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□[96]入道前太政大臣
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『見て、喜八郎』

柔らかい声がする方を向く

1本の桜の木の下に立つなまえ先輩

立花先輩の2つ年上で、僕が2年生の時に6年生だった

その時は余り接点はなかったけど

卒業後もなまえ先輩はよく学園に来ていて

自身が作法委員だったのもあって、随分とお世話になった

『桜吹雪だよ、』

そう言って微笑むなまえ先輩

美しいはずなのに、どこか儚げで…

『もう、卒業して2年も経つんだねぇ』

「どうか、したんですか?」

『卒業してからたった2年で、たくさんの命の花が散るのを見たわ』

寂しげに桜の木の下に佇む

桜吹雪の中にいるなまえ先輩は、とても綺麗だ

『まるでこの桜の花びらのように、あっさりと散っていくのよ』

「先輩…?」

『きっと次は私が散る番ね。卒業してから2年、私も年をとったものね…』

「…………」

『私、こんな風に美しく散れるかなぁ』

ね、喜八郎と言って笑うなまえ先輩の後ろに立つ

まだ少し、なまえ先輩の方が背は高い

『喜八郎…?』

振り向こうとするなまえ先輩に抱き着く

後ろから包み込むように抱きしめる

「…散らせません」

『え…』

「なまえ先輩は、散らせません。僕ではまだ力が足りないけど…。それでも、なまえ先輩は僕が守ります」

今の僕ではまだ力が足りないのは、十分分かっている

でも、僕のこの気持ちはただの憧れなどではないから

大切な人が散る姿なんて、見たくない

「なまえ先輩が、好き」

そう、これが僕の気持ち

「いつまでも、なまえ先輩と共に在りたいです」

僕がそう言うと、なまえ先輩は小さく頷いた

僕は絶対、なまえ先輩という華を散らせたりしない

そう、固く誓う…


永久へ続く誓い










花さそふ
あらしの庭の
雪ならで
ふりゆくものは
わが身なりけり
(入道前太政大臣)











嵐の庭は
まるで雪のように花が散る
その花はまるで私
年を取って散っていく……

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