Short Story

□守りたいもの
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「絢乃先輩は、どうして体育委員会に入ったのですか?」

『随分と唐突だね、しろちゃん』

「だって、絢乃先輩って三年生までは保健委員だったって聞いたんですもん」

『誰から?』

「次屋先輩からです」

三之助め、後でお説教してやる

「小日向先輩、保健委員だったんですか」

『金吾、しろちゃん。面白い話じゃないんだよ?』

そう、私が体育委員になった理由

それは、面白い話でもなければ、誇れるような話でもない

ただ、私の勝手なのだから

「教えて、下さい」

金吾としろちゃんは、真剣な眼差しで私を見てくる

ああ、こんな目をされたら話さない方が悪者みたい

『…小平太先輩は5回、滝夜叉丸は3回、三之助は2回。これは、何の回数でしょう?』

「「??」」

忘れもしない、この数字

きっとこれだけじゃ、分からないよね

『死にかけた回数、だよ』

「死にかけた…?」

『そう。忍務だったり、委員会中に山賊に出くわしたり…』

委員会の花形、体育委員

だからなのかもしれない

誰かが一緒にいて、危険な場面に出くわしたら

真っ先に自分を犠牲にして敵陣に突っ込んでいくのは、いつも体育委員なのだ

何が花形の体育委員なんだ、と何度も思った

保健委員をやっていた頃は、体育委員が大嫌いだった

自分の命を粗末にして、死にに行っているようなものだから

そんな体育委員に入ったのは、本当に小さなある出来事がきっかけ


"大切だから守る。ただそれだけだ"


"死にに行っている訳ではありません。死ぬ気など毛頭ないですから"


"大切な人を自分の手で守れる。嬉しくないっすか?"


小平太先輩、滝夜叉丸、三之助が言った言葉

これが私の心を動かしたの

『…体育委員は無茶する傾向にあるから。1人くらい医学の知識がある人がいた方がいいと思って』

「そんなことが、あったんですか…」

『うん。私も、小平太先輩に守られたことがあるの』

三年生くらいの時かな

五・六年生の先輩方が、みんな実習でいなくて

仕方なく1人で薬を買いに行った帰りだった

山賊に襲われ、三年生のくのたまでは太刀打ち出来なかった

丁度その時現れたのが、委員会中だった小平太先輩率いる体育委員

私のために、山賊と戦ってくれた

当時二年の滝夜叉丸と、一年の三之助も戦ってたの

結果的に勝てたから良かったけど…

『だから、私が体育委員にいるのは、ある意味で恩返しなの。いつでも、すぐに怪我の手当てが出来るように』

本当に、私の勝手なの

もっと自分を大切にして欲しい

でもやっぱり体育委員だから、根っからの戦闘派

私が体育委員のそんなとこが嫌いなのは、小平太先輩達は知ってる

でも小平太先輩達は、私を体育委員に置いてくれている

『2人は、命を大切にしてね』

でもきっとこの2人もまた、根っからの体育委員

先輩の背中を追って成長していくんだろうなぁ

「絢乃先輩が悲しむなら、僕は気を付けます」

「僕も、時友先輩と同じです。でも、大切な人を守りたいって言う気持ちは同じです」

『やっぱり、体育委員ね』

この子達の命の花が散らないように

この学園にいる限り、私は体育委員を守ろう


守りたいもの












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