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□好きな相手の真実は
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僕は今信じられないモノを見た。

幼馴染から恋人へ昇格するのに僕がどれだけ悩んだのかあいつは分かってない!
たまたま塾の帰り道、別の道を通って帰ろうと思い立ったのがいけなかった。

賑やかな街並みを抜けながら目に入った人物に足が止まる。
高校生になった幼馴染は坊主頭からツンツンの短髪になり、色気づいて髪の色まで染めている。
身長は180位で、容姿も悪くない。
僕だって嫌いじゃないから悩んだけど付き合う事を了承したんだ。
なのに、なのに!!
女に腕を組まれて、照れた笑いのまま雑貨屋に吸い込まれていった。

イラついた気持ちのままマンションに帰り、母親の言葉におざなりに返した後ベッドにバッグを叩きつけた。
悔しいやら恥ずかしいやらの感情が混じって叫びたい衝動に駆られる。

「トオルちゃんどうしたの?」

控えめなノックの後に聞こえてきた母親の声にハッとする。
未だにイラつく気持ちは抑えられないが、正直な事を相談できる訳もなかった。

「ごめん、大丈夫…課題するから食事はいらないよ」
「そう?でも、おにぎり位作っておくから、お腹空いたら食べるのよ?」
「うん、ありがとう母さん」

遠ざかるスリッパの音を聞きながら髪をかきむしり、机に向かった。
参考書を開いてペン立ての中からシャーペンを取り出し取りかかろうとするが、先ほどの光景が頭から離れず何度もシャーペンの芯を折った。
全くはかどらない所か、参考書を破り捨ててしまいたい。

あれだけ毎日の様に好きだと言いながら、強引にキスをしてセックスまでして……それで最後はやっぱり女が良いって。
僕の一年間を返して欲しい。
端からやる気がなかった参考書から離れてバッグを掴み落としベッドに寝転がった。
僕は昔からプライドが高いんだ。
あいつだって知っている筈だろう?
二股とか許してもらえると思っているんだろうか?
それとも見つからないとでも思っていたのか?

あんな尻軽な奴にいつの間にか心を許してしまった自分が憎い。
何故僕がこんな思いをしなきゃいけない。
寝返りを打ち目を閉じて上布団に顔を埋めた。
泣くもんか。絶対に泣いてやるもんか。
熱くなる目頭を誤魔化す為に深く深く上布団に顔を埋めた。


「ん…」

ぼーっとしたままゆっくり目を開いた。
明かりが付いたままの自分の部屋。
あのまま寝てしまったのか……
顔を動かして机に置かれた時計に目をやると、夜中の2時を差していた。

身体を起こして、ため息をつきながら風呂場に行きシャワーを浴びた後戻った部屋で充電器が目に着いた。
そういえばバッグの中に入れたままだったな。
思いながら携帯を取り出し挿し込もうとした時に、初めてメールが来ているのに気付いた。
開いて中を確認すると、先ほどまで僕をイラつかせていたしんのすけからで、見ずに消してやろうとも思ったが気になって開いてしまった。

『トオルちゃ〜ん昨日ぶりぶりぃー今週の日曜日空いてる?一緒に映画見に行こうよ』

何時もと変わらないバカバカしいメール。
あいつは僕があの場所に居たとは思っていないだろうな。
タオルで頭の水気を取りながら送信せずに携帯を閉じて充電器に挿した。

少し寝て、シャワー浴びて気持ちが少しだけ冷静さを取り戻した。
簡単な事だ。
別れればいい。
しんのすけは女を選んで、僕は勉強に集中する。
それで良いじゃないか。
もうすぐ大学生になる。そうなれば遠くの大学を受けて一人暮らし出来るし、離れればしんのすけと会わなくなる。
すぐお互いの気持ちなんて薄らいで忘れていくだろう。

僕達の関係は一時の気の迷いだったんだ。

何度も言い聞かせながら布団に潜り込んで本格的な眠りについた。


次の日の朝、母親に起こされて準備をしていると携帯が鳴った。
ちらりと目をやるとしんのすけの名前が映し出される。
メールを返さなかったから来たんだろう。
朝ごはんを食べ、弁当を入れた鞄を持ちマンションを出た。
出勤者や通学者でごった返す改札を抜けて電車を待ちながら携帯を開いた。

『おはよぉ〜メール見てくれた?ね、行こうよ映画』

朝から賑やかな絵文字が並ぶディスプレイに溜息をつき返信メールを打った。

『お前に付き合い切れない。もう二度とメールしないでくれ。別れよう』

何時もの様に絵文字も顔文字も使わず送信すると、一分と経たずにメールが返ってきた。

『なんで?おれなにかした?』

急いで打ったのか漢字も絵文字もない。
多少は慌ててくれなきゃ困る。僕は昨日散々お前に悩まされた。
僕がお前の浮気に気付いてないとでも思っているのか?実際昨日まで気付いてなかったが…

来た電車に乗り込み、ぎゅうぎゅう押されながらしんのすけの名前をアドレスから削除した。
思いつく言葉もないのに適当にメアドも変えて、携帯を鞄に入れた。

簡単だ。簡単すぎて何故か泣きたくなった。

認めたくなかったけど、僕はだいぶしんのすけの事を好きだったのかもしれない。
身の入らない授業を終えて何時もの様に正門に向かって歩いていたら、見慣れた人物が居て足を止めた。

