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□[16]藤原行平
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『今回はどれくらい?』

「正確には分からんが…。長ければ一月かかるだろう」

『そう…。一人?』

「いや、文次郎がいる」

『そう……』

よくある、私と仙蔵の会話

共に忍術学園で六年間学び、学園を卒業してすぐ結婚した

仙蔵は城勤めではなく、フリーのプロ忍の道に進んだ

明日からは、また長期の仕事

町の一角に二人で住んでいるこの家も、寂しくなるわ

「寂しいか?」

『ええ、まぁ』

含みのある笑顔を見せる仙蔵

この笑顔は決まって何かを企んでいる顔

「何かあったら、名を呼べ」

『え…?』

「例え何処にいようとも、必ず戻って来よう」

『あらあら…。自分の首を絞めるようなこと仰って』

「私を信用していないな?」

『ふふ、そんなことはないですわ』

大真面目な顔でそんな事言うなんて、貴方にしては珍しいから

どうしたのかと思うじゃない

『そうですわね…。何かあったら、必ず貴方の名を呼びますわ』

「ああ、約束だ」

そう言って、右手の小指を差し出す

まさか、貴方がこんな子供騙しみたいな事をするなんて

本当、貴方じゃないみたいだわ

「では、行って来る」

『行ってらっしゃいませ』

寂しくないと言ったら、嘘になる

けれど、辛くはないわ

だって、名を呼べば貴方が戻って来てくれると信じているから


共に在る、


立ち別れ
いなばの山の
みねにおふる
まつとし聞かば
今帰り来む
(在原行平)









私は行かなくちゃ
でも、君が呼べば必ず帰って来る
必ず

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