Short Story

□お見通し
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『さこ〜ん…』

長い付き合いになる保健委員長の名を呼びながら、保健室の襖を開ける

けど、中はもぬけの殻

『えー…。何で誰もいないのよ…』

痛む背中を庇いながら、半ば這うように保健室に入る

何故私が今こんな状況なのかと言うと

後輩数人と街に出掛けた帰り道、山賊に襲われた訳で

いつもなら余裕で倒せるけど…

小袖を着ていたのと十分な武器を持っていなかったために戦えなかった

まだ下級生の後輩を庇った時、見事に背中を刀で切られてしまった

幸い後輩には先に逃げてもらって、私も何とか学園までたどり着いた

ああ、もう…

六年にもなって山賊ごときにやられるなんて…!!

絶対三郎次に馬鹿にされる!!

「うわっ!?」

『あ、左近…』

やっと戻って来た左近

うつ伏せで保健室に倒れている私を見て、うわって言いやがったわ

『助けて、左近。痛い』

本当に痛い

私の横に座り、黙々と治療し始めた左近

無言の治療って、地味に心に突き刺さるよ…

「何でこんな怪我したの」

ポツ、と呟くような声

『山賊に襲われちゃって…』

「背中に横一直線の刀傷なんて…」

ぶつぶつと文句のような事を言いながらも、ちゃんと手当てはしてくれる

『…ごめんね?』

うつ伏せで治療してもらっているから顔は見えないけど、とりあえず謝る

「小袖、もったいない」

『え?』

うつ伏せの状態から、頑張って左近の顔を見ようとする

「前に浦風先輩に見立ててもらったやつ。似合ってたのに」

ふてくされたような、照れたような

とにかくそんな顔をする左近

確かにこれは、浦風先輩が卒業間際に私に見立ててくれた小袖

まさか左近がこれを気に入ってくれていたとは…!!

普段そんな事言ってくれないから、喜びも大きいわ!!

『じゃあさ、左近』

「何?」

『今度は左近が見立ててよ』

「は??」

ぽかんとした顔

あまり見られない、貴重な表情ね

『私、左近が選んだ小袖着たいな』

「な…っ!! 馬鹿じゃないの、もう…!!」

左近のこういう言葉は照れ隠し

付き合い長いんだから、もう分かりきってるよ

『次の休み、買いに行こうよ』

「好きにすればっ」

ツンデレな左近は、素直に行くなんて言えないもんね

ああ、次の休みが楽しみだなぁ


お見通し


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