Short Story

□アイ、あい、愛
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「あれ…?」

私の向かい側で煮魚定食を食べている勘右衛門が呟いた

「勘右衛門?」

勘右衛門の隣に座る兵助が首を傾げながら勘右衛門の視線を追っていた

「は?」

突如怪訝そうな顔をする兵助

その視線を追う私

視界に入ったのは、信じられない姿だった

しかし私が絢乃を見間違えるはずはない

だって3年の頃からの恋仲なのだから

「絢乃!!」

おばちゃんからカラアゲ定食を受け取った絢乃を呼ぶ

『三郎だ。わ、みんないる』

「絢乃、お前…。何があった…?」

私を始め、勘右衛門・兵助・雷蔵・八左ヱ門の視線を浴びる絢乃

いやだって信じられないだろう?

高い位置で結っても腰まであった長い黒髪が、今は肩程までしかないのだから

『あー、これね…。昨日まで忍務だったじゃない? その時に、敵に切られちゃったんだぁ…』

名残惜しげに肩の辺りの髪をいじる

パッと見ただけじゃ誰だか分からないくらいに別人のようだ

「もったいないね〜、折角綺麗な髪だったのに」

「絢乃が忍務で髪を切られるとは、意外だな」

『ん〜、相手が見事な戦輪使いでね。結び目に近いところを戦輪で切られたの』

全くショックを受けたようではない絢乃

しかし私はかなりのショックだぞ!?

「絢乃の綺麗な髪が…」

隣に座ってカラアゲ定食を頬張る

その横で短くなった絢乃の髪をいじる

「絢乃は残念じゃないの?」

『ん? 髪のこと?』

「うん」

雷蔵の問いに、箸を休める

ん〜、とか言いながらにこにこしている

『残念じゃないって言ったら嘘だけど。これでもいいかな、とは思うな』

「そうなの?」

『うん。だって三郎は、私の髪を愛してた訳じゃないでしょう?』

「?」

『例え髪が短くなっても、私は三郎の愛があればいいよ』

〜〜〜っ!!

何この子、可愛い!!

『分かった? 三郎、』

「あ、あぁ」

ふわっと微笑んでまたカラアゲを食べ始めた絢乃

私も、愛されているなぁ


あい、アイ、愛




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