フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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ハーフタイムを挟んだ後、後半戦が始まった。
前半戦の終わりの頃のように木戸川の連携にヒビが入っていればこちら側も攻めに転じ易いが...、そう思ったのも束の間。
木戸川清修の武方三兄弟は後半戦開始早々に攻め上がってきて、あの必殺技を放った。

「「「トライアングルZ」」」

珍妙なポーズをとった3人の間抜けな姿からは、想像出来ない威力のシュートがゴールへと向かっていき、円堂は大きく右手を突き出した。

「ゴットハンド!!」

正面から円堂が受け止めるが、ジリジリとシュートの威力に押されていく。片手では無理だと、左手も合わせ押し返そうとした。だが、凄まじいトライアングルZの威力に円堂は押し負けゴールを割ってしまった。

バックトルネードを止めるのもやっとだったもんね。1人でもあの威力のシュートなのに、3人技だし簡単に止められるものではない。
ベンチのみんなは不安そうにゴールを見つめている。

「ゴットハンドが破られるなんて...」

「監督どうしたらいいんですか」

春奈ちゃんの問に響木監督は黙ってフィールドを見つめたまま答えなかった。

「今はみんなを、円堂くんを信じましょう」

夏未ちゃんも真っ直ぐフィールドを見つめている。
この子が、みんなを信頼するなんてね。少し感慨深い。

「夏未さん...」

『うん。サッカーは1人でやる競技じゃない。みんながいるから、大丈夫だよ』

「水津先輩...」

うん、と頷いて、不安そうにしていた春奈ちゃんと秋ちゃんもフィールドへ向き直る。

フィールドでは再び木戸川清修に攻められているが、鬼道の指示で一之瀬と松野がボールを持った友にマークに付けば、慌てて友は勝にパスを出す。
そこに鬼道がスライディングで飛び込めばシュート体制の整わなかった勝は慌ててノーマルシュートを打ってそれは円堂の腕にすっぽりと収まった。

『必殺シュートを打たせないか』

「流石鬼道だな」

半田の言葉に、うん、と頷く。
武方三兄弟それぞれにマークを付ける事に寄って、3人を引き剥がしトライアングルZを打たせないようにしているし、バックトルネードすら打たせないという鬼道の執念は素晴らしい。
だけど、円堂は...

「行くぞ!トライペガサスだ!」

『...あー...』

円堂は一之瀬にボールを投げて、ゴールを開けて走り出す。
ボールを貰った一之瀬と土門も木戸川清修陣地に向かって走り出した。
そこに、木戸川DFの西垣が立ち塞がる。

「くらえ!スピニングカット!」

西垣の足から放たれた衝撃波が、一度に3人を吹き飛ばした。
ボールはこぼれ転がって、サイドラインを超えてホイッスルが鳴り響く。

ふう、とひとつため息を吐く。
ライン超えのおかげで、円堂がゴールに戻る時間ができた。
トライペガサスは確かに強い技かもしれないが、リスクが高すぎる。GKである円堂はもちろんのことDFである土門もゴール前から離れる事になる。ボールを奪われ速攻でカウンターされたらやばいということに円堂は焦る余り気づいてない気がするなぁ。

豪炎寺も気がかりだったのか、ゴールに戻る円堂に焦るなと声をかけている。

「俺が必ずゴールを決める」

そう言った豪炎寺は、木戸川清修のスローイン後直ぐにディフェンスラインまで下がった。
雷門陣内に上がってきた武方三兄弟へと茂木が出したパスをカットして豪炎寺はそこから木戸川清修陣地へと駆け上がる。

「染岡!」

豪炎寺が叫べば、染岡はハッとした様子で自分についていたマークを振り切りゴール前に上がる。
そこへ豪炎寺からのパスがきて、染岡は大きく足を振り上げた。

「ドラゴンー」

「ドルネード!」

染岡のセンタリングで豪炎寺がシュートを放つ。

「タフネスブロック!!」

木戸川清修のGK軟山はお腹でボールを受け止めて、弾き返した。

「ナイスセーブっしょ!」

勝が大声で喜ぶ、その視界の端で豪炎寺は高く飛んでいた。

「ファイアトルネード!!」

隙を与えぬ二段攻撃に、軟山は反応が遅れ、手を伸ばすがボールはゴールへと突き刺さった。
有言実行とはかっこいいね。豪炎寺はドヤ顔で円堂に振り返っている。
しかしながら後半も後数分、試合は更に白熱し均衡したまま得点動かない。
2ー2のままロスタイムに入る。これは延長戦にもつれ込むか...と思いきや木戸川清修側が大きく動いた。
武方三兄弟が塊で飛び出し、ボールを持っていた勝が高く蹴りあげた。それを更に努が蹴りあげ、勝の肩を借り飛び上がった友がシュートを放った。

