしたような声を上げて立ち上がった。

「「炎の風見鶏!」」

浮島さんと備流田さんの2人が蹴った、炎の風見鶏は羽ばたくような軌道で飛んで行き、ゴッドハンドで迎え撃とうとした円堂の手を弾いてゴールへと突き刺さった。

「クソっ...」

地に寝そべり悔しそうにした円堂のいるゴールポストの傍に影野は立った。

「この技の鍵は2人の距離だよ」

そう言って影野はフィールドの中に足を踏み入れ、風丸と豪炎寺の元に向かった。

「2人がボールを中心に同じ距離、同じスピードで合わせなきゃダメなんだ」

いつも、皆の輪の後ろにいる影野が自ら足を踏み出して話の中心となっている。

「なるほど!」

「そういう事か」

「よく気がついたな!」

円堂が駆け寄ってそう言えば影野は嬉しそうに笑って、ベンチに戻ってきた。

『影野よく分かったね』

「うん。俺の出番が来る時の為にしっかりと相手を見てたんだ。そしたら、マネージャー達が風見鶏の話してたから...。あれで、炎の風見鶏は本物の風見鶏の同じ長さの棒と棒がバッテンになっててその中心に鶏の棒が刺さってるってのを表現してるんじゃないかって気がついて」

『そっか』

よしよしと自分より座高の高い影野の頭を撫でる。

「え、と...水津さん?」

『影野は大人しいからさ、土門が入ってきて控えに回されても怒らなかったじゃない』

「う、うん...。というか、ほら、俺はまだ初心者だし」

『風丸も初心者だし、松野や目金もだよ』

「でも風丸もマックスも運動神経がいいから」

「ちょっと、さり気に僕を外さないでくださいよ」

『いや、それはしょうがないよ』

影野の横から文字通り横やりを入れてきた目金にツッコミを入れて、影野に向き直る。

『影野は、もっと欲出してもいいと思うよ。今に見てろと、ベンチで相手をしっかり観察するといい。ここからだとフィールドの上で対峙してる時は見えなかった事が見えてくるし、戦っている最中より冷静に分析もできる』

「うん」

『さっきみたいにみんなにアドバイスも出来るし、フィールドに立った時、考えて動けるプレイヤーになるよ』

なるほど、そう呟いて影野はじっとフィールドを見た。
雷門ボールで試合が再開して、松野がドリブルで駆け上がり、豪炎寺にパスが通った。
豪炎寺が風丸に行くぞと声をかけて、大きくボールを蹴りあげた。

「今だ!」

弧を描いたボールが豪炎寺と風丸のいる距離のちょうど真ん中にくる辺りで影野が大声を上げた。
その合図でボールへ一直線にかけた2人が同タイミングでボールを蹴りあげる事に成功した。高く蹴り上がったボールと共に、風丸は更に高く、豪炎寺はオーバーヘッドキックで飛び、2人の息の合ったキックで蹴られたボールの炎の鳥がイナズマイレブンのゴールへと飛んでいく。

「やった!」

隣で影野がグッと拳を握りしめた。

見事だ!そう響木さんが叫んでボールを止めようとどっしりと構えた。







陰の立役者だね。
ゴールを割ったシュートに皆が喜ぶ中、影野にそう言えば、彼はいつもの不気味な笑みじゃなくて嬉しそうにフフと笑った。
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