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□[88]皇嘉門院別当
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それは、単独忍務で侵入した屋敷で目的の巻物を盗み、逃げようとしていた時だった

『どなた…?』

静かなここに響く、女の声

しまった、と思った瞬間にはもう遅く、声の主は近くまで迫っていた

『屋敷の方ではない、ですよね?』

凛とした声の主はひどく美しく、俺らしくないとは思いながらも見とれてしまった

『…忍者さんですか?』

「………ああ」

屋敷に侵入した奴を見ても叫ばない

随分胆の据わった女だ

「この屋敷の姫様か?」

『ええ。なまえと言います』

「随分と落ち着いてるんだな」

『屋敷に侵入する方は少なくないですから』

にしても落ち着いてるな

寧ろこっちが焦ってくるっての

『お目当ての物は見つかりましたか?』

「まぁな。で、姫様?」

『何ですか?』

「俺、見つかるとヤバイんだ。見逃して?」

俺の言葉に、姫様は少し悩んだようだった

正直、こんな女は初めてだ

自分の屋敷に侵入され、ここまで落ち着いてる女なんて

こんな出会いが恋だなんて、安易だなと思う

でも、俺は一瞬にして引き込まれた

なまえの纏う空気に

姫様に恋だなんて、見込みないのにな

これが世に言う一目惚れってヤツか?

俺らしくないな

『分かりました、見逃してあげます。その代わり、』

「?」

『また、会いに来て下さい』

こりゃまた大変なことだ

この城、警備厳しいんだよなぁ…

「いつか、な…」

忍と姫様なんて身分違い

しかも俺なんて戦孤児で育ちが良くない

命がけの恋、になりそうな予感だな


一目で落ちた、貴女の世界









難波江の
あしのかりねの
一よゆゑ
みをつくしてや
恋ひわたるべき
(皇嘉門院別当)











一夜限りとわかっていたのに
あなたを本気で好きになってしまった
私には命がけの恋になってしまった

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