フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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鬼道の登場に観客席がざわつき、挙句には批難の声も上がる。
まあ、負けたチームのキャプテンであるのに、同じ大会で別のチームに入り再びピッチに立つなんて、どうかしてると思うよなぁ。
雷門側は雷門側で、天才と呼ばれる選手を引き抜いた事でのブーイングが浴びせられている。

「あのままでは引き下がれない。世宇子には必ずリベンジする」

「鬼道...!俺には分かってたぜ!お前があのまま諦める奴じゃないってことは!」

喜ぶ円堂の横で、なんて執念だと染岡は呟いて感心すらしている。

「でもちょっと心強いね」

少林寺がそう言ってくれて良かったと、ほっと胸を撫で下ろす。
予選大会の決勝で、鬼道が思っていたよりも良い奴だというのが浸透したおかげだろうか。

「鬼道さんが居れば必殺技がなくても千羽山の守りを崩れるかも...!」

天才ゲームメイカーと呼ばれる人物の登場に宍戸もこの試合いけるかもと浮き足立った。

「よぉーし!頑張るぞー!!」

大きな声でガッツポーズを作った宍戸に、ベンチから響木監督が声をかけた。

「お前はベンチだ」

「え?」

「代わりに鬼道が入る」

「え、あ...俺っすか...」

鬼道のポジションはMFだ。恐らく雷門のMFで鬼道より実力がある者は正直居ない。
誰かが外されるのは仕方がない事なのだけれど。
明らかに宍戸は気落ちしてしまい、可哀想になってくる。

「宍戸...」

同じ1年生達が宍戸を不安そうに見つめる中、円堂が彼の方へ振り返った。

「宍戸!準備だけはしといてくれよ!いつお前の力が必要になるか分からないんだ!」

円堂の力強い言葉に、宍戸は、慌ててはい!と背筋を伸ばした。
その様子を、半田が珍しく睨みつけるような顔で見ている。

『うーん...』

「どうした?」

唸っていたのが気になったのか、染岡が隣に立って聞いてきた。
自分より背の高い染岡の顔を見上げて見る。
意外と染岡は実力主義と言うか、こういった場合は仕方がないと割り切るタイプだよなぁ。FWとして豪炎寺と比べられる事が多いし、実力が物を言う世界だと1番分かってるのかもしれない。

『そういう点では君は大人だよね』

挑発には乗りやすいし、キレやすいけど。

「は!?なんだよ突然...」

急に褒められたことに、動揺したのか染岡は少し頬を染めた。

『いや、意外と半田が子供っぽいなーと』

染岡のストッパーってイメージあったから落ち着いてると思っていたが、半田は良くも悪くも普通の少年なんだよね。







『FW1人か』

千羽山のフォーメーションを見るとDF4人MF5人のガチガチの守り構成だ。
雷門ボールでキックオフし、染岡と豪炎寺が敵陣に切り込む中、半田から染岡にパスを飛ばす。
だが、染岡の足元に届く前にボールは後ろに落ち千羽山中にボールを奪われてしまう。

「やはりタイミングがあっていません。昨日の練習をまだ引き摺ってるみたいですね」

目金の言うように、相変わらず選手達の息が合っていない。
何とか千羽山からボールを風丸が奪って栗松にパスするが、大きく飛んだボールは栗松の遥か先に着地した。
土門から松野、少林寺から豪炎寺、どの組み合わせのパスも全く通らない。
その隙をついて千羽山にボールを取られて攻められる。

「モグラフェイント」

千羽山の7番が放った必殺技が、ディフェンスに入った風丸の股下を抜け、彼の後ろを飛び出したボールをシュートされた。
真正面に飛んで来たボールを、円堂ががっしりと掴んで止めた。

みんながほっと胸を撫で下ろす中、秋ちゃんが不安そうに立ち上がった。

「監督!」

秋ちゃんが声をかけるが、響木監督は何も言わずフィールドに立つ鬼道を見据えていた。

『秋ちゃん、大丈夫』

「けど...」

彼女の手を取って、ベンチに座らせる。

『もうちょっとだけ待ってて』

「え?」

フィールドを見れば未だパスミスが続いて、またも千羽山にボールを奪われていた。
9番の選手が、ラン・ボール・ランというドリブル技で攻め上がってくるのを土門がキラースライドで迎え撃つがジャンプでそれを避けられてしまう。