「「「トライアングルZ!!!」」」

「ゴットハンド!!」

円堂は再びゴットハンドでトライアングルZに立ち向かった。やはり片手では押し留めるのが難しいと即座に両手で対応するが、それでもジリジリと後ろに押されていく。
そんな中、雷門陣から2人が飛び出した。

「キャプテン!」
「危ないっス!」

そう言って栗松と壁山の2人が、円堂の背中を押して支える。

「お前たち...!」

2人に支えられたことにより、円堂はもう一度グッと力を入れ直し踏ん張る。
ジリジリと押してきていたシュートの力が段々と弱まり、円堂の手の中でしっかりと止まった。

《止めたァァァ!!!3人がかりのキーパー技でトライアングルZを阻止!木戸川清修ゴールならず!!》


よっしゃあ!と雷門イレブンは喜びの声を上げた。

「円堂こっちだ!」

豪炎寺が叫べば、おう!と返事をして円堂は力いっぱい手に持ったボールを投げつけた。それをトラップで受け止めた豪炎寺は木戸川ゴールに向かって駆け出した。
それを慌てた様子で武方三兄弟が追いかけてブロックに回る。自身を通り越し目の前に立った3人を見て豪炎寺はふっ、と笑いながら踵を使ってボールを後ろに回しそのまま一ノ瀬にバックパスをした。
誰もが豪炎寺がシュート打つと思っていたからか、パスを貰った一之瀬も呆然とした様子だ。

「今だ!トライペガサス!」

豪炎寺のその言葉にハッとした様子で一ノ瀬、土門、円堂が走り出す。

「行け!決めるんだ」

「トライペガサスは決めさせない!」

木戸川清修で誰よりも早く、西垣が3人の元に駆け出して行く。

「スピニングカット!」

再び衝撃波が3人の目の前に現れる。だが、今度は吹き飛ばされることなく3人はその衝撃波の中を突っ切って行く。
交差した線と線が重なった点から、ペガサスではなく、青い球体が登っていく。それは頂上で紅く色を変え炎の翼を広げた。

『フェニックス...』

一之瀬、土門、円堂の3人は同時にボールを蹴り降ろした。ペガサスからフェニックスへと姿を変えたそのシュートは勢いよく木戸川ゴールへと飛んで行き、ブロックに入ろうとした武方三兄弟を吹き飛ばし、木戸川のGKに指1本触れされる事無くゴールを決めた。

《ゴーーーール!!!雷門中、遂に逆転!》

やった!やったぁ!とフィールドもベンチも大盛り上がりだ。
観客席から大きな拍手が湧く中、選手達はぞろぞろとベンチに戻ってくる。
そんな中、豪炎寺だけは元チームメイトに声をかけに行っている。


『みんな、お疲れ様!』

ドリンクとタオルを配って回る。
無論今日の個人的MVPにも。

『よくやったよ、栗松!壁山!』

壁山は背が届かないので、低い位置にある栗松の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「せ、先輩!恥ずかしいでやんす!」

そう言って栗松は私の手から抜け、壁山の後ろに隠れた。

『あら、そう...』

よしよしくらいさせてくれればいいのに。でもまあ...。

『2人ともあそこでよく助けに入ってくれたよ』

「へへ、危ないと思ったら身体が勝手に動いてたっス」

照れくさそうに壁山がそう言えば、うんうんと栗松も頷いている。

『おかげで、次に繋がったよ』

そして次は決勝戦だ。
ちらり、と円堂を見れば、鬼道と話しながら自身の手を見つめていた。



気掛かり
豪炎寺が武方三兄弟と和解して喜んであげたいところだけれど、更なる問題が出てきたからなぁ、と円堂を見つめた。
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