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□[97]権中納言定家
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「なまえ?」

『あ…』

懐かしの声に振り向くと、私の後ろにいたのは伊作

これでもくの一なのに、同じ忍者の気配に気付けないなんてね

「なまえも、かぁ…」

『ええ。私が来なかったら、きっと怒られるわ』

「確かに、留さんなら怒りそうだね」

そう、今日は彼が失踪して丁度半年

私が今いるのは、卒業式の日に私と彼が契りを交わした木の下

一ヶ月おきに、かつての仲間がここを訪れてくれる

一人残された私を、心配してくれているみたい

彼――食満留三郎は、私の夫だった

保健委員だった私と伊作はずっと仲が良かった

必然的に、伊作の同室の留三郎とも仲良くなった

私は留三郎の前向きなところに惹かれた

そして卒業と同時に結婚

私と留三郎は夫婦で忍者学園に就職した

私は新野先生の助手として、留三郎は実技の教師として

留三郎は教師をしながら、フリーの忍としても働いていた

あの日もまた、いつものように帰って来ると思っていた

一緒に仕事に行ったのは、文次郎と長次

けど、帰って来たのは2人だけだった

「全く、なまえを置いてどこに行ったんだろうね」

『本当、困った人よね。今年は富松君が委員長なのに』

留三郎が大好きだった後輩の富松君

彼もまた、留三郎の失踪を悲しんでくれた1人

「…寂しくはない?」

『寂しいわ。でも、私は留三郎を信じているから』

だから、いつまでも待っているわ

あなたが帰って来るまで、ずっとね


お別れには、しない










来ぬ人を
まつほの浦の
夕なぎに
焼くやもしほの
身もこがれつつ
(権中納言定家)










待ってもあなたは来ないけど
やっぱり私はいつまでもあなたを想い
胸をこがしています
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