フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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「こんな立て続けに転校手続きするとは思ってもなかったわ。校長先生も驚いていらっしゃったし」

そう言って理事長室のソファーに座った夏未ちゃんは、コーヒーカップを手に取って口つけた。

『ましてや一之瀬は、アメリカからだもんね』

「ええ...。一応、向こうの学校がこの時期長期休みだから、短期留学という形で手続きしたけれど」

アメリカは9月始業式でその前の3ヶ月は長期休みになるから向こうの学校の心配はないのだけれど。
問題は彼がアメリカのユースに選ばれている事なのだけれど、一之瀬によると、選ばれただけで代表合宿や練習なんかはまだしばらくないから大丈夫との事。
住む所は、親御さんの実家である祖父母のお家に滞在するとの事で、ただ、ご両親はアメリカで仕事をしているから帰らなくてはならなくて最初は凄く反対されたらしい。そりゃあ、まあそうだろう。
だが、同じ中学生で一人暮らししてる子がいると説明した挙句、俺はばあちゃん家に滞在するから大丈夫だと言ってゴリ押しして許可を得てきたららしい。いやぁ、親御さんには大変申し訳ない。

『でも、サッカー部にメンバーが増えるのは有難いね。サッカーは捻挫とか付き物だからメンバーのチェンジが効くのは安心。って言うのはちょっとおかしいかもしれないけれど』

「言いたいことは分かるわ。確かに、秋葉名戸学園との試合のように豪炎寺くんが怪我をしたりした時に目金くんしか代わりが居ないとなると不安だものね」

目金もやる時はやるんだけどね。あの試合も目金で通用したのは相手が秋葉名戸だってってのもあるが。

『次勝てば決勝戦だしなぁ』

「そうね。豪炎寺くんの様子はどう?」

夏未ちゃんの言葉に、うーん、と唸る。
本戦第3試合の相手は、木戸川清修に決まったのだが...。豪炎寺が前に通ってた学校で、まあ色々と確執があるだろうなぁ。

『本人はいつも通りクールを装ってるけどねぇ...。夏未ちゃんは豪炎寺の事情知ってるでしょ』

去年の大会の事。そう言えば、ええと夏未ちゃんが頷く。

「気にしないのは難しいわよね」

『ねー』

去年のフットボールフロンティア決勝戦。帝国学園対木戸川清修中の戦いで、豪炎寺は夕香ちゃんの事があって試合には出ず、木戸川清修は負けてしまった。気にするなと言う方が無理である。

「あら、メールだわ」

そう言って夏未ちゃんは、デスクに置いてあるノートPCをいじる。

「Aブロックの試合結果が届いたわよ」

『...ああ、世宇子中と刈美庵中の試合だっけ』

まあ、結果は知ってるんだけど。
開始10分で棄権せざる負えないほど壊滅させられるんでしょ。

「決勝進出は世宇子中よ」

だよね。

『みんなに報告行こうか』

よいしょ、とソファーから立ち上がるって夏未ちゃんと共に練習してるみんながいるグラウンドに向かった。




世宇子中の決勝戦を伝えれば、やっぱりかと皆は頷き、まずは目の前の準決勝に勝とうと熱を上げる。
そんな中、申し訳ないのだが、用事があるのでと早めに部活を上がらせてもらって河川敷に向かった。
今日は、稲妻KFCの子供たちのリフティング教室をやる予定が入っていた。
ちなみに今日で3回目のリフティング教室になるのだが、やっぱみんな運動神経が良いし上達が早い。
上手な子達はリフティングだけじゃなくてエアムーブの練習もしたりしてる。
子供たちと一緒に、私もみんなにルーティン見せるって約束しちゃったし、練習してれば時間はあっという間に過ぎた。

