長唄

□嫁ぎましょっ!
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運命の日


昔からたまに見る夢がある。
そして、いつも同じ人が出てくる。
貴方は、誰ですか?


温かい風が流れ桃色の花びらが舞う。
月夜に照らされ桜が桃色に輝く。

「丸竹えびすにおしお池、姉さん六角たこにしき、しあだぁ…」

「妾と遊ぼうぇ」

「えっ…?」

急に目の前が真っ暗になり、
ついていたまりが何処かへ転がっていく。

「妾と遊ぼうぇ…」

暗闇から不気味な声が聞こえた。

怖い。怖いよ、

「妾が怖いかぇ」

「ヒィっ!!」

目の前に現れたのは、この世の者とは考えられない姿をした者
恐怖で体が動かない。

「お前の生き肝よこせ。
  妾によこせェェェェェーー!!!」

「ぃやァァァァっ」

「唯っ!!」

殺されると思ったその時



「ギャァァァァァっ」

もの凄い呻き声と共に、私を温かい温もりと桜の優しい香りが包み込む。

「ぅッ…  ぅちゃん、 ぅちゃんっ」

「泣くな、もう大丈夫だから。」

私が名前を呼び続ける人は、温かい手で
優しく涙をすくってくれた。

「大丈夫だ俺が守ってやる…
      お前は、俺の……」


そして、いつも此処で夢が途切れる。

待って!あと少しだけっ!
どうして、また同じ所で夢から覚めるの?
名前も覚えていない貴方は一体誰?
あの時、何て言おうとしていたの?
胸が騒ぐ時貴方に逢いたくなる…。
もう一度、貴方に逢いたい…。





「待ってっ!!!」

「!?…大丈夫かぁ、唯?」

「お兄ちゃん?…うん、大丈夫。」

何だろう?胸騒ぎがする。頭が痛い。

「本当か?顔色良くないぞ。」

「本当に大丈夫だよ…。」

「…ならいいが、あまり無理するなよ。俺そろそろ出かけるから、学校遅刻するなよ。」

「うん!いってらしゃいお兄ちゃん。」

「あぁっ!!」




これが、お兄ちゃんとの最後の会話になることを私は、知らなかった…。







重たい頭を引きずりながら、布団から出て身支度を進める。

私が通う中学では今、卒業式に向け練習を行っている。
中学を卒業し、新しい出会いを求め、それぞれが互いの道へと進む。
私も、この春から通う事になった高校がある。

私は、手慣れた手つきで髪を高い位置に持っていき
お気に入りの赤いリボンでポニーテールを作る。

「よしっ!今日もバッチシ♪いってきま〜す」

私は、お兄ちゃんに続きアパートを出る。
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