フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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「みんなー!」

「おにぎりができましたよー!」

秋ちゃんと春奈ちゃんがグラウンドに向かって大きな声をかけると、男の子達はおお〜!と歓声を上げてベンチ回りに集まってきた。

「いっちばーん!」

そう言って、グローブを脱いだ円堂が我先にとおにぎりへと手を伸ばせば、その手はペチンと叩かれた。

「いってぇ!なにすんだよぉ」

痛いと手を摩る円堂に対して、手を叩いた夏未ちゃんはビシッと校舎の方を指した。

「手を洗って来なさい!」

O157もだし、グラウンドに触れるボールを触る分、土壌に生息するサルモネラ菌も怖いしね。
男の子達は皆、はーいと声を揃えて手洗いに向かう。そんな中、手洗い場に向かう皆の方からハンカチで手を拭きながら鬼道が歩いて戻ってきた。
皆がおにぎりと飛びついた中、1人だけ早々に手を洗いに行くとは、流石坊ちゃんというか。みんなも少し見習ってくれるといいが。

手洗いから戻ってきた皆に、綺麗になったかちゃんと見せてね、と言えば、それぞれ手を突きだして見せた。

『よし、ちゃんと洗えたね』

秋ちゃんと春奈ちゃんは、確認までしなくてもと引き気味に笑ってるが、夏未ちゃんはウンウンと頷いている。

『食中毒出す訳にはいかないからね』

「当然です!」

「さあ、みんな。どうぞ!」

秋ちゃんがそう言えば、いただきまーす!と皆、おにぎりに飛びついた。

『お水もあるからね。ちゃんと水分補給もしてね』

そう言えば、口に米を含ませたまま何人かがはーい!と返事をした。
番重を1つ抱えて、背の低いしょうりんと栗松の所に持っていく。恐らく先輩達と巨漢の壁山が折りたたみテーブルの回りを囲っているので、届かないだろう。

『はい、どうぞ』

しゃがんで差し出せば、2人は声を揃えて、ありがとうございます!と言った。
みんな美味しそうに頬張ってるな。一ノ瀬なんかはちゃっかり秋ちゃんの握ったおにぎりの所に行ってるし、鬼道は春奈ちゃんから1番大きなおにぎりもらっている。

