書庫

□夏は日向を行け!
1ページ/1ページ







「なんかえぇ匂いしてきたわぁ。ほんま奥村くん、えぇ嫁になるよ?」

「あーもうあっちぃよ志摩!お前もう座っとけ!寄るな!」

「うわぁ、何やのそれ、めっちゃ傷つくわ……」

ギロっと睨みつけてくる燐にあははと笑いを返した志摩は、手際よくフライパンに投入されていく具材を後ろから覗きこむ。なんやかんやで色々片付いた休日、志摩が強請りに強請って燐に昼食を作ってもらっている最中だ。


「こんなんお前が好きなオンナノコに頼めばいいだろー?なんで野郎の飯なんて食いたいんだよー」

「せやかて神木さんも杜山さんも料理できへんやないの。それに俺は奥村くんのがええのや!」

「まぁ、俺の料理はサイコーにうめぇけどな!ってか、お前しえみと麿眉以外に女の友達いねぇの……?」

「なんやのその憐れみに満ちた目ぇわ!おるよ?おるけど奥村くんがええの!」

「ふーん、まぁいいけどよ。っつーか暑い、まじで暑い」

後ろからべたべたと抱きついてくる志摩に肘鉄を食らわせた燐が、額の汗を拭う。二人分の炒飯をパラパラと炒めながら、尻を撫でてくる志摩に眉根を寄せた。


「あーほんまええ匂いー、奥村くん腹減ったー」

「だから今作ってんだろーが!見えねーのかアホ!アホ志摩!」

「そんなきっついとこもええわぁ。俺、可愛い嫁さんにやったら尻に敷かれてもええ!」

「おめーの好みなんか知るかアホ!」

「てぇか今日、奥村せんせはどないしてん?こないなとこ見られたら頭ぱーん打ち抜かれそうやわ。こわこわ」

ぶるっと背を震わせた志摩が暑さにも負けず燐に擦り寄る。ぱたぱたと揺れる尻尾に目を細めて、燐の肩に額を寄せた。


「あんな黒子眼鏡しるか!」

「黒子眼鏡て……なんや、喧嘩でもしはったん?まぁ珍しゅうもないけど」

「喧嘩じゃねーよ!俺に内緒で仕事行きやがったんだよ!」

「せやかて、今日は奥村くん俺と約束してましたやん。え、なに?奥村せんせが仕事行くぅ言うて行きはったら一緒に行くつもりだったん?え、ひどっ!」

酷いぃぃいと叫びながら大げさに蹲る志摩を冷めた目で見下ろした燐がふんっと鼻を鳴らす。


「いくら相手が志摩でも、俺は約束は破んねーよ」

「今さらっと酷いこと言いいはりませんでした?ねぇ!」

「だから違ぇーっての!行くとき声かけなかったのが嫌なの!あいつの仕事とか、なんか危ねーのばっかじゃん」

「ふーん……奥村くんはほんま奥村せんせのこと好きなんやねぇ、妬けるわぁ」

ゲシゲシと蹴られながら、料理の妨害でもするように腰に抱きついた志摩は、テレたように笑う燐を見上げて口を尖らせる。


「兄弟なんてそんなもんだろ。っつーか奥村奥村うっせーよ」

「燐くんって呼んでほしいん?ほなそうするわぁ、燐くん燐くーん」

「きもいわボケ志摩!っつーかケツ触んな、くすぐってー」

「えー、ええやん。なんか気持ちいねんもん」

だらしない顔でぐへへと笑った志摩を踏みつけて塩をとった燐が少し不安そうに志摩に視線をやる。


「やっぱ、変だよな」

「ん?何がですの?」

「尻尾だよ。気になんだろ?」

「へ?あぁ、尻尾ね。別にええんと違う?立派な萌え要素やわ!惜しむらくは耳が……」

そう言った志摩に、燐の尻尾がしゅんっと垂れる。燐本人も少し顔が曇り、志摩は首を傾げた。


「そうだよな、耳もなんかとんがってるし……」

「あぁ!ちゃうちゃう!猫耳やったら最強やわぁ思っただけやって!変とかそないな意味ちゃうからね?あ、でも奥村くんなら犬耳のが似合うんやないか?いや、兎も……うーん」

「この変態脳味噌が!」

「うわぁ……奥村くん俺が何言われても傷つかん思うてへん?まぁええけどね!俺は甘んじて受け入れますけどね!MにもSにもなれることで有名な男!志摩廉造です!」

「おい変態、皿だせ」

「はいよー」

なにやら鼻歌を歌いながら食器を取りに行く志摩に、燐はふぅっと溜め息を吐く。気持ち悪がられてないのなら、それで良かった。


「おっ、クロちゃんやないの!おいでー」

「そういや勝呂と子猫丸は?」

「さぁ、勉強でもしてはるんやないかなぁ。坊も子猫さんも真面目やから」

「お前が一番勉強しろよ!」

「奥村くんに言われたないわー。それに俺、騎士とろうかなー思うてん」

「はぁ?」

クロと戯れながらそう言った志摩を、フライパンをもったままの燐が勢いよく振り返った。ほい、と渡された皿を受け取りながら、何でと問いかければピンクがかった髪の毛をかき混ぜた志摩がテレたように笑う。


「奥村くんさぁ、祓魔師にも狙われるよーになるんやろ?」

「まぁなー。いいよ別に、そんなん覚悟してるし」

「せやからさ、詠唱騎士は人間には効かんけど、騎士やったら祓魔師とやって戦えるやん?したら奥村くんと同じ授業とれるし。俺キリク使うてるしな?あ、坊と子猫さんにはまだ話してへんから、これ内緒な?」

しーっと人差し指を口に充てて笑う志摩に、燐はぱちぱちと目を見開く。そのわりに尻尾はぶんぶんと振れていて、クロがそれにじゃれついて遊ぶ始末だ。


「お、俺のため?」

「あー、そんな気負わんといてぇや。俺勉強出来へんし、詠唱騎士はあってへんってのが一番の理由やしなぁ。まぁ、奥村くん護りたいー思うたのはほんまやけど」

「志摩……お前、いいやつだな!」

「え?あ、うん……え?それだけ?!」

志摩、大好き!俺もや奥村くん!という展開を予想していた志摩がぽかんと口を開ける。


「え?何が?仲間ってことだろ?これは俺てきカッコいい奴ランキングをちょっと直さなきゃな……志摩を書いて、雪男は下げてやる!」

「いや、あの奥村くん?」

「あ、もう出来たから手洗えよー。クロ、お前なに食う?刺身あんぞ!」

『刺身!』

「よーし待ってろー、今出してやるからな」

アピールを完全に無視して冷蔵庫にむかう燐に、盛大な溜め息を吐いた志摩は素直に台所で手を洗う。馬鹿力をどこの星の人だと揶揄したことはあったが、この鈍感さと言葉の通じなさは一体どこの国の人だろうと心中毒づく。


「なぁ志摩ぁ」

「なんや奥村くん」

「ありがとな!」

ニカっと笑ってそう言う燐に、まぁいいかと絆される志摩であった。








(あぁもう好きや奥村くん!)

(俺も志摩んこと好きだぞー!)

(いや、うん……多分奥村くんの思うてんのと違う意味で……)

(違う?!何が?!)

(あの……なんていうかほら、女の子に言う好きーとおんなし意味みたいな)

(お前、しえみも麿眉もシュラも好きなんだろ?俺も好きだぞ?)

(うん、もうええわ……俺が悪かったわ……)









おわり

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