フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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皆で切って炒めた具材を水と煮込んで、後は市販の固形ルーを入れて焦げないように混ぜつつもうしばらく煮るだけ。
そんな中、半田の肩をちょんちょん、ちょんちょんとつつく者が居た。

「なんだよ、さっきから!」

「だから、トイレ...!」

そう言いながらモゾモゾと股間を抑える壁山に半田は、はあ、とため息を吐いた。

「だったら行けばいいだろ」

「ひ、1人でっスか!?」

「は?1人でって当たり前「だ、だって、オバケとか出たら!」

食い気味にそう言った壁山に、半田は一瞬引きつつも、お前いくつだよ!?と言い返す。

『壁山、私が一緒に行こうか?私、家庭科室に氷取りに行きたいからさ』

作業の手を止めてそう言えば、こちらを見た壁山は、えー...と微妙そうな顔をした。

『なによ?』

「だって、水津先輩怖いのダメなんっスよね?」

遠回しに当てにならないと言われてんなコレは。

『別にドッキリとかビックリとかさせてくるからホラゲが苦手なのであって、オバケなんて実際には存在しないんだから大丈夫よ』

この先学校内で脅かしイベント発生するのは分かってるが、先程痛めた足は念入りに冷やしときたいから氷は取りに行きたいし、ソレが何であるか分かってるから別に怖くはない。

「けど、本当に居ないなんて断言出来るんっスか?」

『居ないわよそんな非現実的なもの。妖怪はいるかも知んないけど』

同じ会社だし。そう思って言えば、妖怪も非現実的だろ、と半田からツッコミを貰った。

「妖怪は妖怪でいたら怖いっす!!」

『大丈夫よ。妖怪とは友達になれるから』

「いや無理っス!!!」

ブンブンと壁山が首を振る中、あのー...と囁くような低い声が自分の真後ろからして、ビクリと肩を揺らす。
声に釣られて私の後ろを見た壁山と半田は、出たー!!!と叫び声を上げて抱きつき合う...と言うより半田の上に壁山がのしかかって、半田は一緒懸命にそれを支えている。

