フリースタイラーの変遷

□フットボールフロンティア編
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「水津さん、タオルの回収お願いしていい?...水津さん?聞いてる?」

『え?あ、ごめん。何かな?』

そう言って自分をやっと見た梅雨の様子に秋は少し不思議に思った。

「水津さん、何かあった?」

そう聞けば一瞬だが、驚いたように梅雨は目を見開いてその後、ううん、と首を振った。

『なにも、ないよ』

「...そう?ならいいんだけど...。私、タオルの回収してくるからここお願いね」

あ、うん、とぼんやりした様子で返す梅雨に大丈夫かな、と首を傾げながらも秋はベンチにバインダーとホイッスルを置いて洗濯したタオルの回収に向かった。


「はー、疲れた!梅雨ちゃん、ドリンクちょーだい」

『え、ああ、うんドリンクね』

休憩しにひょっこりとベンチに現れた土門は、梅雨からドリンクボトルを受け取りながら、んー?と目を細めてみた。

「梅雨ちゃん、どうした?」

『どうしたって、なにが...?』

「いや、無自覚なのそれ。めっちゃ顔を怖いよ」

俺の事脅してきた時より怖いかも、と土門が言えば水津はえっ、と呟いて自分の頬をむにむにと触った。

「...何考えてんの、梅雨ちゃん」

そう言って土門は梅雨の隣に腰を下ろした。

『...先を知ってるのに何も出来ないもどかしさを感じてただけだよ』

「どういう意味だ?」

首を傾げる土門に、意味なんてないよと呟いて梅雨は自分の腕を摩った。

『...ところで、使い分けるのやめたの?』

「ん?使い分け?」

『私の名前の呼び方、表と裏で使い分けてたでしょう?梅雨ちゃんって呼ぶ時と水津って呼ぶ時あったでしょ』

ああ、それね、と土門はベンチに両手を付き、顔を上に向けて天を仰いだ。

「俺はお前の事疑ってたし、警戒してた。同じどこかのスパイだろうって」

『うん』

「けどさ、こんな俺でも円堂は信じてくれて仲間だって言ってくれたんだ。だから俺も梅雨ちゃんの事信じようと思って、警戒すんのやめたの」

そう言いながら土門は梅雨の方を見てニッと笑った。

『...そう。それで、ちゃん付けの方が残ったの』

「あ、もしかして嫌だった?」

『嫌なら最初に呼び出した時に止めてるって』

「そっか」

よいしょ、とベンチから立ち上がった土門は、ぽん、と梅雨の肩に手を乗せた。

「ま、なんか思い詰める前に相談しろよ。みんな聞いてくれると思うぜ」

じゃ、練習戻るわと、土門はドリンクボトルを置いてグラウンドに駆けて行った。
そんな土門と入れ替わりで豪炎寺がやってくる。


「水津、どう思う?」

開口一番そう言った豪炎寺に、どう、とは?と梅雨は首を傾げた後、ああ、先程、陸上部の後輩である宮坂に声をかけられてから風丸の調子が悪くなったんだっけ、と思い返した。

『風丸は精神的なブレが生じてるね』

「...そんなことは本人含め分かっている。原因もだ。俺が聞きたいのはジャンプやオーバーヘッドのフォームの事だ」

『え?ああうん、いいんじゃない?』

そう言えば、豪炎寺はムッとした表情になった。

「お前、いつもならもっと事細かく指摘してくるだろう。今日はどうした。練習に集中できてないんじゃないか」

豪炎寺の表情と声色から、これは怒ってるなと察した梅雨は、あの、とか、いや、と言葉を濁す。

「なんだ」

『...ファイアトルネードだけは勘弁を!』

梅雨がお腹を両手でブロックしながらそう言えば、豪炎寺は、は?と首を傾げた後、意味がわかったのか、ああ、と頷いた。

「きちんと集中していないと、今日はファイアトルネードじゃなくて炎の風見鶏が飛んでくるぞ」

『ッーーース、了解です!』

梅雨がビシッと背筋を伸ばせば、豪炎寺はフッと笑った後、ジャンプについての質問を梅雨に色々とし始めた。

その様子を、豪炎寺と風丸の炎の風見鶏のタイミングを見計らう為に校舎のバルコニーに上がっていた影野と染岡が見ていた。

「染岡。そんなに気になるなら水津さんに声かけてきたらどう?」

影野の言葉に、染岡は、はあ!?と声を荒らげ彼の方を見た。

「気になんかしてねーよ!」

「...そう?じっと見てるから、心配してるのかと思った。水津さんなんか元気ない見たいだし...」

そう言って影野は、グラウンドに戻る豪炎寺を見送っている梅雨を見つめる。

「お前の方こそ心配してんだろ」

「うん...。風丸も調子悪いみたいだし、大丈夫かな」

「練習再開してから炎の風見鶏全然決まんねぇもんな」

影野は長い髪を揺らしながらコクリと頷いた。

「2人とも他人に気を回す方の人だから自分の事となると途端に不器用になりそうだよね...。心配だな...」

「帰る前に2人に声かけるか」

「うん、そうだね。そうしよう」

染岡の言葉に同意する影野に、下のグラウンドから、円堂が大きな声で彼の名を呼んだ。

「いつでもいいよ!」

頑張って大きな声を出して、練習の再開を促すのだった。



悩乱する2人を
心配する優しい仲間達。
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