「それ、梅雨ちゃんの握ったおにぎり?」

後ろからひょこっと覗き見るように土門が顔を出す。さっきまで一ノ瀬と秋ちゃんのおにぎり食べてたのに早いな。

『そうだよ』

「1個ちょーだい!」

どうぞ、と差し出せば土門はおにぎりを手に取ってパクリと噛み付いた。

「ん、美味い」

『そう?他のとあんまり変わんないでしょ』

「いや、意外と違うね」

そう言ったのは土門じゃなくて松野だった。松野は私の前からひょいとおにぎりを取ってから、テーブルの方を指した。

「おにぎり1つ握るのでも性格出てるよ。音無のなんか大きさバラバラだったけど、水津のはちゃんと揃ってる」

「秋のも綺麗に揃ってたな」

『あー、そこは確かに性格出るかもね。秋ちゃん握るのも上手だし、早いし。いいお嫁さんになるなぁ...』

みんなに笑顔でおにぎり配ってる秋ちゃんを見てしみじみとそう思う。

「梅雨ちゃんも、いいお嫁さんになりそうだけど?」

土門の言葉に思わず鼻で、ハッと笑う。

「え、なんで俺今、鼻で笑われた?褒めたのに」

『いや、無いなと思って』

「いいお嫁さんかは知らないけど、かかあ天下になりそうだよね〜。旦那さん尻に敷いてそう」

『お?マックス喧嘩売ってる?買うけど?』

「冗談冗談!」

そう言って松野はおにぎり片手にピューッと足早に逃げていった。

『まったく...』

「マックスは一言多いよなぁ」

ハハハ、と土門は乾いた笑い声を上げている。

「おい、そっちまだ残ってるか?」

そう言って染岡と半田がやってくる。

『あるよ?』

「良かった、壁山に食われる前に食わねぇと!」

そう言って半田がおにぎりに手を伸ばした。

『壁山は大食漢だからねぇ』

「それもあるけど、アイツ容赦なしに全部いっぺんに食うからな」

そう言って染岡はおにぎりを両手に取って片方にかぶりついた。

「お、これは美味いわ」

ん?これは?と首を傾げれば、染岡の言葉にそうそうと半田も頷いていた。

「さっき向こうでもらったのめっちゃしょっぱかったんだよなー」

『あー...』

夏未ちゃんのかな。一生懸命握ってたし言うのは酷だな。

『まあ、汗かいただろうし塩分供給も大事だからね』

「なに、アレ水津が握ったの?」

『いや...』

「梅雨ちゃんのはこれだって」

そう言って土門はもう1個とおにぎりに手を伸ばした。

『まあ、しょっぱかったやつは察してもらえたら』

「あー、お嬢様か」

察してくれた半田にそうそうと頷いて入れば、後ろからゴホゴホと咳き込む音がした。

『半田、これちょっと持っといて』

「え?あ、おいちょっと」

半田に番重を押し付けて、テーブルから1つ水の入った紙コップを取って、先程の音の主の元に向かう。

『影野、ほらお水飲んで』

そう言ってしゃがんで咳き込んでいる影野の背中をトントンと叩きながら紙コップを手渡す。
受け取った影野のは、一気にその水を飲み干した。

「はあ...水津さん、ありがとう...。しょっぱくてビックリしたから...」

『そう。もう大丈夫?』

コクリと影野は長い髪を揺らしながらゆっくりと頷いた。

「あの、」

『なあに?』

「水津さんのおにぎり、まだ残ってる...?」

あるよ、と言えば、本当!と影野は声を明るくした。
まだ、そんなに食べてなかったのかな?影野の性格的に遠慮してそうだもんな。

『ほら、おいで』

手を引いて影野を立ち上がらせて、半田達の元に連れていく。

『あら、』

「あ、水津、影野」

半田に押し付けた番重を受け取ってみたらすっかり空になっていた。

「さっき壁山が全部かっさらって行っちまったよ」

お手上げと言った様子で土門が両手を上げて見せる。

「じゃあ、水津さんのおにぎりは...」

『ごめんね、影野。向こうにはまだ残ってるみたいだから取ってくるね!』

あまりにも影野がしゅんとした様子だったのでそう声をかけて、テーブルの方に向かう。

「あっ、水津さん...!」

『遠慮しなくていいよ』

ブンブンと手を振った梅雨に、影野はそうじゃないんだけど...と零す。
そんな影野を見て染岡が、はあーとわざとらしく大きなため息をついた。

「ほらよ。水津のやつが食いたかったんだろ」

そう言って染岡は、おにぎりを1つ影野の前に差し出した。

「え、けど...」

「俺は壁山が来る前に1個食ったからいい」

そう言って染岡は影野におにぎりを押し付けた。

「...いいの?だって染岡も水津さんの事...」

「はあ?もごもごなんか言ってねぇでとっとと食えよ」

「う、うん。ありがとう」

影野はもらったおにぎりをのそのそと食べだした。

『ただいま。残ってたの何個か貰ってきたけど...あれ?』

「あ、その、染岡がくれたんだ」

そうなの?と染岡を振り返って見れば、別に余ったからだ、とそっぽを向かれた。照れなくてもいいのにな。

「梅雨ちゃん〜。それちょうだい」

『ハイハイどうぞ。てかよく食べるね。土門それ4個目?』

「腹減ってんの」

「水津、俺も!」

そう言って、土門に続いて半田もおにぎりを取れば、別の手が後から伸びてきた。

『余ったからあげたって言ってたのに』

そう言ってくすくすと笑えば、染岡は罰が悪そうに顔を逸らした。

「うるせぇな、さっきは余ってんだよ」

『はいはい。2個両手持ちはやめなさいね。余るから』

「だぁ!うるせぇな!」

ケラケラと笑っていれば、染岡はからかわれたことに怒りながら、おにぎりに噛み付いた。





おにぎり休憩
残るのは可哀想だなと思って夏未ちゃんのおにぎりも混ぜて持ってきてたんだけど、見事引いたみたいであまりのしょっぱさに染岡は噎せていた。
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