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□三毒に始まり君に終わる
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「……ご、ごめん」
「ええよ……俺も何やいきなりごめんなぁ」
「あの……痛いか?」
「そりゃ痛ない言うたら嘘やね」
「ごめん……」
「いや……大丈夫やて」
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「志摩さん、今日学校行かへんの?間に合わんようになるよ?」
「んー……」
「なんや、どっか具合でも悪いんか?」
「ん……」
もぞもぞと布団に潜る志摩に、勝呂と子猫丸が訝しげに顔を見合わせる。特別寝汚いというわけでもない志摩が、ここまでぐずるのは珍しかった。
「先生には俺から言うとくから、具合よぉなったら来るんやぞ」
「塾の前に一回坊と戻ってくるさかい、ちゃんと寝といてくださいね」
「……えろうすんません」
ぼそりと言った志摩に肩を竦めた勝呂が子猫丸を促して寮の自室を後にする。
「志摩さん昨日帰ってきたの遅かったやないですか。なんや殴られはったような跡もあったし。どないしたんでしょ」
「普段やったらぺらぺら話しそうなもんやけどな。言いとうないことなら、無理に聞くこともないやろ」
「大したことないとええんですけどね」
うーん、と考え込む子猫丸に勝呂も何が原因かと思い巡らせる。昨夜遅くに帰ってきた志摩は左の頬を腫らしていて、風呂にも入らず夕飯も食べずに寝てしまった。
「あ、奥村くんおはよう。朝から会うんは珍しいね」
「お早う」
「お、おはよう……」
子猫丸が声をかけた途端にビクリと肩を震わせた燐が、きょろきょろと辺りを見回す。その目の下には薄く隈が出来ていて、勝呂が眉根を寄せる。
そういえば昨日の放課後、志摩はでれでれの顔で「今日は奥村くんと遊ぶんやー」と言っていなかったか、そう思い出した勝呂が口を開くより先に燐が声をあげた。
「し、志摩は!一緒じゃないのか?」
「志摩さん、なんや今日は学校行きたないみたいなんよ。奥村くん、なんか知らへん?」
びくっ、と燐の腹部が跳ねる。おおかた身体に巻きつけて隠している尻尾が緊張したせいだろう。大体に、奥村兄弟が住んでいる旧男子寮から登校するのにこの道は通らない。「えっと……」と言い淀んでいる燐に、勝呂は大げさに溜め息を吐いた。
「ええ加減にせぇよお前は。どんだけ問題起こしたら気がすむんや」
「坊、どないしたんですか、いきなり……」
「ごめん……」
「どうせお前も学校サボる気やろ。402号室や」
ポケットから取り出した鍵を燐の手に半ば強引に握らせた勝呂は、そのままスタスタと歩きだす。状況が飲みこめない子猫丸が疑問符を飛ばしながら勝呂の背を追う。
「ちょっ、坊?!」
「アホらに付きおうて遅刻したら敵わんわ」
「勝呂っ、ありがと!!」
「失くしたらしばき倒すからな」
後ろ手を振りながら去る勝呂に、燐がぎゅっと鍵を握る。歩きながら振りかえる子猫丸に手を振って、踵を返した。
「坊、話が見えへんのですけど……」
「俺かてよう分からんわ。アホらがアホなことやっとるだけやろ。気にしたら負けや」
「はぁ……」
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