フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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木戸川清修に勝利した翌日、学校では普通に授業が行われて、給食を食べて昼休みに入った。

『夏未ちゃん今日も理事長室?』

ええそうよ、と立ち上がった夏未ちゃんはうなずいた。

『何かお手伝いしようか?』

「大丈夫よ。しばらく急ぎの要件もないから」

じゃあ行ってくるわね、と夏未ちゃんは教室を出ていった。

『むー、夏未ちゃんにフラれた』

「何言ってんだお前」

隣の席の染岡がツッコミをくれる中、昼休み何しようかなと机に突っ伏せば、上からケラケラと笑い声が聞こえて視線を上げる。

「水津は相変わらず雷門の事が好きだよね」

そう言って笑ってるのは松野だった。
その片手には携帯ゲーム機を持っている。

『マックス、ウチのクラスに入って来るのには危ないもの持ってんね』

夏未ちゃんにバレたら即回収だぞ。

「だからちゃんと雷門が教室出たの見てから入ってきたんだって」

『ほー。流石ですな。それで?』

「水津、これもうクリアしたって目金と話してじゃん?今ここで詰まっててさぁ」

そう言いながら、松野はゲーム画面を見せてきた。

「え、お前もうクリアしたのかよ。それ先週発売だったろ」

ゲームが気になるのか、私と同じようにゲーム画面を覗き込みながら染岡が驚いたように言う。

『え?もう1週間も経ったんだからクリアするでしょ?』

目金ももうクリアしてたしなぁ。

「お前、部活もやってるし自分で飯作ったりしてんだろ?宿題もあるしよ、いつやんだよ?」

『家帰ってずっとやってるよ?携帯機は片手間に出来るから便利だよね』

ご飯作りながらでも、宿題やりながらでもスティックに輪ゴム付けて勝手に歩かせて後片手間にA連打しとけばレベリング出来るからなぁ。

「水津もオタクだとは目金から聞いてたけどホントにゲーマーなんだね」

『えっ、ゲーマーではないと思うけど...?まあゲームなら1日26時間位はやれる気がするけども』

「いや、1日は24時間しかねーからな!!」

綺麗にツッコミを入れてくれた染岡にケラケラと笑って返して居ると、教室の入口に見知った顔が頭を覗かせた。
目が合うと彼女はニコッと可愛らしく笑って駆け寄ってきた。

『秋ちゃん、珍しいね。どうしたの?』

「実は、円堂くんの事で...」

そう言って、秋ちゃんはキョロキョロと教室を見回した。

「夏未さんは?」

『夏未ちゃん?理事長室だよ』

「そう...」

「円堂がどうかしたのか?」

染岡が聞けば秋ちゃんは困ったように眉を下げた。

「それが...円堂くん何だか元気がなくて。あんな円堂くん初めて見たから...」

『あー、昨日の』

「円堂がまだ落ち込んでるの?珍しくない?」

いつも元気100%だからな。そんな円堂が元気がないとなるとそりゃあ心配になる。

『こればっかりは精神的な問題だしね。ましてやキーパーってのがなぁ』

「チームで行う競技の中の唯一1人で立ち向かうポジションだもんな」

染岡の言葉に、それ、と頷く。

『他にキーパーの子がいれば、相談相手にでもなれるんだろうけど』

「ウチは円堂1人だもんね」

「うん...。だからなんて声掛けていいかも分からなくて」

『無理に声掛けなくてもいいと思うけど?』

そう言えば秋ちゃんは、え?と首をかしげた。

『ダメな時は誰に何言われてもホントにダメなんだよね。時間が解決してくれるのを待つしかないんじゃない?』

「つったって、決勝戦まで日にちそんなにねーぞ」

うん、まあそれはそうだけど。

『でも私らが円堂に気を使ったところで元気になるんなら、今、円堂は落ち込んでないと思うよ』

「確かに。ボクらがとやかく言ってどうにかなる問題ではないよね」

『そう。円堂のご機嫌取りする暇があるなら、1個でもゴールに向かってくるボールのブロックができるように練習でもした方がいい』

「そう言われちまったら、そうだな」

「梅雨ちゃんは...合理的だなぁ」

『薄情だと思った?』

そう聞けば秋ちゃんは、ううんと首を横に振った。

「円堂くんがダメなら皆で支える。サッカーは1人でやるスポーツじゃない、そういう事でしょ?水津ちゃんが言いたいのって」

『うん。まあこれは私個人の意見だし、他の意見も聞いてみたらいいんじゃない?夏未ちゃんなんかは、私とは違った目線で円堂の事見てるはずだしね』

「...夏未さんかぁ」

『理事長室まで一緒に行こうか?』

「ううん、大丈夫!夏未さんとも話してみるわ。ありがとう!お邪魔してごめんね」

そう言って去っていく秋ちゃんにバイバイと手を振る。

『恋する乙女は大変だなぁ』

「マネージャーはわかりやすいよね」

「あー、木野はなー」

感の良さそうな松野はともかくとして、染岡も気づいているとは。いやまあ、サッカー部初期部員組だもんな。一緒にいれば薄々気づくか。

「水津はないの?」

『なにが?』

「恋する乙女の部分」

「はあ?こいつは乙女ってタイプじゃねーだろ」

何言ってんだって顔で染岡が松野を見ている。

『随分と失礼だな!私だって乙女ゲーくらいやるよ!』

「いや、そうじゃないでしょ。ってか乙女ゲーやるんだ!?」

『RPGのが好きだけどね』

「あー、そっちのほうがお前っぽいな」

『おっ、染岡分かってんね。やっぱりRPGなんだよねー』

「まあ、RPGは面白いわな」

染岡の言葉に、だよね!と強く頷けば松野が、はあ〜と大きくため息を吐いていた。


オトメより勇者
水津はしばらくギャルゲーやって女の子を学んだ方がいいよ、と松野に進められた。なんでだよ。
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