フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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豚ロース肉の脂身の方に包丁の先を使ってちょん、ちょんと切れ目を入れていく。こうすることで加熱した肉が丸まるのを防ぐ事ができる。
それに粗挽きの塩コショウを両面にふりかけしっかりと下味を付ける。
卵をボウルの中に割入れて、しっかりと溶きほぐしておいて...。
豚ロースに小麦粉叩いて、溶き卵に潜らせ、パン粉を付ける。それを何回も繰り返し作業していれば、家庭科室の扉がガラガラと音を立てて開かれた。

「「「おはようございます!」」」

そう言ってマネージャー達3人が慌てた様子で室内に入ってきた。

「ごめんなさい!私達、寝坊しちゃって」

秋ちゃんの言葉に大丈夫だよ、と返す。
遅刻って言ったって、私が起きてから30分くらいしか経ってない。

『みんな昨日はおつかれだったもんね。男の子達もみんなまだ寝てるでしょ?』

「ええ。ところで、水津さん貴女足の具合はどう?」

『もう痛みはほとんどないよ。まだ安静にはしとくけどさ。ご飯もう少しで炊けると思うからみんな手伝ってくれる?』

はーい、と返事をくれた春奈ちゃんと違って、秋ちゃんと夏未ちゃんが怪訝そうな顔をする。

「貴女、安静にするっていいながらお米炊いたの?」

「そうよ、人数が人数だから重かったんじゃない?」

『あはは、大丈夫。響木さんが先に起きててご飯は炊いてくれてたよ』

そう言えば2人はほっとしたように息をついた。

「で、その響木監督は何処に行っちゃったんですか?」

家庭科室内に見えない姿を探して春奈ちゃんが首を傾げる。

『響木さんは飲み物買いに行ってる。昨日急にOBの人達も来て一緒にご飯食べたから買ってた分足りなくなっちゃたんだって』

言ってくれれば昨日の差し入れ買いに行った時に一緒に買ってきたのにね。

「そうなの。じゃあ私達は...」

『とりあえず、おにぎりの具材の準備してもらっていい?鮭は焼いて熱冷ましてあるから身を解してもらって...、あとは鰹節とお醤油とかで煮てもらって、ツナ缶とマヨネーズも合わせて...』

「分かったわ。じゃあ私がおかか作るから春奈ちゃん、鮭お願いしていい?」

「はい!任せてください!」

「夏未さんはツナ缶を開けてこのボウルに移してもらっていいかしら?」

「え、ええ。やってみるわ」

少し顔が引きつっているが、夏未は頷いて秋ちゃんからツナ缶を受け取った。

『夏未ちゃん開け方わかる?』

「缶ジュースと一緒でしょう?」

『あ、さすがにそれは分かるんだ。缶で手切りやすいから気をつけてね』

分かったわ、と頷いて、夏未ちゃん恐る恐るプルタブを引っ張っている。大丈夫かな...。

「ところで、なんで水津先輩は朝からトンカツ作ってるんですか?」

『あ、これ?お昼の仕込みだよ。皆にカツサンド作る約束したのなんやかんやで結局出来てなかったからね』

「ああ、それ用のトンカツなんですね」

春奈ちゃんにそうそうと頷いてから、今話しておいた方がいいかな、と思い作業の手を止める。

『3人とも、作業しながらでいいんだけどちょっと聞いてくれる?』

そう言えば3人とも不思議そうにこちらを見た。

「なあに?」

『実は、3人にお願いしたいことがあって...』

あのね、と話出せば3人は真剣な顔で話を聞いてくれた。

『...みんなきっと世宇子との試合で大きな怪我をすると思う。救急道具の点検とか買い足しとか、今日のうちにしっかりしといた方がいい』

「そうね」

『今日は午前中に練習して午後はミーティングで終わって解散するって監督が言ってたから、午前中に点検して必要なものの買い出しリスト作って、ミーティングの合間に買い物行くのがいいかなって思ってたんだけど、監督から私はミーティング参加しろって言われてて』

「そういうことなら私達で行ってきますよ!」

『ごめんね。荷物重たくなるだろうし大変だろうけど頑張ってね』

「大丈夫よ。場寅に車を出させるわ。それに元々貴女は足を痛めてるんだから重たいものの買い出しに行くなんて持っての他です。明日の為にも貴女は安静にしてなさい」

夏未ちゃんにそう言われ、はーいと返事をすれば、全くとため息をつかれたのだった。








菅田先生に起こされた男の子達はマネージャー達が用意した朝ごはんのおにぎりを食べ終わって、ここ数日の中では1番元気よくグラウンドを駆け回っていた。
昨日の秋ちゃんの言葉もあり円堂が吹っ切れたのが1番の要因だろうなぁ。

