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□独り占め
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しんのすけに誘われてファーストフードに立ち寄った。
幼馴染としての付き合いでは10年越え、恋人同士になってもうすぐ半年。
しんのすけがまさか同じ高校に入学するなんて思っておらず、入学式の時遭遇して思わず幽霊かと思った。
僕はストレートで持ち上がりだが、しんのすけはかなり勉強を頑張ったらしい…そして告げられたのが「好き」の言葉。
最初は冗談だと思っていたし、まさかこんな事になるなんてその時は予想すらしていなかった。
のに、毎日の様に人目も憚らず告げられる言葉に絆されて付き合う事になった。
未だにキスだけっていう関係だが、幼稚園の頃だってそれ位していたのだから別に嫌悪はなかったし、むしろ昔より上手くなっているしんのすけに翻弄されてばかりいる。

ハンバーガーをトレーに乗せて2階に上がり二人で席に着いた。
思ったより混んでいない二人掛けの席でしんのすけの話に相槌を打ちながらハンバーガーを頬張る。
ちらちらと写る少し離れた場所の女子高生。
此方を見てテンションが上がっているその様子が不愉快で堪らない。
彼女たちはしんのすけの事で盛り上がっているんだろう。
中3辺りからぐんぐん伸び始めた身長はかなり高く、筋肉質な体付きは男の僕から見てもカッコいいと思うし加えてこの笑顔だ。
彼女たちが騒ぐのも無理ないだろう。
何だか凄く居心地が悪く感じて咀嚼していたハンバーガーをストレートティーで喉に押し込んだ。

「何かヤダな…」

ぽつりと零したしんのすけの言葉に小さく首を傾げた。

「何が嫌なんだよ」
「だって、さっきからあの子達風間くんの事すっごい見てる。俺のなのに…」
「はぁ??!あの子達が見てるのはお前だろしんのすけ!」
「違うよ!風間くん分ってないなぁ〜自分がどれだけ綺麗なのか少しは自覚してよ」
「綺麗って何だよ?馬鹿にしてるのか?」

男に対しての言葉じゃないだろそれ!ムスッと顔を顰めてしんのすけを睨むと、眉をハの字に曲げたしんのすけが唇を尖らせながら「馬鹿になんかしてない」といい大きな口を開けてハンバーガーを頬張った。

「風間くんは綺麗だよ誰よりも…凛としてて男前な性格してるし他の人には凄く優しいし…」
「…お前っ「だから俺だけじゃない色んな人が風間くんを好きになる」
「……」

炭酸飲料が入っている紙コップを吸い上げてる。
そんなしんのすけの態度は見るからに元気がなくなっているけど、慰める気なんか起きない。
だって、あの子達は明らかにしんのすけを見ている。
しんのすけの方が自覚していないとしか思えない。
こんな時に気付くなんて最悪だ。
ただ絆されて流れのまま付き合っているんだとばかり思っていた。

でも、僕もしんのすけの事好きだったんだ。
好きになっていたんだ。いつの間にか……こんな風に名前も知らない女の子達に嫉妬してしまう位に。

「馬鹿野郎…お前の方が鈍いんだよ。あの子達の目線の先が誰を見てるのか分かれ」
「…分った。そんなに言うなら聞いてくる…風間くんを見てたのか俺を見てたのか…」

そう言ってガタっと椅子をずらして立ち上がるしんのすけに慌てた。
だって、もともと女の子が好きなしんのすけだ。
そのまま僕の方に戻ってこないかもしれないじゃないか!
テーブルに着いていた手が離れそうになった瞬間咄嗟にそれを掴んだ。

「風間くん?」
「行くな馬鹿。行ったら僕は一人で帰るからな」

恥ずかしい事を言っている自覚がある分しんのすけの顔なんて見れない。
それでも、行ってほしくなくて掴んだ手に力を込めた。

「うん行かない」

言われた言葉に思わずしんのすけを見ると、満面の笑みで僕の事を見ていた。
その表情に恥ずかしさが一気に噴き出して顔が熱くなり顔を逸らした。
パッと手を離すとしんのすけは椅子に座りなおして可笑しそうに笑った。

「何だよっ」
「んーん…風間くん可愛い」
「…可愛い訳ないだろ」

こんな素直じゃない自分が可愛いなんておかしいだろ?

「あ」

しんのすけの言葉に釣られて逸らしていた顔をしんのすけに向けた瞬間軽く唇に柔らかい物が触れた。
それが何か分った瞬間、目撃したんだろう数名の黄色い声が店内に響いた。

「な、なっ…「ケチャップついてたから」

そう言って笑うしんのすけの頭を思いっきり叩いた。
何で人目も憚らず堂々とキスなんて出来るんだよ!?思い出しただけで顔から火が出そうなくらい恥ずかしくて席を立った。

「ちょっと待ってよ〜風間くん!!」
「誰が待つか!!」

店を出ると、ととっと隣についたしんのすけを横目でチラッとだけ見て足を速めた。

「そんなに怒らなくても良いでしょお」
「あれが怒らずにいられるかよ!馬鹿馬鹿馬鹿っ」
「でも、そんな馬鹿な俺の事好きでしょ?あんな行動とった風間くん初めて見た!愛されてる!って思ったらすっごくキスしたくなったんだもん!」
「だもんってお前…あ〜もう!馬鹿は僕だよ!何でこんな奴好きになったんだよ!」

思わず頭を抱えたくなってくる。
それでもしんのすけは気にする事無く僕の手に自分の手を繋いできて嬉しそうに歩いてる。

「風間くんから好きって言われたの初めて!」

なんて嬉しそうに笑うものだからため息しか出ない。
怒鳴りたい…なのにこんな風に嬉しそうにされたら苛立ちより嬉しさの方が勝ってしまう。
悔しいのに嫌じゃない感覚に思わず小さく笑いが出た。




おわり

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