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□[57]紫式部
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「すみません、この簪を1つ頂けますか?」

『はい、ちょっと待って下さいね』

言われた品を、丁寧に包装する

商品を手渡し、お代を貰う

私は町の簪屋に生まれ、ずっとこの町で育った

裕福ではないけれど、温かい町の人達に恵まれ、幸せな生活をしている

ただ、1つ気がかりな事

それは、幼馴染みのあいつの事

十歳の時忍術学園に通う、と言って出て行ったっきり帰って来ない

六年で帰って来ると言ったくせに、もうその六年過ぎてるっての!!

「すみませーん!!」

『はーい』

また新しいお客様だ

初めて見る人だなぁ

「この簪を、贈り物用に」

『かしこまりました』

お客様が選んだのは、あまり派手でない、淡い色を基調としたもの

この店の中でも簪作り担当の自信作

私が一番気に入っていたものだ

『どうぞ』

「ああ」

包装した簪を手渡すと、何やら含み笑顔

??

なんだろう??

「相変わらず、店一筋だな。ま、少しは女らしくなったかな?」

耳元で囁かれた言葉

懐かしい声色

「これはお前…、なまえに…」

ぽん、と手渡されたさっきの包み

あの人が買った簪が入っている

『えっ!? 待って…っ!!』

渡してすぐ外に出てしまったあの人

追いかけて私も外に出るけど、姿はもうなかった

『三郎、なの…??』

姿形は確かに違った

声も昔とは違うけど、どこか懐かしさのある音

うん、あれは三郎だ

きっとそうだ

私はこうして堂々と待ってるのに、三郎はすぐ隠れちゃうんだから

早く帰って来ないかな、ばーか


かくれんぼ好きな狐さん


三郎、何してたの?

……やばい雷蔵どうしよう…っ

何が?

綺麗になり過ぎだろう…

ああ、前に言ってた幼馴染みさん?

そう。破壊力抜群…

ちゃんと自分の顔で会いに行けばいいのにー





めぐりあひて
見しやそれとも
わかぬ間に
雲がくれにし
夜半の月かな
(紫式部)











あれは本当にあなただったのかな……
曇る夜空の 月みたいな人
見えたと思ったらまたかくれる

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