「ザ・ウォール!!」

壁山の必殺技を正面から受けた栗松がうわぁぁぁ!と叫び声を上げる。

『栗松、後ろに倒れる時は頭ぶつけないように意識して』

「はいでヤンス!」

『影野!チャージはもっと当たり強く!』

そう叫べば、うん、と影野は頷く。

『目金は背を向けて逃げない!』

「ひぃ!無茶言わないでください!」

『土門ナイススライディング!少林寺は受け身正面から取らないように!なるべく肩から落ちるように』

ピースする土門と、ハイと返事をする少林寺を見て、一息つく。
雷門でもタッパのあるDF3人に、小柄な3人の相手をしてもらっている。どうしてもチャージされたり必殺技を使われたりしたら小柄な選手は吹っ飛ばされやすく怪我もしやすい。出来るだけ受け身を取る癖を付けなければ。

「流石に決勝戦前だけあって、慎重派の水津でも指導も熱が入るな」

そう言いながら肩で汗を拭う風丸に、ほら、とタオルを渡せばサンキューと返ってきた。

『慎重派って?』

「いつもだったらあんまり危ないプレイングは好まないだろ。なのに今日は3人にガンガンぶつかるような指示を出してる」

確かにいつもなら選手が怪我するような危険なやり方は咎める方か。

『本番でやれってわけじゃないよ。ただ、受け身の練習としてはガッツリ来てくれないと困るからね。世宇子が紳士的なプレイングをしてくれるならいいけど、準決勝を見た限り圧倒的な力でゴリ推してくるみたいだからさ』

「そうか。確かに容赦なく攻撃してくるだろうからな...。ぶっ飛ばされた時の練習か」

風丸なら足も速いし捕まることが少ないだろうけど、いうて彼も小柄な部類だからなぁ。

『風丸も混ざる?』

「ああ、そうだな」

行ってくると風丸は汗を拭き終わったタオルを手渡して、走ってグラウンドの中に戻って行った。

「水津せんぱーい!」

風丸と入れ替わりで、春奈ちゃんがブンブンと手を振りながら駆けて来る。

『春奈ちゃん確認終わった?』

「はい!バッチリですよ!木野先輩と夏未さんが今買いに行くもののリスト作ってます」

『そう。じゃあ春奈ちゃんにここ任せていい?私そろそろお昼の準備に入るよ』

任せてくださいと胸を叩いた春奈ちゃんに場を一任して昼食の準備に向かった。


約束と験担ぎの意味も込もったカツサンドは好評で、あっという間にみんなのお腹の中に消えた。
お腹もいっぱいになったところで、最終ミーティングとして、買出し班であるマネージャー3人を覗いた全員が部室に集まり作戦会議を行っていた。
フォメーションは変わらず豪炎寺と染岡のツートップ構成。スターティングメンバーは、豪炎寺、染岡、鬼道、一ノ瀬、松野、少林寺、風丸、土門、壁山、栗松、円堂。

『前半は守りに徹して相手の動きを見た方がいいんじゃない?』

「いや、前半の体力がある内に攻め込んだ方がいい」

『無闇に接敵しても潰されるわよ。帝国が世宇子と戦った時も早々にやられたんでしょ』

そう言えば鬼道は少しムッとしたような表情に変わった。

「だが、攻めなければ点を取ることはできない。連携で畳かければいずれ隙が生まれるはずだ」

今までの相手ならそれでいいかもしれないが、世宇子に関してはそうはいかない。人知を超えた力で攻撃してくるのだから無闇に突っ込んで選手達を消費する訳にはいかない。
神のアクアの事がどうにかなるまでは出来れば皆に怪我をさせない方向にしたい。


『攻めることに執着していては、守りが疎かになるでしょう。ウチの攻撃はDFやGKが攻めに転じる事が多いから相手から見ればそれこそ隙よ』

そう言えば鬼道は、ぐ、と言葉を詰まらせた。恐らく普段の鬼道であれば前半様子を伺ってからという意見に賛同してくれたであろうが、やはり帝国と世宇子の試合で何も出来なかった事の悔しさと焦りからか、勝ち急いでいる気がする。

「鬼道も水津も少し冷静になれ。お前たちの言う通り攻めなければ得点には繋がらないが、攻めることによって隙が出来るのは確かだ。だからいっその事全員攻撃で守りを捨てるというのもありだがな」

『全員攻撃ですか...。元々雷門はそのきらいがありますけど...』

メリットと言えばオフサイドトラップを仕掛けやすい事か?けど超次元サッカーにあんまりオフサイド関係ないんだもんなぁ。
アフロディなら普通にロングシュート打ってくるしな。

『するにしたってやっぱり、ある程度相手の弱点を見つけた後の方が...』

「しかし、そうしているうちに疲弊してしまっては元も子もない。やはり前半で一気に攻めるべきだと思います」

鬼道が進言すれば、響木監督はうむと頷いた。

「前半からチャンスがあれば攻めがる!」

響木監督がそう言えば、みんなは大きな声でハイ!と返事をした。みんなはやる気だしこうなったら致し方ない。


皆が大きな怪我をしないように


神に縋るしかない
アフロディの前で大々的に否定したのにね。
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