小説U

□水辺月夜の歌
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Not夢小説/前Top下掲載/詩
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耳をすませば唄が聞こえた。ひとり囁く儚き唄。それは静かな湖面に震える、空想の黒蝶のような。触れれば消ゆる、幻の花のような。君は悲しい色した空を見上げる、涙が零れ落ちないように。現なのか、確かめたくてそっと君へと手を伸ばした。僅かそれだけの距離。掴めたと思った、のに。

月光の波が満ちて引き、灰色を追って紅が空に射す。無音の音。君の切々たる恋の唄も、もう響きはしない。あれは夢なのか、それとも現なのか。幻だったのか、それとも現の夢だったのか。空の空を掴んだ掌を見つめた。彼女の涙の理由は一体何だったのだろうか。幾つもの疑問が生まれるが、それらの解など知る術を僕は知らない。しかし解ることは唯一つ。僕はあの唄と、



( き み を 忘 れ な い )






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