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□[89]式子内親王
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分かっていたんだ

どんなに手を伸ばしても届かないことくらい

ただ、どうにかして君の瞳に映りたい

少しでもたくさん、君の記憶に残っていたいんだ










『ねぇ、伊作』

「何でしょう、姫様」

『外の話が聞きたいわ』

そう中庭を眺めながら呟く姫様

齢は今年で十六になる

とある大きなお城の姫様

忍術学園を卒業した僕は、留三郎と共にこの城に就職した

平和主義なこの城は戦なんて絶対参加しないから、忍の僕達に仕事はない

暇な時間が多いから、留三郎は町に出掛けた

きっと姫様の大好きなお団子を買ってくるのだろう

『そう、外の話。伊作の行っていた学園の話』

「分かりました。では、僕が六年の時に行われた文化祭の話でも…―」

姫様は、学園の話を聞くのが好きだ

学園を卒業して次の春で三年になる

この城に勤め始めた当初は幼げの残っていた姫様

今ではこの城の城主の旦那様からは縁談ばかりだ

どうして、僕は忍なのだろうか

決して言ってはならない、この想い

姫様が好きだ、なんて

身分違いにも程がある

光と闇、まさにそんな立場

どれだけ自分の立場を呪ったことか

この想いは、口にしてはならない

許されない、身分違いの恋なのだから

でもそれは苦しくて

こんなに近くにいるのに、触れることすら出来ない

こんなに苦しいなら、いっそ死んでしまった方が楽だろうな

なんて、保健委員だった僕としてはらしくない事を考えてしまうんだ


心の奥に閉じ込めて

(それはきっと、パンドラの箱)
(開けることは、許されない)


玉のをよ
たえなばたえね
ながらへば
忍ぶることの
よわりもぞする
(式子内親王)




この恋を忍ぶことに
いつか耐えられなくなるくらいなら……
私は今消えても構わない

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