フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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皆で作り上げたカレーライスを食べながら、なぜ校内に居たのかOBの3人に聞けば、合宿をしていると菅田先生から聞きあるものを用意していた、と。

食事を終えた後、何かを企んでいるような楽しそうな笑みを浮かべた3人に連れられてイナビカリ修練場に入れば、その中に今までに見た事のない大きくて長い摩訶不思議な装置が設置されていた。

「なんですかこれ?」

秋ちゃんがそう尋ねれば、備流田さんは誇らしげに胸を張り人差し指を立てた。

「俺たちが40年前に作ったマジン・ザ・ハンド養成マシンだ!」

「えっ、養成マシン?」

そんなものがあったのか、と皆驚きの声をあげる。

「マジン・ザ・ハンドで大切なのはへそと尻の使い方。それをマスターするためにみんなで作ってみたんだ」

「思い出すなぁ。合宿だって毎晩会田の家に集まって...」

しみじみと語るマスターに、OB達はうんうんと感傷に浸りながら頷いている。

「で、完成したんですか!?」

半田が聞けば、備流田さんは、いやダメだったと首を振った。
それに対し半田はコケているが、まあ出来なかったのは響木さん自身の口から前に告げられているし分かってたことである。

「惜しいところまでは言ったんだがな...」

「って、事はこのマシンを使えば...!もしかしたら!」

そう言って秋が円堂に語りかければ、円堂はパァっと表情を明るくさせた。

「ああ!早速やってみよう!いいですよね監督!」

円堂が振り返りそう言えば、響木さんはゆっくりと口を開く。

「これを使っても完成させられる保証はないぞ」

はい!と元気よく返事をする円堂を響木さんはじっと見つめる。
というか響木さんでもこれで完成出来なかったのに、もしかしたらって流れになるの凄いよなぁ。でもまあ、

『へそと尻の使い方の練習になるんでしょう?それなら無駄にはならないしいいんじゃないですか?』

「いいだろう」

マジン・ザ・ハンド練習禁止令が外された円堂は顔を綻ばせて、マシンの上に飛び乗った。

「右足と左足で交互に丸を踏みながら端まで行くんだ」

過去にコレを使って特訓していた響木監督直々に説明が入り円堂は、はい!と大きく返事をする。
その間に皆も備流田さんや場寅さんなど他のOB達からマシンの使い方の説明がされ、用意された4つのハンドルの前に鬼道、豪炎寺、一ノ瀬、染岡が立つ。

「行くぞ円堂!」

一ノ瀬の掛け声に、円堂はおう!と返事をして身構えたが。

「えっ、ん?」

待てど動かないその様子に首を傾げる。

「か、硬い...」

4人が必死に取っ手を掴んで回そうとしているが軋む音がするだけで全く動かない。

「ふーむ、完全に錆び付いてる」

「40年前の機械だからな」

会田さんと響木さんが、仕方がないなというようにそう話す中、先端が細く長くなっている容器を手に持った菅田先生がニコニコと笑って2人に近づく。

「こういうこともあろうかと」

「油ね!」

「流石、先生!用意いい!」

秋ちゃんと春奈ちゃんに褒められて、菅田先生どこか嬉しそうに、まあなと返しながら機械の隙間に油を差して行く。

「これでよしと」

油がさされて動くようになったハンドルの前にに今一度先程のメンバーが着く。

「行くぞ円堂!」

「おう!」

4人が力いっぱい回し、今度は装置のベルトコンベアのようになっている床が回り始め、上部に吊るされている突起物も上下左右にクルクルと回り出した。
よし!と意気込んで、円堂はコンベア上の黒い丸に1歩足を踏み出した。

「おっとと、」

下の丸に気を取られていたら上の棒がやってくる。ぶっちゃけこれ相当危ないよなぁ。

「もっと低く!へそに力をいれて!」

響木監督からの指示が飛んではい!と返事を返した所で今度は足元に棒が来て、それに躓いて円堂は転ぶ。

「もう一度だ!」

「はい!」

「コンベアの動きよりも早く!そして障害物を上手く避けて通らないと向こうまで行き着かないぞ!」

「はいっ!」

円堂は、挑戦しては失敗し、を繰り返す。
これ、危ないのもだけど相当難しいな。下の丸をちゃんと踏むように意識を割けば障害物に当たるし、その障害物の速さも人力で回しているからかいつも一定ではないし、見ていても避けるのに相当な反射神経がいる。そしてそっちに注意を割けば、丸を踏むのが疎かになる。
へそと尻の特訓と言ってたが集中力と反射神経の特訓にもなりそうだ。

円堂が何回目かの挑戦に失敗して、1度回すのを止めた4人は、はあはあ、と肩で息をする。

「大丈夫か?」

「ああ...」

鬼道が確認するよう聞けば、息を切らしながらもそう染岡が返事をした。
それを見て円堂は1度マシンの上から飛び降りる。

『普段とは違う運動だから疲れるわよね...』

この手回し運動、奴隷の回してるやつみたいに見えてきたな。

「ちょっと休憩するか?」

「だったら!俺たちが回すでヤンス!」

はい!と栗松を中心に1年4人が手を挙げた。

「お前ら...!」

「先輩達が頑張ってるのに、俺たちだけ休んでるなんで出来ないッス!」

「俺たちにも手伝わせてください!」

壁山、宍戸につられて、春奈ちゃんも円堂にキャプテン!と声をかけた。

「私達も手伝います!」

「ここまで来たら完成させたいもんね!」

「みんな...!」

選手だけじゃなくて、マネージャーの秋ちゃんと春奈ちゃんまでがそう言って、円堂はギュッと両手の拳を握った。

「何やってんだ俺は...!こんな仲間が居たのに、マジン・ザ・ハンドが出来ないからって1人で焦って...。俺は世界一の大馬鹿者だ!」

「円堂くん...」

「頼むぜみんな!俺、絶対完成させてみせるから!」

力強い円堂の言葉に皆が、頷いたり声を掛け合ったりしてる。
円堂が元気なかったことで、下がっていた士気も少し取り戻せたのではないだろうか。

「円堂、続けるぞ!」

響木監督のその言葉に、元気よく返事をした円堂は再びマシンの上に戻る。
出来ることなら私もハンドル回し手伝いたかったが、踏ん張って回さないと行けないので足をやった状態では難しいし何より散々皆に、怪我の時は大人しくしろと注意してきたのに示しがつかないから大人しくすることにした。
回すのが手伝えなくても他にできることはあるはずだ。
回すみんなの腕や腰に負担を掛けない方法を考えるとか、交代して疲れた皆にドリンク用意するとか。

『夏未ちゃん』

「...私、重労働はしないわよ」

ジト目でそう言われて分かってるよと返した。

『場寅さんちょっとお借りしたい』

「場寅を?」

『うん』

カクカクシカジカと説明したら、分かりましたと快く了解してくれたので、場寅さんに車を出して貰った。




差し入れです!
場寅さんにコンビニに連れて行って貰って、人数分になるようにファミリーパックのアイスを買って帰れば、クタクタになってたみんなは喜んでくれた。
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