危ない!と今度は春奈ちゃんが立ち上がる。

ゴールの前には壁山が立ちはだかって、ザ・ウォールを発動する。

「栗松!」

何とか弾いたボールを、拾ってくれと壁山が声をかけるが、そのボールは栗松の遥か上を飛んで行った。

「えっ、え、強いでやんす!」

栗松が困惑した隙に、大きく飛んだボールに千羽山のFWが飛びついてシュートを放った。

「シャインドライブ!」

眩い光が放たれて、円堂が目を眩ませたその合間に、ボールはゴールへと入ってしまった。
千羽山の選手達がやった!と喜び合う中、円堂が切り替えるようにどんまいどんまいと手を叩く。
そんな中、鬼道が栗松と松野に話しかけ何かを伝えている。

再び雷門キックオフで試合が始まれば、ボールを持った‪松野がスライディングで転けさせられて、ボールを奪われる。千羽山がパスで繋いで、ゴール前に向かわれる。千羽山の選手がセンタリングをあげようとした所をなんと、栗松がカットした。

「栗松!土門へパスだ!3歩先!」

鬼道が強い口調でそう叫ぶ。
栗松は少し戸惑った様子だが、言われた通り、土門へとパスを出した。

「通ったでやんす!」

大きすぎたり、届かなかったりしたパスが今試合で初めて繋がる。

「マックス!」

ドリブルで駆け上がる土門が松野にパスを出そうとする。

「待て土門!」

それを制した鬼道は、いちに、とカウントを取った後、行け!と土門に命令する。

「は、はい!」

土門が蹴ったボールも上手く松野に繋がった。

「そのまま持ち込め松野!」

松野がドリブルで敵陣に攻め込み、鬼道が染岡にパスだ!と言えば、松野はいつもより2歩半分先にボールを蹴った。

「ドンピシャだ!」

そう言って染岡が、ドラゴンクラッシュを撃つ。

「薪割りチョップ!!」

この試合で初めて撃てたシュートとは、上から下に、チョップで叩きつけられてボールが横に弾かれ止められてしまった。
それでも初めてパスが通り攻めに転じられた雷門イレブンは凄いぜと鬼道に群がった。

「あれが貴女の言っていた全てを見る目を持った選手の力ね」

『うん。軽く状況は伝えていたけど、たった10分で選手達の能力を把握して修正できるの凄いなぁ』

私と夏未ちゃんが語る端で、秋ちゃんと春奈ちゃん、そしてベンチ組が監督にそういう事だったんですか!と詰め寄っている。

『けどなぁ...』

お前は大大大大大天才だ!と鬼道の肩を円堂が叩いて、皆ポジションに戻っていく。その中の半田の背中を見る。

「半田くんがどうかしたの?」

『うーん、』

どうしたものかと悩んでると、監督に詰め寄っていた秋ちゃんも戻ってきて隣に座る。

「半田くん、なんか元気ないような気がするわよね」

秋ちゃんの言葉に、あー、それ、と頷く。まあ元気がないというか何か思い詰めてる感じなんだけど。
大丈夫かな、と見つめる中、試合が再開される。
鬼道の支持で上手くパスが周り出したが、ドリブルで上がった松野を千羽山の3人の千羽が取り囲み、かごめかごめ、と歌いながら周囲を回って翻弄しボールを奪った。しかし、奪われたボールをすかさず鬼道がスライディングで取り返し、染岡にパスを出した。
そのパスを受けて染岡と豪炎寺がドラゴンクラッシュを放つ。
だが、キーパーとDF2人がゴールの前へと立ち無限の壁という必殺技を出して塞がれてしまい、そこで前半戦終了のホイッスルが鳴り響いた。



立ちはだかる壁
さてさて、問題は試合相手だけじゃないと言うことだ。
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