「お腹空いたー!」

練習が終わるなり、そう言って、バタンとまこちゃんが土手の上に寝っ転がる。

『お腹すいたね〜。でもご飯にはもうちょっと早いもんなぁ』

「あ、じゃあ?おやつ買いに行く?」

そう言ったのは白い猫耳みたいな形をした帽子を被ってる寺坂響くん。
それに対し、いいわね、ひびきちゃん!とまこちゃんは飛び起きた。

『ご飯前におやつ食べたら怒られない?』

「大丈夫よ。うちのママ、夕方からお仕事でいないもの」

あーーー、確かまこちゃんちのママって、ゲームじゃ商店街の奥の方の飲み屋に居たな。そっか、それならもうお仕事に出てる時間だな。

「梅雨ちゃんもお腹空いてるんでしょ?まこたちいい所知ってるから一緒に行きましょ!」

そう言って、まこちゃんに手を取られらる。こんなかわいい女の子に誘われて、いいえ、なんて言えるわけがないよなぁ。
オレも行く!と手を挙げた、稲妻KFCのGKをしてる宗像大翔くんも引き連れ、子供たちによる、いい所へと連れてってもらう。


『なるほど...駄菓子屋さんか』

「そうだよ!」

だがしやと書かれた看板の下をくぐって子供たちが、お店の中に入っていく。子供たちの後に続いて中に入れば、レトロな雰囲気の中、人が通るための通路以外は全て沢山のお菓子たちで埋め尽くされていた。そしてその奥にはいかにもな年配のご店主がいる。

凄いな。駄菓子屋とか始めてきた。
田舎育ちだと行ったことあると思われてるだろうが、田舎過ぎると子供の数が足らなくて駄菓子屋さん潰れててないんだぜ。

「んー、わたしはこれと...」

「どうしようっかなぁ」

子供たちは楽しそうに、菓子を選んでいる。
その様子を眺めていたら、後ろからおばちゃんこんにちは!と元気な声がした。
聞き覚えのあるその声に振り返れば、円堂だった。

