フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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梅雨の裏切り行為でチームの皆が動揺を隠せずいる中、去り際に爆弾発言を喰らわされた円堂は拳を握りしめ肩を震わせ、ギッと歯を食いしばっていた。

「影山がじいちゃんを...!」

「円堂、気にするな。きっとお前を惑わそうとするデタラメだ」

風丸がそう言えば、今まで口を閉ざしてた響木が、いや、と呟いた。

「デタラメはない。鬼瓦の調査では影山が関わっている可能性が高いと言うことだ。水津が言わなくとも俺からも試合前に伝える気でいた」

「そんな、」

唇を噛んで鼻息を荒くし、肩を震わせる円堂を皆が不安そうに見つめる。
これで円堂が憎しみ染まるようであれば、監督を降り試合を棄権しようと響木が心に決めた時、円堂の肩に豪炎寺が手を乗せた。
他の誰でもない、影山のせいで妹が昏睡状態に陥っている豪炎寺だったからか、彼の目を見て円堂は荒くなっていた呼吸を整える様に、大きく深呼吸した。それでいい、と言わんばかりに豪炎寺は頷いて、円堂の肩から手を離した。

「円堂くん」

夏未が名を呼べは、秋も不安そうに円堂の名を呼ぶ。
その声に振り替えれば、チームのみんなが円堂!キャプテン!と声をかける。
円堂は大きく呼吸をし直して、握っていた拳をゆっくりと解いた。

「監督、みんな...。こんなに俺を思ってくれる仲間。みんなに会えたのはサッカーのおかげなんだ。影山は憎い。けどそんな気持ちでプレーしたくない!サッカーは楽しくて、面白くてワクワクする。ひとつのボールにみんなが気持ちをぶつける最高に熱いスポーツなんだ!」

円堂は拳を握り直し眼前へと持ち上げた。

「だからこの試合も俺はいつもの俺たちのサッカーをする!みんなと優勝を目指す!サッカーが好きだから!」

円堂が顔を上げてそう言えば、静かに聞いていた皆は、うん、と大きく頷いた。

「そして、水津の事だけど...。俺はアイツを信じてる!水津が何かやる時はいつだって俺たちの為だった。だから今回もきっとそうだと思う」

まだ、信じるのか、と皆が円堂を見る中、そうだなと豪炎寺が頷く。

「もしかしたら影山に脅されていた可能性もある」

「確かに、影山ならそれもありそうですけど...」

「水津の事は今とやかく言ってもどうにもならん。全ては勝った後、本人から聞き出せばいい。さあ、試合の準備だ!」

響木がそう言えば、まだ納得のいかないであろうもの達も含め皆、はい、と返事をして控え室へと走っていく。
ロッカールームで着替え終わった選手達が部屋を出ればと入れ替わりで、準備があるからとマネージャー達が中に入る。
先に行ってるぞ、と言って選手達がアップの為グラウンドに向かえば、彼女達はロッカールームに鍵をかけた。

「もうすぐ試合ね。貴女たち...覚悟はいい?」

そう言ったのは夏未で、すぐさま春奈が大丈夫!と返す。

「覚悟は決まってます!」

「梅雨ちゃんが私達を信じて託してくれたんだもの...」

秋がそう言えば、他の2人も昨日の朝の事を思い返していた。
3人にお願いしたいことがあるの、そう言った梅雨から聞いたのはとんでもない事だった。

『私、試合当日は世宇子のチームに潜入しようと思ってる』

大真面目な顔でそう言った梅雨に3人とも、え?と聞き返した。

「何を言ってるの!?」

「どうして!?」

「潜入ってどういうことですか!?」

三者三葉の驚き方をした3人に梅雨は、携帯を開いてひとつの動画を見せてきた。そこにあったのは世宇子中の準決勝の時の映像。

『これを見てどう思う?』

「...まるで、人知を超えたような」

春奈の言葉に梅雨はそうだね、と頷いた。

「あのアフロディとかいう者が言ってた言葉が本当だっていうのかしら?」

『いや、言ったでしょ?私は神なんて信じてないんだって。むしろ信じるのは化学の力だね』

化学の力?と秋が首を傾げる中、夏未は化学...、と思考を巡らせた。

「...まさか...!...ドーピング!?」

夏未の言葉に、そんな、まさか、と言った様子で秋と春奈も驚きの表情を見せる。

『私はそうじゃないかな、と思ってる』

どこか確信しているような顔で梅雨が言い切る。

『影山ならドーピングくらいやりかねないでしょ?それにまた、鉄骨落としのような罠を仕掛けて来るかもしれない。そうなる前に相手の懐に侵入して、手を打つべきだと思う』

「それで潜入...。つまりスパイの様なことをするって事よね」

『うん。なぜだか知らないけど、影山は私のことを気に入ってくれてる様子だし、アフロディもチームに勧誘してきたし、上手くやれば堂々と潜入できる』

さも簡単と言うように話す梅雨に危険よ!と秋が声を荒らげる。

『分かってるよ。だから今、君たちにこうして話をしてる。私が潜入して試合の前半までに帰って来なかったら3人に助けて欲しい』

「助けるって言ったって...」

『世宇子側の控え室とか、恐らく影山がいる部屋とかの近くで、私の事を返せだのなんだの言って暴れて欲しい。警備の目を逸らして貰えれば...大概どうにかなると思う。ただそれも危険だから無理にとは言わないけど』

「やります!」

そう食い気味に言ったのは春奈だった。

「音無さん!?」

「水津先輩、私達の事信頼してくれてるから話してくれたんですよね。今までなら誰にも言わないで1人でコソコソ潜入してたはずですよ」

『いや別に今までも信頼してなかった訳では...。でも、最後の試合。みんなの為にも、私と共に危険を冒して欲しい』

梅雨は3人の方を真っ直ぐ見つめてそう言った。

「水津さん...」

夏未は小さくため息をついたあと、分かったわと頷く。

「もう、そんな風に言われたら断れないじゃない」

秋も仕方がないと言うふうに言えば、梅雨はありがとうと笑った

『それでね、私が戻るまでの間...みんなきっと世宇子との試合で怪我をすると思う』

それから後は治療道具の確認だとかそう言った話をした。




「水津さんが約束通り前半までに戻って来られなかったら...」

「私達が梅雨ちゃんを助ける」

夏未と秋の言葉に、春奈ははい!と大きく頷いた。

「それまでは水津先輩が戻ってきてみんなを心配しなくていいように私達でみんなをしっかりサポートしましょう!」

えいえいおー!と3人が意気込む控え室のドアの向こうで、1人が静かにそういうことかよ、と呟いていた。


トラスト
それにしても水津先輩、名演技でしたよね。
演技でも私はちょっと傷付いたわよ...、ってホントにちょっとだけですからね!
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