「俺で良かったら付き合うよ」

...ビックリした。後ろを振り返って、そこに立っていた影野の姿を見てほっと胸を撫で下ろす。

「な、なんだ影野さんっスか、ビックリしたっす」

「い、いいから...早く降りろ...」

巨体の壁山を支えるのにも限界が来て半田が沈んで行った。


影野の一緒なら心強いと私の時とは打って変わって、壁山が直ぐに同行をお願いして、結局3人で一緒に校内に向かった。

校舎の中は当然真っ暗なので、懐中電灯を影野が持って先頭を進んでくれていて、その肩に壁山は手を乗せて影野の後ろにぴっちりとくっついている。


「大丈夫っスか...、何も出ないっスか...?」

『大丈夫だって』

「水津さんも...怖かったら俺の後ろに、隠れていいからね」

『ありがとう。でも大丈夫よ。オバケなんて非科学的な物は出ない「ひぃっ!」...っ!』

震えていた壁山が急に、影野の肩から手を離し後ろを振り向くものだから、それにビックリして、固まる。

「どうかした?」

足を止めた影野が振り返って聞けば、壁山はじー、と向かいの廊下の先を眺めた。 同じように廊下を見てみるが何もない。

「いや、気のせいみたいっス」

そう言いながら壁山は影野の方へと振り返ろうとした時だった。
廊下にばっ、と何かの大きな影が現れて揺らめいた。

「ひいっ、で、でたっスぅうううう!!!」

校舎の外まで響くどデカい悲鳴を上げて、一目散に逃げ出した。

流石に、唐突に聞こえた謎の悲鳴が気になった皆が校舎の方を見ていれば、猛ダッシュで壁山が帰って来る。

「でででで、出たっスよ!!!」

「出たって何が!?」

そう聞く一ノ瀬の横を走り抜けた壁山は、大きな身体をアルマジロのように丸めて目金の後ろに隠れた。

「ダダダダ、だからオバケが、三組の教室に...!」

小刻みに震えながら壁山がそう言えば、集まった皆がなんだなんだと首を傾げる。

「三組の教室?」

「なななな、なんかこう、ぐわあああって!」

何言ってるんだ、見間違いじゃないのか?と皆が壁山に問いただす中、彼の後ろからどよーんとした雰囲気で影野が姿を見せる。

「確かに誰か居た」

影野のその言葉に皆が、えっ、と言葉を詰まらせる。

「な、何を言ってるんですか、そんなオバケみたいな非科学的なものがこの世に!?」

「目金さんまで、水津さんみたいな事言ってる...」

呆れたように少林寺がそう言えば、皆はアレ?と首を傾げた。

「おい、水津はどうした?一緒だったんじゃないのか?」

染岡が聞けば、えっ?と驚いたように影野と壁山は後ろを振り返った。

「一緒に戻って来てないっスか...?」

「慌てて逃げて来たから、後ろ、確認して、なかった」

2人の顔がだんだんと青くなっていく。

「誰か大人の人が居たから俺も驚いて」

そう言った影野の言葉に、もう一度皆が、え?と聞き返した。

「大人?」

「監督も、場寅さんも菅田先生もここにいるし...」

秋が確認するように見渡して言う中、半田がハッとしたような声を上げた。

「影山!!」

「影山!?」

「もしかしたら影山の手下じゃないか?決勝戦前に事故を起こして相手を出られないようにするのは影山の手口だ」

「ありうるでやんす」

以前にバスに仕込みや、鉄骨が降ってきた経験のある皆はその言葉に確かにと頷く。

「じゃあ、梅雨ちゃんが危ない!?」

秋の言葉に、ああ、と土門が頷く。

「梅雨ちゃん今、足痛めてっから逃げれなかったんじゃ...」

その言葉に、知らなかったと壁山と影野は更に顔を青くさせた。

「みんな!とにかく水津を見つけて助け出そう!」

円堂がそう言えば、ああ、と皆が慌てて返事をして校舎に向かって走り出した。





皆が、自分の捜索を始めた事など露知らず、梅雨は壁に背を預け廊下に座り込んで居た。

『いたたたた...』

痛む足首を摩る。先程の影に驚いて、走り去る2人を追おうと思って足を大きく踏み出した瞬間、ぴきり、と痛みが走って思わずしゃがみ込んでしまって、待ってと声をかけたのだが壁山の悲鳴にかき消されて声が届かず、仕方なく、1人でこうやって休息している。
先程テーピングしたからと少し油断しすぎたなぁ。結局トイレ行って家庭科室に向かう途中だったので氷もまだゲット出来てないし、このまま氷を取りに向かおうかとも思ったが、無闇に動くのは良くない気がして、どうせ皆がそのうち謎の影探しに来るのは知ってるしとここいらで待つことを決めたのだが、さすがに明かりも影野が持ってたので何もない真っ暗な校内は怖いな。
三角形に折りたたんだ膝をギュッと抱えじっと待つ。
真っ暗で焦点も合わぬままぼんやりと足を摩っていたら、いきなり肩にポンと何が触れた。

『きゃあ!?』


その短い悲鳴に、校内に入っていた皆は水津の声だ!と声の方向へと駆け出して。
懐中電灯で照らす先の廊下に、壁を背に座り込んだ梅雨とその目の前に立つ不審な影に皆が気づく。

「水津!」

『みんな!待って!』

「宍戸借りるぞ!」

円堂がそう言って宍戸が抱えてきていた低反発枕を奪ってそれを見事に蹴りあげた。
飛んで行った低反発枕はその影の頭に見事ヒットした。

「ナイッシュー!」

喜ぶ少林寺の声を後目に、梅雨はあーあーと声をこぼす。

「水津!!大丈夫か!!」

そう言って何人かが駆け寄ってくる中、宍戸だけはマイ枕ー!と涙声で枕の元に駆け出した。すまん宍戸、止められなかった。

「おい、大丈夫か?」

ぽん、と染岡が肩に手を置いた。

『え?ええ。私は大丈夫だけど...マスターが...』

そう言えば、皆はえっ?と振り返って伸びて廊下に倒れている人物をまじまじと見つめた。
さっきは暗闇からいきなり肩を掴まれてビビって悲鳴を上げてしまったが、雷門OBのマスターこと民山さんは座り込んでいる私を見つけて心配して声を掛けてくれたらしく、そこに枕が飛んできて見事命中してぶっ倒れたわけなのだけれど。

「ええっ!?マスター!?なんでこんな所に...!?」

「なんだ!?今の音は!?」

そんな別の大人の声がして、廊下の奥から3人のおじさんが出てくる。

「備流田さん!?髪村さん!?それに会田さんまで!?」

「どうなってんだ?」

唐突な雷門OB登場に現雷門イレブン達が一同が驚く中、とりあえずこんな所じゃなんだ、と一旦外に出ることになった。

「梅雨ちゃん立てる?」

『うん、大丈夫』

皆がゾロゾロと列を成して昇降口へと向かい出した中、秋ちゃんが手を貸してくれたので、それを借りてゆっくりと立ち上がる。

『あ、そうだ。氷取りに行かないと』

「それ私が行ってくるから、梅雨ちゃんは無理しないで」

『けど、』

「足痛いんでしょ?」

『...そうね。お願いするよ』

素直に甘えれば、任せて!と秋ちゃんはニッコリと笑って家庭科室に向かって走ってく。1人じゃ危ないよ!なんて言いながら、一ノ瀬と土門が秋ちゃんの後を追っていく。

『秋ちゃんは優しいなぁ...』

秋ちゃんの背中に少し見惚れた後、私も帰ろうと、1歩踏み出したら、急に染岡が目の前でしゃがんで、真っ直ぐ下に向けて居た両手を少し後ろに下げて、まるでこいこい、と言うように指先で手招いた。

