Short Story

□それが愚かと分かっていても
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辺り一面血の海

そんな表現がぴったり過ぎて怖い

「絢乃、」

『金吾…』

後ろから私に声をかけたのは、金吾

六年になってから、よく忍務で一緒になる

「大丈夫か?」

心配そうに私を見つめるその瞳

私の事心配しておいて、金吾だって血まみれじゃない

「もう終わった。戻って来い」

『ん、』

私は二重人格

両親の教育の賜物で、戦いに関しては天才と言われる

そんな私は、本当は争い事が嫌い

出来るならば、戦いたくない

でも、忍術学園六年となれば避けられないのは実地忍務

実際私は腕を買われて四年の時から忍務をこなしている

その頃からよく一緒にいる金吾は知っている

私が、戦う時は違う人格になる事を

本当の自分は意識の外に追いやって

戦場では鬼に化ける

いつしか、身体に染み付いた血の臭いはとれなくなった

「絢乃」

再び私を呼ぶ声

『ごめん、金吾』

そう言いながら、私は金吾に抱き着く

そんな私を、金吾は優しく受け止めてくれる

「大丈夫だから、絢乃」

背中をさする大きな手

震える身体が、人の温もりを欲している

私も金吾も刀を使い戦う

同じなのに、どうして私はこんなに弱いのかな…

『私、またやっちゃったよ…』

幾つもの屍の真ん中で思う
戦いたくない、と

こんな風に思ったのはいつからだっけ

「大丈夫。それは俺も一緒だから…」

『金吾は強いよ。私は弱い…』

「俺も弱いよ」

ぎゅっ、金吾は腕に力を込める

「俺達は弱いんだ。戦う事しか出来ない」

切なそうな、金吾の声

こんな声、聞いた事ない

「それでも戦うんだ。きっといつか救われる」

『そう…だといいな』

血まみれの私達が救いを求める

私達は、救われるのかな


それが愚かと分かっていても
(願わずにはいられない)


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