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□[13]陽成院
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『あなたの事なんかね、昔は好きじゃなかったのよ』

「…急に何だ」

『ん、ちょっとね。こうして後輩が脱落していったから、昔話でもね』

相変わらず、帳簿と向き合う日々

今日で徹夜5日目

遂に三木ヱ門も脱落した

会計委員室の端で固まって寝ている後輩達

「お前は後輩に甘すぎる」

『いいじゃない。甘えられる時に甘えておけば』

目の下には、いつも以上に酷い隈

逆にその隈がなかったら気持ち悪いんだけれど

「で、昔話がどうした?」

『四年の時も、こうして2人で委員会やったなぁって』

「…そうだったか?」

『そうよ。やりたかった訳でもない会計委員やらされて、あんたなんかと徹夜したの』

「今じゃ会計委員でもないくせに手伝ってるが?」

『そりゃ、文次郎が委員会ばかりで私のとこに来ないから』

「…………」

嫌々やっていた会計委員

いつの間にか、こんな文次郎を好きになっていた

仙蔵や伊作が色々してくれて、何だかんだ今では恋仲だけれど

『文次郎は計算遅くてねぇ。私、文次郎の分もやったわ』

「悪かったな」

『それが、今じゃ恋仲だよ?』

あの頃からすると、考えられないわよね

そう言えば、確かにな、と笑われた

普段おっさんみたいなクセに、こういう笑顔は素直に格好良いと思える

『文次郎、この帳簿終わったら次の休みに一緒に街に行ってくれる?』

「終わったら、な」

昔は好きじゃなかったと言ったけど、実は嘘かもしれない

何だかんだで、私は昔から文次郎しか見ていなかったもの

『じゃあ、いつも以上に頑張るわ』

「ああ」


結局は、大好き










筑波嶺の
みねより落つる
みなの川
恋ぞつもりて
ふちとなりぬる
(陽成院)









あるかないかの想いでさえも
積もり積もって、今はもう
君のことがとても愛しい

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