きょろきょろと落ち着きなく辺りを見回しているのは紛れもなく幼馴染のしんのすけだ。
僕はUターンして下駄箱に戻った。
まさかこんな所まで来るなんて思っていなかった。
教室に戻り塾へはそのまま行こうと考えて正門を眺めていた。

まだらになっていく人波の中、しんのすけは中々帰らない。
早く諦めてくれればいいのに…
知らない誰かに話しかけては元の場所に戻り下駄箱辺りをじっと見ている。
だんだん夕日が落ちて暗くなってきた。
流石にそろそろ塾に向かわなければ遅刻してしまう。

けれど、しんのすけは未だにそこに居た。
裏門がないうちの高校でも抜け道位はあった筈だと腰を上げてゆっくり下駄箱に着いた頃、振り返った人物と目があった。

「風間くん!!」
「っ…」

何でこんな所にまで入って来ているんだよ!
思わず踵を返して全力で走った。
遠くから聞こえてくるしんのすけの声を無視して自分の教室に戻った。
ばくばくと鳴る心臓を抑え、必死で荒くなった呼吸を整えた。

ぱたぱたと走ってくる音がする。
僕が居る教室でその音は止まって、同じように荒い息がドア越しに聞こえた。
擦りガラスな廊下側の窓からは中が覗けない様になっているから、しんのすけには僕が見えない。
それでも僕がここに居ると確信しているのか引き戸がゆっくり開かれようとしていた。

ガンッ

っと思わずドアを抑え込み開くのを阻止した。

「風間くんでしょ?何でいきなり別れるとかいうの?理由教えてよ!!」
「自分の胸に手をあてて聞いてみろよ!」
「分んないよ!メールも送れなくなるし、電話にも出てくれない…俺はこんなに風間くんの事好きなのに!!」

その言葉に思わずカッとなって自らドアを開けてしんのすけを見た。

「僕の事が好きっだって!?お前の好きは信用出来ない!」
「好きだよ!こんなに好きなのは風間くんだけだもんっ」
「どーだかっ!女にもそう言って落として来たんだろう?」
「女?」
「そーだよ!僕が知らないとでも思ったかよ!?浮気するんならもっと上手くやるんだったな!それとも何か?僕の方が浮気だったのか?だったら尚更二度と僕の前に姿を現すな!!」
「ま、待って風間くん!浮気って何?そんなのした事無いよ!?」

ここまで言っても知らを切るつもりなんだと、怒りが収まらない。
した事無いって、じゃあ昨日のあれは何だ?ただの女友達と親しそうに腕を組んで放課後遊びに行くのかよ!?
言いたい事は山ほどあるのに怒りの感情が先だって上手く言葉に出来ない。
一気に吐き出した言葉に、折角整えた息がすっかり荒くなっていた。

「風間くん…本当だよ?俺、風間くんと付き合ってから他の誰かとなんて付き合ってない。信じて?」

力強く腕を掴まれて戦慄いた。
身体を翻し、腕から逃げようとしたけどもう片方も掴まれてドアに身体を押さえつけられる。

「信じて、風間くん」

俯かせた顔の近くにしんのすけの息遣いを感じて、囁くように耳元で言われた言葉に心臓が走り出す。

「僕は昨日見てるんだよ…お前が女と親しそうに歩いてるのを……」
「え?」
「雑貨屋に入っていっただろう!!僕は塾の帰りに見てるんだよ!親しそうに腕まで組んでっ」

まじかにあるしんのすけの顔を睨みつけると、驚いたような表情の後それを笑顔に変えた。
ムカついて振り払おうと暴れた身体を押さえつけられる。

「風間くん、その女の子の顔までは見なかったんだ」

沢山人だっていたし、僕が気付いたのはしんのすけだけで、後ろ姿しか見ていない。

「あれ、ねねちゃんだよ?初めてパーマ掛けたからお出かけ付き合ってって言われて付き合っただけ」
「ね、ねねちゃん?」
「そうだよ?ほら、昨日の日付のプリクラ」

出された生徒手帳にしっかりと貼られたそれが目に入る。
ふわふわの髪は見た事無いが、正面は確かにねねちゃんだった。

「風間くんやきもち?焼いてくれたんだ」
「う、うるさい!!」
「嬉しい!俺ばっかりが好きだと思ってたけど、風間くんも俺の事好きだったんだね!」
「言うな!馬鹿しんのすけ!!」

恥ずかしい。確かめる機会はあったのに思いつかない程血が上っていた。
そんな可能性微塵も思わなかった。
あまりの恥ずかしさに身体を捩り、振り払って教室の奥へ逃げた。

「風間くん大好き!」

はがい締めされて逃げようともがくけど、上手く逃げ出せない。

「トオル…」

背後から囁かれた言葉にドクンと胸が跳ねあがった。
しんのすけが名前で呼ぶこと自体滅多になくて、僕はそれだけでいつも落ち着かなくなる。
首筋に温かい物が押しつけられて肩が揺れる。

「本当にトオルだけだよ?よそ見なんてしてる暇がない位溺れてる」
「馬鹿だろ…こんな男に惚れて」
「好きなままでいたいからバカでもいいや」

小さく笑ったしんのすけを睨む為に振り向いた身体を、そのまま反転させられて唇を重ねられた。
唇から伝わる温もりに怒っていた筈の感情が四散していくのが分かる。
僕は何て単純なんだろう。

何度か唇を重ねながらしんのすけの首に腕を回すと、しんのすけも俺の腰に腕を回しながら深く唇を合わせていく。
角度を変えながら何度も何度も……


実感させられる。

僕はこんなにもしんのすけが好きなんだと……



おわり

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