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□暴風雨と静寂
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しんのすけが突然うちに来た。
外は暴風雨で傘だって殆ど役にはたたないだろう、そんな休みの夕方。

「びしょ濡れじゃないか!しんのすけ!!」

本当に頭のてっぺんから足先まで水浸しで、慌ててタオルを持ってきた。
僕たちの仲は相変わらずのまま高校生になって、お互い違う学校に通っている。
それでも疎遠にならないのは僕じゃない、他のメンバーがマメだからだ。
別に会う約束などしていなかったのに、しんのすけは渡したタオルで髪を拭い目の前にいる。

「話は後で聞いてやるから、取り敢えず風呂入れよ」

ぐいっと引っ張った腕を振り解かれて、唐突に抱きしめられた。
大きく跳ねた心臓は、断続的に強く脈打つ。

「な、何してるんだよ……冷たいだろ」
「好き……風間君が好き。変だっていうのは分かってるけど、やっぱり気持ちを変えるなんて出来なかったよ」

僅かに力を込めた腕が思いの丈なんだろうか?

ふりほどけない。

しんのすけの熱い息遣いが耳元に伝わって、僕まで身体が火照っていく気がした。

「幼なじみだって何度も言い聞かせて女の子と沢山付き合ってきた……でも、キスする時、えっちする時浮かぶのは風間君の姿で………もう誤魔化せないんだ」
「だからって何でこんな日に……」
「さっき電話口で別れ話になってね、『自分の気持ち誤魔化すのやめたら?』って言われた…俺、寝言で良く風間君の名前言ってるみたいで、毎回女の子から誰?って聞かれてたんだけど笑って誤魔化してたんだ……別れる原因ナンバーワン」

しんのすけの濡れた服から、雨水がじんわり僕の服を濡らしているのを感じる。
冷たくなる筈の身体が熱い。

「別れ話してるその時でさえ、風間君の事を考えてた……そしたら凄く会いたくなって走ってきた」
「風邪引いたらどーすんだよ、馬鹿」
「心配してくれるんだ」

くつりと笑った振動が伝わってきた。
しんのすけが静かに話す事じたい珍しくて、激しく脈打つ心臓の音が静かな部屋に響いてるんじゃないかと恥ずかしくなる。

「冷たいんだよ、さっさと風呂入ってこいよ」
「うん………風間君」
「な、んっ」

僕の唇に柔らかい感触が降ってきた。
その時、初めてしんのすけの身体を押して抵抗した。
するっと離れた身体は未だに熱い。
手の甲で唇を拭ってしんのすけを睨むと、苦笑した顔があった。

「抱きしめて告っても跳ね退けなかったよね?脈あり?」
「っ、驚いたから「固まってた?嘘だよね?だって顔真っ赤だったもん」

しんのすけに言われて顔が更に火照った。
そんな僕をまた抱きしめてきて、逃げたいと思う反面、その熱を心地よいと思ってしまった。
前髪を横に流す様に梳かれ、顔を上げると黒い瞳と交差する。
外で吹き荒れる暴風雨の様に僕の心臓も激しく脈打っていた。
重なった唇から伝わる熱と気持ちが、僕の耳をおかしくさせる。


何度も繰り返したキスの音だけが部屋に響いた。



おわり

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