『どうしたの?』

「お前...足痛めたっての俺のせいだろ」

布団敷いた後の...と染岡は控えめに呟く。

『いや、あれは染岡のせいってか事故だし』

「とにかく乗れよ。足痛めてんだろ」

『え、いや、大丈夫。歩けるよ』

遠慮してそう言えば、後ろからポンと肩を叩かれて、ヒッと小さく悲鳴を上げる。

「ご、ごめん...ビックリさせた」

振り向けばしょぼんとした様子の影野で、こっちこそ驚いてごめんと返す。

「あの、さっきは置いてっちゃてごめん。足痛めてるの知らなくて...。俺たちの事追っかけられなかったくらい痛かったんでしょ。無理しない方がいいよ」

『いや、まあ、それは...そうだけど...』

未だにしゃがんだまま、はよしろと言わんばかりの染岡を見る。

『あのさ...、私たぶん普通の女の子より重たいよ』

「は?お前そんな太ってはねぇだろ。んな事気にしてたのかよ」

『いや太ってはないけど、そのね、』

言葉を濁せば、染岡も何かを察したように、あー、と声を上げた。
他の同じ体型の女の子達よりも筋肉がついてる分多分重い...。

「ま、まあ、そりゃあ...他の奴らよりかは、その...アレの分な...。け、けど、お前も良く言ってんだろ。重いもん持つ時筋トレ筋トレって」

何故か少し顔を赤らめてしどろもどろに染岡はそう言った。

「俺も筋トレだと思うから別に気にすんな」

『うーん、それはそれで複雑』

「めんどくせぇな!いいから乗れよ!」

流石にまどろっこしくて痺れを切らした染岡にそう言われ、はーい、と返事をして彼の肩に両手を乗せる。
そっと、太ももに手が伸びて来てガッチリとホールドされてそのまま持ち上げられた。

『わ、お、おお〜』

ちゃんと持ち上がった事に歓声を上げれば、なんだよと悪態をつかれる。

『この歳になっておんぶされるとは思ってもみなかったな』

しかし、おんぶって意外と怖いな。子供の頃よく平気だったな。

「なんだよババくせぇな」

ゆっくりと歩き出した染岡に鼻で笑われるが、君らから見たらババアだよきっと。

『染岡、キツくなったら降ろしなよ。自分で歩くから』

「水津さん自分で歩くのはダメだよ。その時は俺が交代するからね」

染岡の隣をペースを合わせるようにゆっくりと歩く影野の頭にそっと手を伸ばしてよしよしと撫でる。

「え、」

『ありがとうね』

いやぁ、背高い影野をこんな軽々と頭撫でれるのいいなぁ。多少恥ずかしさはあるが、おんぶも悪くないかもしれん。

「別に交代なんかしなくても、お前くらい運べるつーの」

そう言って染岡は少し足早になる。
1組の教室を過ぎたら昇降口だしもう少しだというところで、1組の教室のドアから誰かが勢いよく飛び出して、わっ!と叫んだ。
思わず、声にならない悲鳴を上げて染岡の頭に抱きつく。

「う、わ、」

耳まで真っ赤になった染岡には悪いがまじでビビったのだ。

「マックス...、脅かしたらダメだよ」

影野がそう言えば、犯人であった松野はケラケラと笑った。

「いやだって、水津の弱点聞いたからさ」

『お前、まじでふざけんなよ!』

「それ、より、水津、お前、ヘッドロック、すんな...!」

途切れ途切れに苦しそうな声を上げた染岡に、ハッとして腕を緩める。
慌てて抱きついたから腕で首締める形になってた。

『ごめん、大丈夫?』

染岡は数回咳き込んだあと、ああ、と耳の赤いまま頷いた。

「いやぁ、役得じゃんね染岡」

ニタニタと松野が笑ってそう言う。

「おま、お前なあ!!」

染岡が大きな声を出せば、松野は舌をペロっと出したあと、ピューと足早に立ち去ってしまった。
松野が言った役得の意味も、耳まで真っ赤にしてる染岡を見たら流石に分かるが、驚かされて疲弊したので染岡には申し訳ないがそのまま身を預ける事にした。



ビックリは本当無理
後でマックスは絞めると2人で合意した。
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