フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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仲良くなった君たちとやりたい技がある。一之瀬のその言葉から、彼と土門、そして円堂の3人でトライペガサスの練習が始まった。
しかし、それは何度挑戦しても上手くいかず、結局部活終わりの校内放送が鳴るまで完成せず、明日は土曜日だし授業はないので朝からやろうぜって、事で持ち越しする事になった。

家に帰って台所で夕飯の準備をしていたら、プルプルと携帯が鳴った。

『はい、もしもし』

「あ、梅雨ちゃん」

『どうしたの秋ちゃん』

片手で携帯を押さえたまま、油を火にかけていたのでガスを止める。

「今から円堂くん家に行くんだけど、一緒に行かない?」

『円堂の家?』

「うん。一之瀬くんが円堂くんともっと話したいって言って押し掛けたみたいなの」

『なるほどね』

あー、なんかあったねそんな話。
秋ちゃん、好きな男の子の家に行くの1人じゃ気恥しいとかそんな感じかな?

「私も一之瀬くんの向こうでの話とか聞きたいし、梅雨ちゃんも一緒にどうかなって?」

『え〜、行きたい!けど、私、円堂の家知らないから...』

まあ、ゲーム上のマップで良ければ知ってるけどね。

「もちろん、迎えにいくよ!」

『本当?じゃあ、ちょっと色々準備するから......』










「準備する、とは言ってたけどそれは?」

迎えに来てくれた秋ちゃんと並んで歩いて円堂の家に向かう。私の抱える大袋に秋ちゃんは興味があるようだ。

『晩御飯作ってる途中だったし、手ぶらで突然お邪魔するのもなんだと思ってお裾分けとしてタッパに詰めたら結構な量になってさ〜』

「えっ、ごめん。迷惑じゃなかった?」

『ううん。私も円堂の家行ってみたかったし』

「そっか。......ん?」

こてんと首を傾げた秋ちゃんに、どうしたのかな?と私も首を傾げる。

「家に行ってみたかったの?」

『え?』

あっ、そうか。一之瀬の話を聞くのに来るかって話だっけ!?
ただのオタクとして、これがあの円堂の家だー!って聖地巡礼みたいな気でいたんだけど、確かにただの部活仲間が家に行ってみたいって変だな。
もしかして円堂に好意があるとか思われたか...?秋ちゃんの恋路を邪魔する気なんか1ミリもないんだが!??

『えっと、その、失礼かもだけど、どんなお家で育ったらあんなサッカー馬鹿になるのかなって』

あはは...、と誤魔化すように笑えば、秋ちゃんは一瞬キョトンとしてからくすくすと笑いだした。

「確かに、ちょっと気になるよね」

そう言って笑っている秋ちゃんを見て、ほっと胸を撫で下ろす。
それからたわいない雑談をしながらしばらく歩いて、ここよ、と秋ちゃんは一軒のお宅の前で立ち止まった。

「こんばんは」

ガラガラと引き戸をずらして秋ちゃんが声をかける。

「えっ、」

驚きの声を上げた秋ちゃんの後ろかどうしたの?と覗き見れば、玄関に散乱した沢山の靴。

「あら秋ちゃんいい所にきたわ!」

廊下の奥からひょっこりと頭を出してそう言ったのは、円堂のお母さんで。
彼女は私を見るなり、あら?と首を傾げた。

『あ、夜分にお邪魔致します。守くんと同じサッカー部の水津梅雨と申します』

ぺこりと頭を下げたら、まあまあまあ!と円堂のお母さんは大きな声を出して、あなたが水津ちゃんね!息子から聞いてるわ!と言った。
聞いてるって何をだ!?まあ円堂の事だからサッカーのことだろうけど。

