フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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集合時間に続々とサッカー部の皆が集まる中、体育館に布団を敷き詰める。
最初は私と秋ちゃんの2人でやってたんだけど、秋ちゃん大好き一ノ瀬くんがやってきた事により、一ノ瀬と土門という2人のお手伝いさんを得て、更には後からやってきた染岡が2人を見たからから協力してくれて以外と早くに敷き終わった。

『3人ともありがとうね』

「ありがとう。助かったわ」

「女の子に重たいものは持たせられないからね!」

いつでも頼ってよ、と秋ちゃんに露骨にアピールする一ノ瀬を見て感心していれば、体育館に入ってきた1年生達が、うわぁ!と歓声を上げて布団にダイブした。

『1年生は皆揃ったね。後は...』

体育館内を見渡せば、宍戸、半田、松野、影野、目金がそれぞれ自分の寝る布団を決めて持ってきた荷物を出したりしている。で、先程布団にダイブしていた1年生たち、壁山、少林寺、栗松、そして春奈ちゃんは布団の上に乗せていた枕をそれぞれ手に取ったところだ。

「あっ!こら!」

そう言って秋ちゃんが注意しに向かった。

『風丸と豪炎寺と鬼道は夏未ちゃんと一緒に家庭科室から調理道具の運び出ししてくれてるでしょ』

「円堂がまだじゃね?」

土門の言葉に、あ、そっか、と頷く。
そういえば円堂が1番最後に来るんだったな。

「円堂のやつあんまり合宿乗り気じゃなかったみてぇだしなぁ」

『そうだね...。焦る気持ちは分かるんだけどね』

「この合宿が息抜きになってくれるといいんだけどね」

『円堂があんなだと、1年生達の士気も下がっちゃうしね』

「まあ、1年生達にとっちゃいい息抜きになってるみたいだぜ」

ふと、1年生達の方に視線を向ければ枕投げを始めたようであった。

「ちょっと、皆やめなさいってば!枕投げに来たんじゃないのよ!」

なんて秋ちゃんに怒られているが、聞く耳持たずで、春奈ちゃん&栗松チームと壁山&少林寺チームで戦いが繰り広げられている。

『本当、楽しそうでよかったわ』

「あれ?意外にも梅雨ちゃん、怒んないのね。秋と一緒になって叱りに行くかと思ったわ」

『まあ、たまにはいいんじゃない?喘息持ちとかハウスダストアレルギーの子がいるんならすぐ止めるように言ってくるけど』

「お前無駄に健康志向というか...健康オタクみたいなところあるよな」

そう言った染岡にそう?と首を傾げる。

『まあオタクなのは否定しないけど』

「しないのかよ」

『人生色々あると身体に気を使うようにはなるんだよ。ね、一ノ瀬』

「え、そこで俺に振るの?まあ、確かに1度入院生活送ると、多少は意識するよね。体に良い食べ物とかね」

なんて話をしていたら、やったでやんすな!と言う栗松の声がした次の瞬間、栗松が少林寺へと向かって投げた枕が躱されあろう事か、染岡の後頭部に直撃、そして。

『え、ちょっ、っ』

真正面で話していた私の方にそのまま倒れて来た。
さすがに自分より背も高くガタイの良い男子を支えられるわけもなく、後ろに倒れてしまう。布団敷いた後で良かったよ。まあ布団の上と言えど思いっきり倒れたから頭打ったし、痛い。
上から土門と一ノ瀬が大丈夫かと心配する声をかけてくれている。

『私は、大丈夫だけど...染岡?』

上に乗っかったまま微動だにしない染岡に、もしかして打ちどころが悪かったのか!?と不安になって顔を見上げれば、真っ赤な顔をして、口を金魚のようにハクハクとさせていた。

『染岡、大丈夫?』

「ハッ!?いや、わ、悪い!」

顔を赤くしたまま、バッと慌てたように飛び退いて立ち上がった染岡は、後ろを振り向いて、お前ら...!と怒声を上げた後、蜘蛛の子を散らすように逃げていった1年生達を追いかけ回しだした。

「梅雨ちゃん大丈夫?」

そう言って土門がしゃがんで手を貸してくれる。

『ありがとう。いやぁ、びっくりしたわ』

土門の手を取って立ち上がろうとした瞬間、足にびりっとした痛みが走って、しゃがんだまま動きを止める。

「どうした!?」

『いや、ちょっと、足捻ったっぽい?』

「え、大丈夫?今倒れたせいだよね」

一ノ瀬も心配そうにしゃがんで目線を合わせてくれる。

『軽い捻挫だと思うから冷やせば大丈夫だと思う。秋ちゃんに救急箱持って来てもらうようにお願いしてもらってもいい?』

「ああ、任せて!」

そう言って、一ノ瀬が秋ちゃんの所に向かった。



秋ちゃんの持ってきてくれた救急箱を借りて、アイシングとテーピングをし終わってから、体育館内の皆に声をかけて夕飯の準備の為にグラウンドに出る。
調理用のテーブルの準備は終わっているようで、調理器具の運び出しをしてくれていた鬼道、豪炎寺、風丸は既に野菜の下処理に取り掛かっていた。

