31文字

□[50]藤原義孝
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『また忍務??』

「…どうしてここにいる」

『兵助は好きでしょう? ここが』

こことは、硝煙倉

生憎の雨で、いつもより幾分冷えているわね

「別に、好きって訳じゃない」

『あら、そうなの』

だって兵助は忍務の話が入った後は必ずここに来るから

好きなのかと思っていたわ

『いつからなの?』

「明日の夜中に出立する」

『一人?』

「今回は勘右衛門と三郎が一緒だ」

『そうなの』

途切れる会話

兵助が相手だと、どんなに会話に隙間があっても苦ではない

「俺はさ、」

『??』

「忍務には命を懸けるべきだと思ってたんだ」

棚に並べられた火薬の壺を見ながら語り出す

雨が弱くなったのか、さっきよりも兵助の声がよく聞こえる

「けど、今は違うんだ」

『どう変わったの?』

「精一杯やる、けど…。前みたいに命を懸けることは出来ない」

『どうして?』

「お前がいるから」

振り向き、私の目の前に立つ

その瞳は、真剣そのもの

「なまえが待ってる。そう思うと、忍務で死ねないと思えるんだ」

『へー、すけ?』

「俺、弱くなったかな…」

『そんな事ないよ。それは、私も同じだから』

断言出来る

私も、兵助と出会って変わったもの

忍務で命を懸けるのが当然と思っていた

でも、今は兵助と共に在るために生きたいと思う

いつまでも、一緒にいたいと思うんだ


共に在り、共に生きる










君がため
をしからざりし
命さへ
ながくもがなと
思ひけるかな
(藤原義孝)










いつ死んでもいいと思っていた
君に会うまでは
君に会えた今、いつまでも君といられたらと僕は願っている

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