Short Story

□あの日の想いを告げたくて
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『ねぇ、伊助。またあの夢を見たの』

唐突にそう言い出した僕の幼馴染み

まだ10月だというのに、最近寒くなってきて

寒がりの絢乃は僕よりも寒そうだ

『今日は、新しい人が出てきてね。先輩って呼んでたよ』

名前忘れちゃったけど…、と寂しそうに呟く

『私、髪結ってもらってたよ。その人、凄い上手でね〜』

絢乃は、室町からの無自覚転生

僕は、ちゃんと覚えている

今絢乃が話しているのが、タカ丸さんを指しているという事も

絢乃は、成長するにつれて夢で見る人物が増えてきた

小学校卒業までに、1年と2年を夢で見た

中学校卒業までには、3年生を

高校1年になってからは、既に4年生を全員夢で見ている

それでも思い出してくれないのは、何故なのか…

『伊助、聞いてた??』

「あ、うん」

僕の適当な返事が気にくわなかったのか、唇を尖らせる

『ちゃんと聞いてなかったでしょ』

「…ごめん」

『いいよ、もう。いつもの事だもん!!』

あ、拗ねた

高校1年にもなって、こんな事で拗ねてる

絢乃は、昔からこうだった

僕が忍たまの頃も、よく些細な事で拗ねては唇を尖らせていた

『っくしゅん!!』

小さなくしゃみが聞こえた

本当に寒がりな絢乃

「絢乃」

『…何?』

短く返ってきた返事

一歩前を歩いていた絢乃の左手を掴む

『伊助??』

不思議そうに首を傾げる

「風邪、ひきそうだから」

繋いで帰るよ、と言えば、頬を赤くする

これは嬉しい反応だな

『ありがと』

「どういたしまして」

絢乃の小さく冷たい手をぎゅっと握る

早く思い出してくれないかな…

何百年も前に、同じ事をしてるんだよ?

絢乃が思い出すまで、いつまででも待ってる


秘めた想いを告げたくて


あの時告げられなかった想い

この時代では告げるんだ




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