頂物
□Bitter
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バレンタインとは現世の行事。女が男に、恋する人に、そうでなくてもお世話になっている人とかに、
プレゼントを渡す日。なんだけど…
「甘いもの好きですか?」
「はいはーい!あたし好きだよ〜!」
更木隊長に聞いたのに、側にいた草鹿副隊長が答えてくれた。
こんな時の為に用意しといてよかった。
あたしは懐からコンペイトウの袋を出して副隊長に与え、詰所の戸棚にはもっとありますよ…と教えてあげる。嘘だけど
案の定、お菓子が大好物な副隊長はピュンっと廊下に飛び出して、猛スピードで走り去ってくれた。
残ったのはあたしと隊長の二人だけ。ここは更木隊長の私室。
「あの、改めて…甘いもの好きですか?」
「……あ?それがどーした」
ごもっともなお返事です。が、今は答えてくれないと困るんです。
「バレンタインですから」
「ばれん…何だ?」
どうやら隊長はバレンタインを知らない様子で、そいつは強ぇのか?とか意味のわからないことを言いだしている。
そうですよね。強ければ嬉しいですよね。喧嘩とか大好きですもんね。
「強い…訳ないじゃないですか。現世の行事でそーゆーのがあるんです」
そう言うと、隊長は少し残念そうにチッと舌打ちをした。
知るかそんなモン…と言いたげな顔に、後ろに隠し持った小箱を出しそびれてしまう。
「あ、えと…」
無言で見下ろしてくる視線があまりにも威圧的で、あたしは内心後悔し始めていた。
やめときゃ良かった。
あわよくいえば告白〜なんて…甘い考えだったな。
毎日戦うことしか考えてない隊長が、現世の行事なんて知ってるはずがなかったんだ。バレンタインの意味だって、もちろん知ってる訳がない。
「現世では、2月14日に女性が男性に贈り物をするんです」
贈り物をする理由は省いて妥当なことを話した。
別に嘘は教えてないし、間違ってはいない。
すると隊長はハンッと鼻で軽く笑い、面倒そうに右手で首筋の左側を掻きながら、あぁ…と小さく呟いた。
「毎年毎年、一角やら弓親やらに女共から届くアレか」
そうだ。毎年この時期になると、十一番隊でもズバ抜けて人気のある彼らに女性陣からチョコが届く。
あたしも例外なく贈った一人なんだから、それはよく知ってる。
ただ隊長には渡さなかった。意識し始めたのは最近だし、去年はまだ恐れの方が勝っていたから
だけど今年は…
「知らねぇのか。あいつらが貰った菓子は全部、やちるが始末してやがる」
ガン!と頭に衝撃。始末ってことは「食べられてしまった」の意。
じゃーあたしが以前2人にあげたチョコたちも、副隊長の底知れぬ胃袋に収まってしまったのか…知らなかった。
「た、隊長も…いつも副隊長に食べてもらってるんですか?」
「俺ァ菓子なんか貰った覚えもねぇ」
そー言えば、今まで隊長の所に贈り物をしに来た女の人は見たことがない。
モテない…わけじゃないと思うんだけど、あたしみたいに隠れファンはいると思うし。
だけどやっぱり人を寄せ付けないオーラを持った人だから
あたしは今それに立ち向かおうとしてるんだから。
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