「あれ?水津じゃん!お前も来てたの?」

そう言って中に入ってきた円堂の後ろには、入口に立って物珍しそうな顔をして店内を見つめる豪炎寺と鬼道が居た。

『まこちゃん達に連れられてね』

「へぇ〜」

そう言って、円堂はお店の中をキョロキョロと見渡してなんにしよっかなぁと悩み出した。

「円堂ちゃん!いよいよ準決勝だね!頑張ってね!」

「おう!ありがとな!」

「ちなみに酢昆布がオススメだよ!」

元々稲妻KFCの練習に混ぜてもらってただけあって、円堂は子供たちと仲がいいな。慕われているというか。

『いや、むしろ円堂が子供っぽいから同級生みたいな感覚でいるんだろうか?』

子供たちと一緒になって菓子を選んでいる円堂を見て、そう呟けば、ふっと後ろで吹き出す音が聞こえた。
振り向けば、確かにそうかもな、と鬼道が笑っていた。

「梅雨先生ー!どれにするのー!」

子供たちの私を呼ぶ声に、豪炎寺と鬼道は先生?と首を傾げる。

『えー、じゃあ、3人のオススメ300円以内で選んで』

「わー、梅雨ちゃんお金持ち!」

そうね、駄菓子屋で300円はめっちゃ買えるよね。

「じゃあ、1人100円ずつ、梅雨先生の選ぼうぜ!」

やいのやいのと子供たちは群がって、アレにしよとかコレにしようとか始める。

「先生とは?」

首を傾げた鬼道と、豪炎寺に入口は他のお客さん来た時邪魔になるし、と声をかけて外に出る。
お店の前に置かれた自販機の横にベンチがあったのでそこに腰掛ける。

『あの子らの監督に頼まれて定期的にリフティング教室やってんの』

「今日の用事と言うのはそれか」

そう言って隣に座った鬼道に、そうそう、と頷く。

『しかし、2人がこういうとこ来るイメージなかったから意外だなぁ』

「円堂に連れられてな」

そう言いながら豪炎寺は、自販機で飲み物を買ってる。

「駄菓子屋なんて初めてきたな。水津はよく来るのか?」

『ううん。私も初めて。子供たちがいい所知ってるから一緒に行こうって』

かわいいよね、と笑えば、そうだなと2人も顔を綻ばせた。2人ともお兄ちゃんだし、ちっちゃい子に優しそうだよな。

「しかし、そうなると円堂は子供みたいだな」

『みたいってか、そうでしょ』

君らも含めまだ中学生だし。

「純粋で、真っ直ぐで、だからサッカー馬鹿になれるのかもしれないな」

鬼道の言葉に豪炎寺も、ああ、と頷いているが、私から見れば君らも相当なサッカー馬鹿だけどな。

「どけよ!」

「あっ!割り込みはいけないんだよ!!」

そんな声が、駄菓子屋の中から聞こえた。

「お前ら順番守れよな!」

円堂まで怒ってる声が聞こえて、何事だ、とベンチから立ち上がる。
急いで駄菓子屋の中を見れば、いーけないんだ、いけないんだ!と子供たちが野次る先に同じ顔が3つ並んでいて、円堂は子供たちを守るように前に出ている。

「あなた達ちゃんと並びなさい」

駄菓子屋のおばちゃんが怒るものの、同じ顔の中のひとつがふふん、と鼻を鳴らした。

「3対1で俺たちの勝ちぃ!みたいな?」

出たな、グラサンたらこ唇三つ子。そう思い、ふと、隣に立つ豪炎寺を見れば、彼はバツの悪そうな顔をしている。

「人数の問題じゃないだろ!!」

「いえ、人数の問題です」

「俺たちは常に三位一体なんだよ!」

ピンク髪の言葉に緑の髪の奴が乗ってそう言う。どれが誰だっけ?長男の名前が勝だってのは何となく覚えているがどれかまでは分かんねぇな。

『人数の問題だと言うならこちらの勝ちでは?あなた達は3人でしょうけど、こちらは7名がおばちゃんに味方するわよ』

そう言って中に入れば、三つ子達は何?と入口を見て、そして眉を吊り上げた。

「お前は...!豪炎寺!」

「久しぶりだな!決勝戦から逃げたツンツンくん!」

その言葉に、豪炎寺は顔を逸らした。

「女の子連れとはいいご身分ですなぁ」

それは関係ないし、完全にモテないやつの僻みでは...?

「え、なんだ?知り合いか?」

円堂が豪炎寺と三つ子達をキョロキョロと見比べれば、三つ子は声を揃えて、俺たちは!と叫んだ。

「武方勝!」

真ん中の紫のやつ。こいつが長男か。

「友!」

「努!」

右のピンクが次男で、左の緑が三男と。

「「「3人合わせて!!!武か『武方三兄弟でしょ。うるさいからお店で大声で叫ばないで』

ポーズを取ろうとした3人は大袈裟にズッコケた。

「ちょっと!台詞取らないで下さいよ!」

ぴょん、と飛び上がった友が怒ってきた。

「まて、友。俺たちの事を知ってるとは...!まさか、俺たちのファン!?」

努が訳の分からない事を行ってきたので、いや違いますけど、と返す。

「なんなんだよ、こいつら」

円堂の問に、鬼道はふっと笑った。

「そいつらは去年、豪炎寺の代わりに決勝に出場した木戸川清修のスリートップだよ」

「えっ、それじゃあ豪炎寺の元チームメイト!?」

こんな変なのが!?と思うよね。

「流石は鬼道有人。有力選手のデータは全てインプットされてるみたいじゃん?」

その言葉に、鬼道はやれやれと言ったように肩を竦めて鼻で笑った。

「三つ子のフォワードが珍しかったから覚えてただけだ」

『あっ、私もそれです』

決してファンではないです、と付け加えておく。

「何!?今年の俺たちの活躍を知らないのか!!豪炎寺なんかいなくても勝てるって証明したのに!」

「今の木戸川清修は史上最強と言ってもいいでしょう。豪炎寺よりも凄いストライカーが3人もいるんですからねぇ」

「ま、なんつーか?準決勝の相手が雷門中じゃん?軽くご挨拶、みたいな?」

「宣言しに来たんですよ」

「「「俺たちは豪炎寺修也を叩き潰す!とな!」」」

武方三兄弟は声高らかにそう揃えて、トライアングルポーズを決めるのだった。

宣戦布告
敵キャラとしては、いい感じにうざくていいよね。...いや、豪炎寺からすれば最悪だろうけど。
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