フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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ハンドル回しもみんなで交代しては休憩を取りの繰り替えしで何とか続いて、1時間ほどで円堂は床の丸を踏みながら、上や横からやってくる障害物を全て避けながらベルトコンベアを端から端まで通り抜けた。
やった!と喜ぶ皆に、響木監督は次のステップだと言った。

響木監督はOBユニフォームに着替えてきて、円堂をゴール前に立たせる。


「いいな円堂!さっきの感じを忘れるな!」

「はい!」

どっしりと構える円堂に、鬼道が行くぞ!と声をかけた。


「「「イナズマブレイク!!!」」」

鬼道と豪炎寺と響木監督の3人から繰り出されたシュートを前に円堂は天高く右手の掌を翳したあとそのまま正面へと突き出した。
手のひらにボールがぶつかり、やったか!と皆が表情を変えた。だが、

「あっ!」

ボールは掌を滑り円堂の顔面に勢いよくぶつかった。

「惜しい...!もうちょっとだったのによぉ...!」

もう1度!と響木監督が声をあげれば、円堂は直ぐに起き上がってもう一度ゴールの前に立った。
3人がイナズマブレイクを撃ち、円堂はマジン・ザ・ハンドを出そうと掌を押し出しては、ボールの威力を殺せずゴールの中に弾き飛ばされる。
それを何度も繰り返す。繰り返す度弾き飛ばされる円堂を見ては、皆があ...と落胆の声を漏らす。

「やっぱりダメか...」

「くっそぉ!なんでできないんだよ!」


苛立ちのあまり円堂は拳を床に叩きつける。

『円堂、』

円堂に近づいて、床に付けられたままの拳を両手で包み込む。

『こんなことで傷付けたらダメだよ。手は円堂の武器なんだから大事になさい』

「...水津。...ああ」

痺れを切らしたように、監督、と鬼道が響木監督を見れば、うーんと顎に手を添えて考え込んでいた。

「何かが足りない。何かが分からないが根本的な何かが...」

「根本的な何か?」

「やはり、マジン・ザ・ハンドは大介さんにしか出来ない幻の必殺技なのか...」

え、と円堂が顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。

「て、事はいくら特訓しても...」

「マジン・ザ・ハンドは完成しない...?」

「じいちゃんにしか出来ない...幻の必殺技...」

先程までのやってやろうぜ!という空気から皆の空気がガラッと変わって、しん、とした。
円堂でも完成させれることは知っているし、そんなことはないよ、と言って上げたいのは山々だが...どうしてそう言いきれるんだって話になるもんなぁ。参ったなと押し黙る。

「ちょっと、みんなどうしちゃったのよ!」

お通夜のような空気の中、そう声を上げたのは、秋ちゃん。

「負けちゃったみたいな顔をして!試合はまだ始まってもいないのよ!」

秋ちゃんがそう叱咤すれば、壁山がでも!と声を上げた。

「相手のシュートが止められないんじゃ...」

「だったら点を取ればいいでしょ!」

秋ちゃんの言葉に一ノ瀬が、えっ、と驚いたような顔をした。

「点を取る...?」

「10点取られれば11点。100点取られれば101点。そうすれば勝てるじゃない!」

「木野...」

「木野先輩の言う通りです!点を取ればいいんですよ!」

そう言って秋ちゃんの横に春奈ちゃんが並んだ。
それを見て、そうだねと頷いて、私も彼女らの横に並ぶ。

『雷門サッカー部はキーパーの円堂1人じゃないでしょ?DFだって、MFだって、FWだっている!』

選手達は伺うように顔を見合せだした。

「10点取られれば11点...」

「100点取られれば101点...」

「そうだよな、俺たちみんなで雷門サッカー部だ」

皆がぽつりぽつりと呟くのを聞いて鬼道がフッと笑った。

「鬼道!」

「ああ!取ってやろうじゃないか101点!」

鬼道が声高らかに宣言すれば、皆がああ!と大きく頷いて、風丸がDF1年生達の肩を叩く。

「俺たちもやるぞ!守って守って守り抜く。奴らにシュートは打たせない!」

「俺もやるっスよ!」

「意地でも守ってみせるでヤンス!」

だな、と土門が頷く。

「やろうぜ円堂!出来るさ俺たちなら!みんなで力を合わせれば!」

「みんな...!くぅ〜〜」

円堂は胸の前でグッと拳を握って思いっきり突き上げた。

「よし行くぞ!俺たちの底力見せてやろうぜ!」

おお!!とか、やるっス!とか皆それぞれ雄叫びを上げた。



片付けをして体育館に戻れば、選手達もマネージャー達もみんなクタクタだったのか、布団に飛び込むなりグーグーと寝息を立てていた。
響木さんと菅田先生は今日来てくれたOBのおじさん達を校門まで見送りに行ってる。

私は、一通り今日の出来事を部活動日誌に書き終えた所で、女子は女子で固められた布団の隙間を音を立てぬように抜け出して、いびきや寝相の悪い男の子達の元に向かう。

『全く、試合もこのくらい堂々としてればいいのに』

両手を大きく広げ大の字で寝ている壁山に、ずり落ちている掛け布団を掛け直す。

『あーあ、寝相も中途半端ね』

半田は片足だけ布団からはみ出している。これも上から布団をかけ直して...。隣の宍戸は持ってきた低反発枕を頭の下に敷くのではなく、抱き枕のようにギュッと抱き抱えて寝ている。恐らく、円堂がボール代わりに使った事が原因だろうな...。
枕元にロボットやフィギュアがたくさん並べてある目金の元は踏んだら危ないので避けて通って、影野とマックスは寝相いいな。
...今なら影野の隠れた目も、松野の猫耳帽子の下も見れるな...。いや、興味は惹かれるが、辞めておこう。
風丸や鬼道は結んでた髪を解いてるしそれに豪炎寺も逆立てる髪が下ろしてあって新鮮だ。
土門は一ノ瀬に腹蹴られてるけど、大丈夫か?そっと一ノ瀬の足を掴んで、ズラして落とす。
少林寺と栗松はお行事よく寝てるね。まあ小柄な分動いてもそんなに布団からはみ出さないかな。

『染岡と円堂は解釈一致だな』

グーグーと大いびきをかいて布団を蹴っ飛ばしている2人を見て、くす、と笑う。
染岡の布団をかけ直した後、しゃがんで円堂にも布団を掛け直してぽんぽんと軽く叩く。

『みんなおつかれだなぁ。頑張ってたもんね。...私は何も出来なかったなぁ...』

ぽんぽんとリズムを取りながら布団を叩いてはため息を吐いた。
ハンドル回しも手伝えなかったし、秋ちゃんのようにみんなのメンタルケアも出来なかった。

『明後日試合か...みんなが傷つくのは嫌なんだけどな...きっとみんな正々堂々立ち向かうんだろうな』

この先どういうことが起こるか分かってるばっかりに、不安と分かってて何も出来ないもどかしさと苛立ちに苛まれる。

『私も、覚悟を決めなきゃな...』

ぽつりと呟いたタイミングで、ガラガラと体育館の戸が開いた。

「誰だまだ起きてるのは」

「消灯だぞ」

中に入ってきた響木さんと菅田先生が小声でそう言う。

『あ、はい』

ゆっくりと立ち上がる。

「水津か。何をしてるんだ、そこは男子だろう」

『すみません。みんなの布団かけ直してました』

そう言えば響木さんが、お前は母親かと笑う中、女子たちの集まりに戻って自分の布団に潜るのだった。


おやすみなさい
良い夢を。
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