『とりあえず分担しましょうか。1番難関はご飯かな。飯盒炊飯は、流石に私も知らないな...ググッたら出てくるかな...?』

「あっ、私分かるよ!」

「昔、アメリカのボーイスカウトで一緒にやったよね」

秋ちゃんの言葉の後に一ノ瀬がそう続ければ、懐かしいよねなんて、2人は会話している。

『じゃあご飯は2人に任せてもいい?』

おっけーと2人が頷いたのを見て、他の子達に向き直る。

『それじゃあ、2年生達、豪炎寺のやってるじゃがいも班と風丸がやってる人参班で半々に別れて。皮むきはピーラーでしてもらって。切るのは...包丁使える子いる?』

そう聞けば、一応と土門と松野が手を上げる。

『なら、土門はじゃがいも、マックスは人参に別れて皆に教えてあげてね。春奈ちゃんは、その2箇所のピーラー使いと包丁使いのサポートに回ってもらってもいい?』

「任せてください!」

元気よく敬礼して見せた春奈ちゃんに任せるとして、2年生達は1年生より1年分調理実習の機会も多くあっただろうし上手く分担してやってくれるだろう。

『後は1年生達』

1年生たちは、はーいと元気よく返事をしてくれた。

『今鬼道がやってる玉ねぎの皮むき引き継いでもらって。私と鬼道でカットに入ります。鬼道、包丁使えるでしょ?』

「ふ、当然だ」

皮むきは任せるぞ、と鬼道は自分のいた場所を明け渡して1年生達に譲る。

「水津さん、オイラも切る方、手伝うでヤンス!」

そう言ってくれた栗松に、思わず大丈夫?と聞き返す。

「こう見えて、結構母ちゃんの手伝いをするんでヤンスよ!オイラんち弟多くて大変だから」

『そうなんだ』

意外や意外。しかも栗松、長男なの。知らない情報出てきてビックリだわ。

『じゃあよろしくね』

はいでヤンス!と返事をした栗松と鬼道と3人で、皮の剥かれた玉ねぎをくし切りにしていく。
黙々と玉ねぎを切っていたら、ものの数分で栗松からズルズルと鼻を啜る音がしだした。

「うぅ、染みるでヤンス」

そう言って目を擦り出したので、コラコラと叱る。

『目擦ると余計に涙出るよ』

「うう...やっぱり鬼道さんみたいに、それやると涙とか出ないでヤンスかねぇ」

「まあな」

そう言って手も止めず鬼道は黙々と切っている。

「ほら」

そう言って、栗松の横にゴールが差し出される。え?と振り返って見れば、にぃっと他の1年生達がゴールをした状態で笑っている。

「全部の皮剥き終わったんで、こっち手伝うッス!」

『お、じゃあお願いするよ』

「うわ、先輩切るの早っ」

喋りながら切っていたら、手元を見た宍戸が驚いたような声を上げた。
ずっと自炊してればそれなりには切れるようになるし、何より私はバイト先で鍛えられたからな。

『みんなは手切らないようにゆっくりでいいからね』

「はーい」

「水津先輩はサッカーも出来るし、勉強も出来るし、料理もできるし何でもできますよね!凄いです!」

そう言ってくれた、少林寺にありがとう〜と返す。
でもそんなに完璧人間ではないんだよなぁ。サッカーはまあ置いとくとしても、勉強は2週目だし、料理も長年やってるってだけで誰でも頑張ればできることだ。

「水津さんって何か苦手な事とかないんですか?」

『苦手な事、ねぇ...』

「ボクは知っていますよ。水津さんの弱点」

うーん、と悩んでいる後ろから人参班のはずの目金がひょっこり現れてそう言った。

「なんっスか!」

「ズバリ、ホラーです!」

きらん、とメガネを光らせた目金に、余計な事をと、睨みつける。

「えっ、水津先輩ホラー駄目なんですか?」

キョトンとした顔で少林寺に聞かれて、さあ?としらばっくれる。

「ゲームが好きだと公言しているのにも関わらず、今まで何度プレゼンしてもホラーゲームだけはやってくださらなかったのでボクの推理に間違いないですね」

「へぇ〜、水津さんホラー怖いんですね〜」

ニタニタと笑う宍戸に、別に怖くないしと返す。

『お化けとか非科学的な物は信じてないですし?ホラーゲームやんないのはビックリとかドッキリとかさせられると心臓に悪いのでやらないだけで』

早口にまくし立てるように言えば、いや、と目金が口を開く。

「それは怖がってるのでは?」

『あーもう怖くないってば!いいから目金は自分の作業に戻りなさいよ!』

「怖くないのであれば、今度是非ホラーゲームを『絶対やんない!!』

はよ作業に戻れ!と目金を押し返してから、自分も作業に戻れば、鬼道がふっ、と笑っていた。

『なに』

「いや、意外と子供っぽい面もあるんだな」

『煩いな。人間怖いもんは怖いんだよ』

「やっぱり苦手なんじゃないっすか〜」

未だにニタニタしている宍戸の声に、思わず、大きく包丁を振り上げ薪割りの如く玉ねぎを半分に叩き割る。ドンっというその音に、周囲の子供たちはビクリと肩を揺らした。

『ここでふざけて驚かせたりしてごらん。お前がこうなるからな』

ニッコリと笑ってそう言えば、宍戸はヒェッと悲鳴を上げた。

「下手なホラーより、水津さんのが怖いでヤンス...」

栗松の呟きに、皆がひっそりと頷くのであった。


レクリエーション
皆が和気あいあいとやる中、円堂だけがポツリと離れて特訓ノートとにらめっこしていた。
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