「ちょっと今手が離せなくて。良かったら2人とも手伝って!」

そう言って円堂のお母さんは、奥に入ってしまった。調理中なら危ないもんね。
お邪魔しまーす、と秋ちゃんと靴を揃えて脱いでお宅に上がらせてもらう。

何度か来たことのある様子の秋ちゃんの後ろを付いて台所に入ると円堂のお母さんは案の定忙しそうにしている。

「2人ともごめんね〜。おにぎり握って貰ってもいいかしら?」

「はーい」

『あの、これうちで作ってきたおかずなんですけど、良かったら』

そう言っておずおずと持ってきた大袋を差し出す。

「本当!急だったから助かるわ。そこに置いてちょうだい」

はい、と頷いて荷物を置いて、先に手洗いを終わらせた秋ちゃんに続く。

「一之瀬くんの話が聞きたいって次々に集まって大変なのよ」

やれやれと言いつつもニコニコとしてる円堂のお母さんを見て、良い母親だなぁ、と感心する。

おにぎりを握りながら、ふふ、と笑った秋ちゃんにどうしたの?と聞く。

「みんなも私たちと同じ事考えてたんだなぁって」

『まぁ、アメリカの少年サッカーの話なんて滅多に聞けるもんじゃないもんね』

時折、2階から男の子たちの笑い声が聞こえる。
おにぎりを握りながら、秋ちゃんの目は上を向いてる。

『羨ましい?』

そう聞けば秋ちゃんは、え?と私の方に目線を移した。

『こういう時、自分も男の子だったらな、って思うよね』

「梅雨ちゃんも?」

うん、と頷けば、秋ちゃんもそうだよねぇと頷いた。











ご馳走様でした!お邪魔しました!と皆がぞろぞろと円堂家を出ていく。
また明日!と帰る方向が同じもの達で各方面に散っていく。

「いやぁ、一気に減ったな」

5人になった自分たちを見て土門がそう言えば、秋はそうね、と頷いた。

「木野もせっかく来てくれたのに悪かったな」

と、幼なじみだしもっと話したかっただろ?と風丸が気を使う。

「ううん、梅雨ちゃんとお料理するの楽しかったし!」

「あの子料理上手なんだね。持ってきてくれた料理全部美味しかった!」

一之瀬は自分でそう言った後、もちろん秋も料理上手だけど、と付け加えた。

「梅雨ちゃん、一人暮らし歴長いからって言ってたけど、大変だよね」

だよなぁ、と土門と風丸も頷く。

「へぇ、一人暮らし。あの子、ボールコントロール凄い上手いしフリスタの事とか色々話聞きたかったんだけどなぁ」

「なんか微妙に避けられてるよな、お前」

「えっ、やっぱり土門もそう思う!?」

俺、何かしたかな、と一之瀬は夜空を見て思い返す。

「でも一之瀬くんの話聞きに一緒にくる?って誘ったら、来てくれたから嫌われてる訳じゃないと思うよ」

秋のフォローに、一之瀬は、うーん、と唸りながらも頷いた。

「グイグイ来られるのが苦手なだけじゃないか?最初、円堂が勧誘しまくってたのも断ってたらしいし」

風丸がそう言えば、秋は確かにそうだったけどどうだろう...?と首を傾げた。

「梅雨ちゃん、一之瀬くんのこと見て羨ましそうな顔してたんだよね……」

「羨ましい?」

どういうこと?と一之瀬が首を傾げる。

「さあ?私も春奈ちゃんも、みんなの
練習に混ざりたいのかなと思ったからあそこで声をかけたんだけど...」

「一之瀬。お前は怪我をしてたんだよな」

今まで黙って後ろを歩いていた豪炎寺がやっと口を開いた。

「え、うん。そうだよ。今はリハビリしてこの通りだけど」

一之瀬は軽く走ってターンして見せる。

「それ、じゃないか?」

豪炎寺の言葉に皆が、え?と首を傾げる。

「水津も昔怪我をしていたと言っていた」

「なあ、もしかして足の怪我か?最近は普通の走り方になったけど、ちょっと前まで変に左足を庇うような走り方してたんだよな」

風丸のその言葉に、土門と秋はそんなに変な走り方してた?と首を傾げた。

「多分パッと見じゃ分かんないんだろうけど。あれ、怪我を庇ってたんなら納得だ」

「でも、怪我してる奴があんなに飛んだり跳ねたりするか?」

土門の言葉に、風丸はそこなんだよなぁと悩むように顎に手を置いた。

「水津自身は怪我は治ったと言っていた」

「じゃあ、なんでそれが羨ましいに繋がるんだよ」

「ねぇ、彼女の怪我のレベルってどのくらいだったの?」

一之瀬が真剣な顔して、豪炎寺に聞けば彼はふるふると首を振った。

「詳しくは知らん。ただ、アイツは怪我に異常に反応するだろ」

確かにと、風丸、土門、秋は頷く。

「それって怪我に、トラウマがあるんじゃないかな」

考察するように一ノ瀬が答えれば、秋が、梅雨ちゃん...と呟いた。

「前にすっごく怒ったことあったじゃない?あの時...サッカーが出来ない体になるなら、あのまま死んでしまった方がよかった。そんな気持ちを皆には味わって欲しくない。みたいな事言ってなかった...?」

数時間前に似たような話しを聞いた土門と、言ったような一之瀬がハッとした。

「...実際に死にたくなるほどの怪我をした...?」

「サッカーが出来なくなる...。それなら、俺も痛いほどわかる」

ぎゅっと一之瀬は自分の服の心臓の当たりを掴んだ。

「俺は、事故での怪我だったけど...。彼女、フリースタイルやってる時の怪我なら、サッカーよりも怪我の危険度高いし、なにかトラウマがあるかもしれないよね。そういうことなら、怪我から立ち直って、トラウマもなく自由にボールを蹴ってる俺を見て羨ましいと思うのは普通のことだと思う」

「トラウマでできない技とかあるのかもしれないな。水津、イナズマ落としの練習の時の、不安定な足場からのオーバーヘッド。あれの見本やってもらう時めちゃくちゃ震えてた」

風丸の言葉に土門がなるほどなぁ、と呟いた。

「それなら、ルーティン練習してないから見せられないんじゃなくて、出来ないのかもしれねぇなぁ」

その言葉に皆、納得したように頷いた。



思索する
そんな考察されてたなんて、露も知らない。
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