フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
47ページ/97ページ


『ナイスセーブだったけどね、本当に危ないから!顔面ブロックは絶対ダメよ。ナイスガッツだったけど!』

「いやお前、怒るか褒めるかどっちかにしろよ」

染岡に呆れられながらも、目の前に座る土門に説教を垂れる。

『頭に衝撃が加わるってとこは脳震盪を引き起こしたり、意識不明になったり、心肺停止になったりするんだからね!?あの場はしょうがなかったにしろ、本当に危険な行為だからね。他の子も真似しないように』

主にDF勢に向かってそう言えば、土門も含めた5人がはーいと返事をした。

「大袈裟だなぁ」

そう言った半田に思わず、は?と目をかっぴらいて見れば彼は、ひっ、と悲鳴を洩らした。

『今なんて?大袈裟?大袈裟なくらいがちょうどいいんだよ。知ってる?いや知らないからそう言えるんだよね。この世はね、頑張って努力した事が一瞬で全て無駄になるんだよ。たった1度失敗して高いところから落ちただけで、二度とサッカー出来なくなるんだよ。頑張ったも、努力したも、一生懸命も全部無駄。それってどんな気持ちだと思う?死にたくなるんだよ!!』

捲し立てるようにそう言えば、一同はシーンとしてしまった。

『ねえ、豪炎寺。君は足折ったから分かるよね。秋葉名戸戦、ピッチに立ちたくはなかった?もどかしいと思わなかった?』

「それは...そう、だな」

神妙な顔で豪炎寺が頷く。

『だよね。経った1ヶ月試合にも練習にも出れないだけで不安になるよね。じゃあそれが一生だったら??耐えられないよね』

「水津さん...」

『サッカーが出来ない体になってしまうくらいなら、あのまま死んでしまった方がよかった。そんな気持ちを君らには味わって欲しくない』

「水津」

ぽん、と肩に手を置かれて、振り返れば響木監督だった。

「お前の言うことも、選手達を心配しているのも分かるが、あまり不安を煽るな」

そう言って何かを見ている響木監督の視線を追えば、青い顔をした壁山がいた。
あー、元々ビビりだし、DFで体張るし、高所恐怖症なのにイナズマ落としに抜擢されて高いところから落ちるリスクある壁山にはキツい話だったわ。

『すみません。ヒートアップしてしまいました』

ぺこりと頭を下げれば、よしよし、と響木監督に頭を撫でられた。うーむ、まあ見た目中学生だし子供扱いされるのは仕方ないか。

「確かに、水津の言う通り顔面ブロックは危険だからな。お前達もやらないように。さあ、外に出て練習だ練習」

響木監督がパンパンと切り替えるように手を叩けば、円堂も明るくよし!と声を上げた。

「練習やろうぜ!」

おおー!と円堂に続いて皆元気よく部室を飛び出して行く。

「あっ、ちょっと皆!今日の練習表忘れてるわよ!」

そう言って秋ちゃんが練習表を持って飛び出せばその後を記録バインダーを持った春奈ちゃんが追いかけていく。
なら、私はドリンクでも作ろうかなと、冷水機のある場所に向かうためにバスケットに空のボトルを入れていく。

「やけに感情が篭っていたが、お前は大怪我の経験があるのか?」

『...ありますよ。それも大きな大会の前に練習で失敗して』

作業の手を止めて、はあ、と大きなため息を吐く。

「そうか。後遺症があるのか?」

『ええ、片足に麻痺が』

「今は普通に歩けているように見えるがリハビリか?」

いいえ、と首を振る。

『この身体は、怪我をした私のモノとは違いますよ。本当の私は別世界にいる夢を諦めたアラサー女なんで』

そう言えば、響木監督はキョトンとしたようすだった。そりゃあそうだ。普通にいきなり何言ってんだこいつ?ってなるわ。

「...前世の記憶がある、ということか?」

響木監督は何とか絞り出した答えなんだろうけど、残念。多分違うんだよなぁ。私は私としての意識がある前のこの身体の記憶がないし、そもそもあっちの世界で死んでないから、強くてニューゲームでもない。だが、

『それとは違いますけど、まあ、似たようなものですかね』

自分でも自分に起こっていることがよくわかっていないし、説明が大変なので似たようなモノとしておこう。

「?...。とにかく、選手として致命傷の怪我をした記憶があるということだな?」

おお、さすが響木監督。何とかまとめてくれた。

『そういうことです』

「ならば、お前さんがさっき全て無駄になると言っただろう。あれは訂正しないとな」

え?と首を傾げれば、響木監督にまたぽんぽんと頭を撫でられる。

「お前が、練習した過程で覚えたこと、知ったこと。ボールの蹴り方1つにしろ、筋トレ方にしろ、それを今、お前は円堂たち教える事で使っている。例え自分の為にはならなくなったとしてもだ、完全に無駄にはなってないだろう」

『あ、』

ああ。確かに。そう言われてみれば、あの頃頑張ってやった練習は無駄ではなかったのかもしれない。

『はー...、大人だ』

「そりゃあ、ホントかどうか分からんが、アラサーと言うことはまだ20後半だろ?20代のガキと比べたらな」

ハッハッハと笑って響木監督は頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。
まあ、私の2倍歳取ってるんだもんなぁ。

「水津。俺からみればお前まだまだガキだ。それに精神年齢がどうであれ今は中学2年生だろう。無理に大人ぶろうとしなくていい、1人で影山の事を探るような無茶な事もしなくていい。これからは俺が傍に居てやる。何かあれば相談しろ」

『...響木さん。ありがとうございます』


頼れる大人
けど俺が傍に居てやるってまるでプロポーズみたいですねって言ったら、思いっきり頭を叩かれた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